第75話 出たよ、呪いの戦士像
扉の無くなった玄関から屋敷の中に入ると、かなり広い玄関ホールになっていて、正面には全身鎧を身に着け、剣先を地面につけた大剣の持ち手に両手を添えた戦士像が台座の上に立っていた。
像そのものの大きさは二メートルほど。黒地に
その絵には、黒い甲冑姿の若い男がヘルメットを左の小脇に抱え、右手で大剣を杖のようにして持っていた。この絵の若い男が戦士像のモデルのようだ。風雨に直接は晒されてはいなかったのだろうが、油絵の保存には向かない環境なので額縁はかなり傷んでいたが、絵そのものはほとんど傷んでいないように見える。
絵のかかった壁の左右に二階に続く階段があり、その階段の上り口の手前が空いていて、その先の通路に繋がっている。
玄関ホールの天井はかなり高い。その天井にはかつては壮大な絵が描いてあったようだが、今ではボロボロに絵の具がはがれ、カビだかシミだかが広がって何の絵が描いてあったのかはよくわからない。とはいえ、この屋敷というか館の持ち主は相当の資産家だったようだ。
最初に正面の像をよく観察しようと近寄ったら、目の前の像の方からそよ風が吹いてきた。なんだか活力がみなぎってきた。
あれ? この感覚は?
呪いか何かをかけられたのか? 俺たちにとっては心地よいそよ風に感じるのだが、一般人ではそうはいかないだろう。場合によっては、呪いだけで呼吸ができなくなり、やがて苦しみながら窒息死することもあり得る。
俺たちに呪いをかけたのは、当然目の前の大男の像だ。
俺は黒い全身鎧ナイトストーカーを装着して、セットになっているリフレクターを左手に、エクスキューショナーを右手に持って戦闘準備完了だ。
これでどんなバッチいものが飛んでこようと大丈夫。コロはナイトストーカーの隙間から表にしみ出てナイトストーカーのベルト風にきっちり腰に巻き付いている。
「トルシェ、アズラン。少し下がっていてくれ。これから、この像を叩き壊す」
破片が散ったら少し危ないので、一応二人に注意だけはしておく。
俺たちの不穏な動きを戦士像が感知したのか、目の前の像のヘルメットのバイザーの奥が一瞬赤く光ったようだ。しかも、先ほどまで緑青が浮き出て薄汚かった鎧が、今は鈍く黒光りしている。
とはいっても俺のナイトストーカーの血管が浮き出たような赤い模様があるわけではないただの黒い鎧だがな。
今さら遅いんだよ。石でできた台座の高さは五十センチほど。その上に立っている戦士像の左ひざの辺りに、左手のリフレクターを振りかぶって、思いっきり叩きつけてやった。
この一撃でもらった! と思ったのだが、意外と対象を粉砕できずリフレクターに鈍い反動が戻ってきた。しかも相手の膝は見たところ無傷のようだ。
なかなかやるじゃないか。
かかってコイヤー!
「こいつはなかなか骨がありそうだ。トルシェとアズランは後ろで木の実でも食べながら観戦でもしてくれ」
そう言って振り返るとすでに二人して床にしゃがんでピスタチオもどきを食べ始めていた。素早い。
俺がちゃんと
前に向き直ると、戦士像はちょうど台座から片足を床につけるところだった。動きが相当ぎこちない。体が丈夫なことだけが取り得です。そういった感じだ。
この動きの感じはゴーレムのような気がする。
トルシェなら、こいつを急速冷凍して脆弱化させることも可能だがあいにく俺にはそんな便利な魔法は使えないものな。いや、神の鉄槌を使えば簡単だが、それだと面白くない。舐めているとえらい目にあうかもしれないが、そこそこの相手は楽しまなくては損だ。
戦士像は両手で握った大剣をゆっくり振りかぶった。俺は相手の間合いの中に踏みとどまっているので、大剣が振り下ろされるまで、俺が何もしなければ、俺のヘルメットに直撃する感じだ。
直撃してもどうってことはなさそうだが、いちおうリフレクターでのカウンター狙いだ。
余裕をかまして、大剣が振り下ろされるのを待っていたら、思った以上のスピードだった。一瞬受けが遅れてしまったので今の攻撃を戦士像に反射させることができず、受け流すような形になってしまった。受け流すことは普通にできたが、思った以上に大剣には重量があったようで、今の一撃はずっしり重たかった。
今回も戦士像が大剣を振り下ろしたタイミングで、大剣を握る両手のガントレットから黒いしぶきが飛んで、俺のナイトストーカーにしぶきがかかってしまった。何なんだ?
今のしぶきは床にも飛び散ったのだが、そのしぶきが当たった床石が泡を吹き始めた。床石は大理石に見えるから、今の黒いしぶきは塩酸か何か入っているのか?
ナイトストーカーを装着していてよかったよ。あんなのを私服に掛けられたら、黒いシミがついてそのまま服に孔が空いていたところだ。
この像が妙なしぶきを飛ばすという卑怯技を使うことは、さすがに予想していなかった。早めにナイトストーカーを装着していてラッキーだった。やはり近接戦では被弾リスクはあるものな。
力を込めて振り下ろした重量物の軌道が逸らされたわけなので、素人ならバランスを崩すか、次の動作が一呼吸遅れるのだが、こいつは俺に隙を見せず、一歩引いて中段に構えた。
だいたい、鎧というものは、脇や膝の裏側、ヘルメットと鎧の間は弱点になる。特にヘルメットと鎧の間には首根っこがあるため、首を刈られて一撃死もあり得る。そのため首狩りの一撃を防ぐため金属か硬い革でできた分厚い
なので、次は、リフレクターで相手の大剣を受けるか逸らすかしつつエクスキューショナーで相手の左手首を狙ってみるとしよう。
相手は大剣だし、リーチも長いので間合いは相当広いが、こちらの方がスピードがある。相手が一歩前に出る間にこちらは一歩半前に出ることができる。間合い互角。
行くぞ!
踏み込む俺に向かって、中段から大剣が突き出されてくる。これは速度もタイミングも予想通りなので、リフレクターで簡単に逸らすことができた。
そして突き出された相手の左手の手首を狙ってエクスキューショナーを軽く振る。
当たればなにがしかのダメージにはなるだろうが、ガントレットに阻まれるので手首を切り落とすような一撃ではない。
今のこちらの一撃は相手の左手のガントレットに当たりなにがしかの傷をつけたようだ。
なんだ? 傷をつけたあたりから黒い液体が漏れてきた。漏れた黒い液体が床に落ちて、そこがまた泡立つ。
こいつは一体何なんだろう? 鎧の中は空洞でもなく固体でもなく、液体がぎっしり詰まっているのか?
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