第74話 瑕疵(かし)あり物件3
三日後に監察官のジ-ナ・ハリスから俺たちの泊っている宿に、国からの払い下げの許可が下りたとの連絡があった。価格は金貨五十枚。破格の安さと思うが、国の役人からすれば自分の所有でもない訳あり物件のことなど価格よりも処分優先といった気持ちなのだろう。こちらとすればありがたい。
ということで、さっそくジーナに手続きを代行させるため、警備隊本部に出向いて、代金を渡しておいた。書類等は適当に作ってくれと言っておいたが、いちおう相手は公務員の管理職だ、間違いはないだろう。土地の所有者はその場の思い付きで、リスト商会の会長エルンスト・リストということにしておいた。本人にはまだ何も言っていないので、そのうち承諾を取るつもりだ。
俺たちは、そういった
貴族街は警備隊本部からそれほど離れてはいなかったので、すぐに大神殿建設予定地
「アズラン。塀を乗り越えて中から門を開けてくれるか?」
「はい」
すぐにアズランが塀を乗り越えて敷地の中に入り、門の内側で何やらガタガタやり始めた。
「ダークンさん、
じゃあ俺が押してみるか。
「アズラン。俺が外側から門を押してみるから、少し下がっててくれ」
「はい」
俺が片側の門扉に手をかけて押したところ、確かに重くて動かない。これ以上力を込めると門扉が壊れてしまう。この門は少し変だ。
どれ、鑑定でもして見るか。
鑑定
名称:大型両開き門扉(呪われている)
種別:建造物付属物
特性:形式上、籠城を意識して内開きになった門扉。現在呪われているため、解呪するか破壊しなければ開かない。
なるほど、呪われていたのか。しかし、門扉を破壊した場合、門が開いたと言っていいのだろうか? いや、破城槌という言葉もあるから、門を破れば門を開けたことになるのか。
「アズラン。この門扉は呪われているみたいで、解呪するか壊さなければ開かないようだ。今解呪してみるからちょっと待っててくれ」
「はい」
解呪すると言ってはみたものの、さて、どうやって解呪をすればいいのか見当がつかん。うーん。……。
ピコーン! 閃いた!
これは、祝福すればいいんだよ、祝福。
祝福ってどうすればいいのか分からないが、どうせ加護の時と同じだろうから、気持ち『祝福』とか念じて門に手でもかざしていれば祝福光線が手のひらからほとばしって門扉の呪いも浄化されて自動的に解呪されるはずだ。
それではやってみましょう。
まず両腕を伸ばして手のひらを門扉に向ける。そして左右の親指と人差し指を六十度の角度で開いて、親指どうし人差し指どうし指先をくっつけて三画形を作り、おもむろに、
「祝福!」
と、言ってみた。そしたら、指で作った三角形から三角柱の形をした緑の光が門扉に向かって伸びて、門全体が薄く緑色に輝いてからすぐに元に戻った。気のせいかもしれないが、一瞬だけ誰かのうめき声のようなものが聞こえた。何か良くないものが、
「アズラン。もう一度門を押してみるから、少し下がっててくれ」
「はーい」
「それじゃあ、行くぞ」
片側の門扉に手をかけて押したら簡単に開いた。
開いた隙間からトルシェとともに敷地の中に入ると、門の内側から玄関前の車寄せまで道が続いていた。その道は元は砂利道だったのか、ところどころに小石の砂利が見えるが厚く枯れ葉が積もってヤブのなかの道のようになっている。道の左右は立ち木と下草に覆われていて、立ち木の枝がアーケードのように道に張り出し、冬にでもなって立ち木の葉が落ちなければ、道の上まで陽は差し込みそうもない。
敷地内で林のようになった立ち木にはツタもからまって、陽の光を遮っている。草木の根元の地面は枯れ葉が積もって腐葉土にでもなったようで黒くじめじめしている。
雰囲気がまことにいい。なんだかそよ風までも生暖かくてここちよい。
「いいなー、ここ」「雰囲気がいいと空気も美味しい」
そんな言葉が後ろを歩く二人から聞こえてきた。全く俺も同意見だ。ただ、こういった
まっすぐ歩いて玄関前の石の階段にたどり着いた。
玄関前の落ち葉は隅の方に吹き溜まっていたせいか、石の床が現れていた。その石の床は昔は白かったのだろうが、ところどころタール状の黒い汚れがべっちょりついてかなり汚れている。人か動物かはわからないが、血のりが固まって変色したものだろう。かなり昔の物らしく臭いはないようだ。
こういう不潔なところは減点対象だ。ただ、このタール状になった血の跡以外の残骸がどこにもないのが不思議だ。何かが食べたか、誰かが持っていったのか。
「誰かが食べたってこともありますよ」
トルシェがさも当たり前のように言う。そういうことも無いとはいえない。
石の床の先の玄関の扉は破壊されていた。冒険者のパーティーも以前ここに来たようだからその際にでも壊したのかもしれない。玄関先より、玄関の中の方が落ち葉がたまっているようだ。玄関先から中を見たら、そうとう薄暗い。まさに俺たちの出番だ。
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