第153話 テルミナへ


 国名変更はその日のうちに王都内に布告が出され、王都内にある各国の大使館などにも知らされた。それと同時に国内各所にも国王の交代と国名の変更を知らせる早馬が送られた。


 新女王の戴冠式は一週間後と俺は言ったのだが、さすがに一週間では準備できないそうで一カ月後ということになった。そのころには少なくともハイデンを叩き潰しているはずなので祝いの手土産てみやげになってちょうどいいだろう。


 俺たちは不安そうなマリアを残して宮殿を後にしたのだが、どうもアズランはマリアのことが心配らしく、


「しばらくマリアと一緒にいます」


 そう言って、フェアと一緒に宮殿に戻っていってしまった。


「眷属のアズランなら俺たちがどこにいるのか分かるだろうから、気が済んだら戻ってこい」


 そう言っておいた。



 王宮を出た俺とトルシェはタートル号と鳥かごを持った黒ちゃんを従えて、大神殿の工事の進捗などを確認するため、リスト商会に顔を出すことにした。


 リスト商会の道順ははっきり覚えていなかったのだが、そんなに複雑でもなく大通りを進んで、一度大きな道との交差点で折れ曲がっただけで到着することができた。



「これはこれは女神さま」


 俺たちが店に入っていく前から、商会長のリストと娘のマレーネを先頭に、今まで見たことのないような大勢の店員たちが整列して俺たちを出迎えてくれた。


 繁盛しているようで何より。しかも全員揃って俺に向かって礼拝したものだから、その気持ちよさに危うく白目を剥きそうになった。


 俺たちはそのまま応接室の通された。以前来た時からそんなに日にちは経っていないはずだが、調度品が豪華になっている? すぐにお茶が店の者によって運ばれてきた。


「女神さまのおかげで、当商会はいまや王国御用商会。ありがとうございます。しかも先日の騒動のおかげで大きく儲けることができました。重ね重ねありがとうございます」


 部屋に入ってそうそう、親父のリスト商会長と娘のマレーネに深々と頭を下げられた。


「それは良かったじゃないか。儲かっているようなら、他の信者の連中にもよくしてやってくれ」


「それはもう十分心得ております」


「新しい情報として、一月後になるが新女王の戴冠式が行われる。その準備にそれなりに人とモノとカネが動くだろうな」


「あらたな情報ありがとうございます。その新女王というのは? 女神さまはこの国の女王さまをお辞めになって隠居なさるのですか?」


「まあ、そんなところだ。国の名前もきょうからアデレート王国になった。何か不都合でもあるか?」


「急なお話ですが、国名の方はいかようでも我々には影響ないと思いますので問題ありません」


「ところで、神殿の方はどうなっている?」


「資金に十分な余裕がありますので、工賃を上げたところ、整地の方はかなり進んでおります。測量もじき入るようですし、完成予想図も何種類か作らせておりますので、そちらはそろそろでき上ると思います」


「楽しみだな。だいたいのことは分かった。それでは我々はここらでおいとましよう」


「それではお見送りさせていただきます」


 店の連中に見送られた俺たちは通りに出たのだが、予定はもうない。


「次は魔術師ギルドに行ってみるか? トルシェ2号に言って、魔術師ギルドから適当な魔術師をマリアの魔術の教師として王宮に送ったらどうだ?」


「それなら2号でも大丈夫。見た目はわたしそっくりでも当然能力は落ちるし天才でもないから、一般人に魔術を教えるのはわたしより適しているはず」


 トルシェより人に教えるのが下手な魔術師はそうそういないんじゃないか? いや、言わんけど。


「それじゃあ、魔術師ギルドに行くとするか。トルシェはここからの道を知ってるんだよな?」


「いえ、全然」


 今までアズラン任せだったから、王都の中の道をほとんど覚えていない。リスト商会だけは一回適当なところで折れ曲がっただけだったので、なんとなく到着できたが、魔術師ギルドへはもう少し複雑だったような気がする。


「タートル号は道を覚えていないかな?」


「タートル号は行ったことがある場所なら道を覚えているけど、魔術師ギルドには行ったことがないはずだから無理じゃないかな」


「それでも、俺たちより道が分かるんじゃないか?」


「されはさすがに。ここに2号を呼んじゃいましょう」


「そういえば、トルシェは2号と連絡を取り合うことができるんだったな」


 トルシェがうなずき、2号に何か指示を出しているようだ。


「……。

 2号が来るまでそこらの店で買い物でもしながら待っていましょう」


 そういうことで、雑貨屋らしき店屋の中に入って2号を待つことにした。タートル号はゾウガメモードだったが店の出入り口が狭くて入れそうになかったので外で待たせている。


 ブラックスケルトンの巡回で王都ではスケルトンは見慣れたものになっているので、黒ちゃんが鳥かごを持って俺たちの後について店の中に入ってきてもだれも驚かなかった。


 雑貨屋では特に必要なものは無かったが、とりあえず、石鹸だけは買っておいた。いや、トルシェに買ってもらった。


 そんなことをしていたら、店の中に2号がやってきた。


 店の中で騒ぐわけにもいかないので、今度は近くの軽食屋に入ってお茶を飲みながら2号にマリアの件を話しておいた。


「了解しました。新女王への基礎魔術教育については私の方で懇切丁寧かつきっちり行います」


 2号は、1号ほんにんよりもよほど頼りになりそうな返事をしてくれた。天才トルシェには、懇切・・丁寧・・きっちり・・・・が足りなかったのだとあらためて気付いてしまった。



 2号が店から帰っていったあと、トルシェが、


「今回は北で騒動があったから、後延ばしになったけど、ハイデンを叩き潰すはずだったんですよね?」


「すっかり忘れてた。アズランが帰ってきたらハイデンを叩き潰そう」


「アズランはあの調子だと一週間はマリアと一緒にいそうだから、いったんテルミナに戻ってみませんか?」


「それでもいいが、何か用事でもあったか?」


「皆殺しには、リンガレングでしょう」


「なるほど。あいつがいれば何かと便利ではあるしな。よし、塩コショウを買って酒とつまみを補給したらテルミナに戻ろう」


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