第152話 勇者召喚魔法


 俺たちは王宮の連中が直立して畏まっている中を、軽く会釈しながら、そのまま玉座の間に入っていった。


「陛下お帰りなさいませ」


 正装したジーンたちが俺たちを迎えてくれた。タートル号が王都の手前で停止していたことは承知していただろうし、今朝王都に俺たちが帰って来たことは知っているはずなので順当な出迎えだろう。


 俺は玉座に座り、右手にトルシェ、左手にアズラン。マリアはアズランの前に立たせた。黒ちゃんは俺の玉座の後ろに控えている。サティアスオウムの鳥かごは玉座の間の入り口に置いいる。タートル号はサティアスオウムの向かいで座っている。


「北の問題は片付けてきた。みんな安心しろ。ただ、完全に問題が片付いたわけではない」


 その後、魔界ゲートについて一連の説明をみんなにしておいた。


「なんと、魔族という異界のものが押し寄せてきていたのですか?」


「そういうことだ。それで、ジーナにはこの剣を渡しておく。名まえは無いが聖なる剣、聖剣だ。この聖剣があれば魔界ゲートを閉じることができる。ただ、その聖剣を使えるのは女神である俺以外では、勇者という職業を持った者だけのようだ」


 聖剣を両手で受け取ったジーナが、


「聖剣は分かりますが、勇者とは?」


「勇者という言葉は、なじみがないかもしれないが、逆に考えると、その聖剣を使うことのできる者が勇者ということになる」


「なるほど、理解いたしました」


「とはいえ、簡単に勇者を見つけることはできない」


「それでは、どうすれば?」


「トルシェ、勇者を召喚する魔法って作れるよな?」


 すっかりトルシェに勇者の召喚魔法を作ってもらうのを忘れていた。どうせトルシェのことだからあっさり簡単に作ってくれるだろう。


「勇者について具体的なイメージが湧かないので今のところは何とも」


 あれ? 予想に反して天才トルシェが否定的だった。説明が足りなかったか?


「そうだなー。どっか遠い世界にいる適当なヤツをさらってくると、その世界からこの世界にやってくる途中で、何だか勝手にソイツが勇者になってしまうんだ。というふうに考えてくれ」


「ということは、何だかわからないけれど、すごーく遠い世界から人一人を攫ってくればいいってこと?」


「まさにその通り」


「それなら、何とかできるかも? 普通の召喚でもいろんな世界から適当に召喚してるから、召喚対象を人間に代えるだけなら簡単にできるかな。込める魔力を大きくすればかなり遠い世界からでも召喚できるはずだし」


「それじゃあ、それで魔法を作って、ここの王宮の誰かに教えてやってくれ」


「ただ、すごく魔力を込めなくちゃいけないから、一般人じゃその魔法は使えないんじゃないかな」


「それはマズいな。それだとトルシェが毎回勇者を召喚することになるぞ」


「わたし以外となると、ダークンさんの加護を受けたマリアならいけるんじゃないかな。マリアの子孫も何とかなりそう。ただ、子孫だと一度その魔法を使ってしまうと魔力が完全枯渇して最悪魔術が使えなる可能性もあるけど」


「一回使えばしばらく大丈夫なんだし、一般人は魔法も使えない人間が大勢いるんだろ? 少々不便になっても死ぬわけでもないならそれでいいんじゃないか。そのうちマリアにその魔法をちゃんと・・・・教えておいてやれよ。くれぐれも分かりやすくな」


「やだなー。わたしが教えれば、誰だってたいていの魔法くらい覚えますよ」


 前回、散々だったことはすでに記憶の彼方に飛んで行ったらしい。それでも時間さえかければ何とかできると思う。というか、本職の魔法の教師に頼んでマリアに魔法の基礎を教えてもらったあと、トルシェが教えれば何とかなりそうだ。



「それで、ジーナ」


「はい」


「アズランの前に立っている女の子は俺たちが今回の遠征で助け出した子だ。名まえはマリア・アデレードという。お前が責任をもってこの子を育てるんだ」


「はい」


「そのうちにトルシェが勇者召喚魔法をマリアに教えるから、その前にマリアに魔術師の家庭教師をつけてある程度の魔術が使えるようにしてやってくれ。ある程度の魔術の素養がないと大賢者・・・トルシェからの魔法の伝授が難しくなるからな」


 大賢者という言葉を聞いてトルシェが分かりやすくニヤニヤし始めた。本当にこれが大賢者でいいのだろうか?


「承りました」


「あともう一つ。いろいろあってあきたので、マリアを俺の後継者とすることに決めた。今日で俺はこの国の女王を引退するから、マリアが今日から女王さまだ。すぐには女王の仕事は無理だろうからマリアが成人するまで、マリアのそっちの方の教育を頼む。そういう訳なので今日からジーナは執政官から摂政ということになるな。マリアを助けてこの国を大きく盛り上げていってくれ」


「かしこまりました」


「そーだなー。せっかく新女王さまが誕生したんだから、この際、国の名前も新しくして新女王のお披露目もかねて戴冠式とパレードでもしてみるか」


「国名まで変えるのですか?」


「何か問題があるのか?」


「いえ、ありません」


「国名は、マリアの名字のアデレードでいいか。アデレート王国。なかなかいいじゃないか。それじゃあ、そういうことで頼む。そういえば以前あずかっていたハンコを返しておく。これがないとそれなりに困るだろ?」


 以前貰った国印をジーナに返しておいた。


「は、はい」


「それと裏切り者の処分の方はどうなっている?」


「王都から近い者から順に呼び寄せ逮捕しています」


「そいつらは処刑するついでに財産は没収だよな?」


「その通りです」


「戴冠式は何かと物入りだろうから、ちょうどよかったじゃないか?」


 俺は玉座から立ち上がり、


「マリア、きょうからこの椅子はお前のものだ。しっかり勉強していい女王さまになってくれ」


 一連の流れを聞いていたはずのマリアだが、いきなり女王さまになってしまったことに目を見開いて固まっていたようだ。自力歩行が困難になったようなので、アズランがマリアの手を引いて、玉座に座らせてやった。


「マリア自身にも個人的な兵隊がいた方が安心だろう。トルシェ、マリアの親衛隊としてブラックスケルトンナイトを十体くらい召喚してやってくれ」


「はーい」


 ガシャガシャと音を立てて十体の真っ黒いスケルトンが玉座の間に召喚され、玉座の後ろに立つ黒テカ黒ちゃんの左右に五体ずつ短槍とタワーシールドを持って並んだ。それはそれで壮観だ。


「これで、マリアを物理的に害するヤツは出てこないはずだ」


「ダークンさん、これでマリアと別れちゃうんですか?」


「俺たちには大神殿があるから、まだセントラルにしばらくいなければならない。その間アズランは様子を見にきてやればいい」


「そうします」


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