第76話 呪いの戦士像
鎧の戦士との戦いのさなか、トルシェとアズランが後ろの方でしゃがみこんでピスタチオもどきを食べている。休んでいろと言ったが、本当に休憩に入ったようだ。
コン。
ピスタチオもどきの殻だけではうまく遠くに飛ばないはずなのに、アズランの投げた殻が戦士像まで届いてヘルメットの額にあたった。しかも、コンとか音がした。
こいつは中身を食べずにピスタチオもどきを投げているな。これでは食玩欲しさにスナック菓子の中身を食べずに捨てるようなものだ。これは注意しないといけない。
そんなことはどうでもよいが、そろそろこいつを片付けないと、女神としての威厳がなくなってしまう。
コン。
アズランの投げたピスタチオもどきが、また鎧の戦士の額に当たった。
そしたまた、コン。
鎧の戦士はさすがにこの
絶好の機会だ。一気に踏み込んで、エクスキューショナーで相手の心臓を狙って突きを入れてやった。刃先が四分の一ほど胸の板金を貫いた。鎧を貫いた手ごたえはあったが、肉を貫いた手ごたえは全くなかった。
普通の相手なら今の一撃で決まったのだろうが、そこまで甘くはなさそうなので、反撃が来る前にすぐに一歩引いて相手の出方を待つ。
エクスキューショナーの刃先の形で空いた鎧の孔から、ドロリと黒い液が流れ出して、それが床に垂れ、床の石材が泡を立てる。
こいつの鎧の中身はどうなっているのか分からないが、少なくとも中身の表面は黒い液体で覆われているようだ。想像できるところでは、ほどほどに熟して発酵したゾンビが考えられるが、独特の腐臭がない。ということは、大魔王『ハムザサール』の広間の入り口にいた『不死のドーズ』的な何かか?
今の俺の攻撃を受けても、それほどのダメージになっていなかったようだが、何かのスイッチが入ったらしく、鎧の戦士はやたらと大剣を振り回し始めた。
そうなってくると、相手のすきも大きくなるし、リフレクターでの反射も狙いやすい。
次に横殴りに左から切りかかってきた大剣をもろにリフレクターで受けてやった。うまく受けることができたようで、反射による反動で鎧の戦士のガントレットをはめた両手首があらぬ方向を向いてしまい、大剣が床に落ちてしまった。
こうなってしまうと、一方的だ。
両腕を縮めてボクシングのガードのように首と頭を守ろうとする鎧の戦士の左右の腕を滅多打ち、滅多切りにしてやった。壊れていくガントレットから、俺の一撃を受けるたびに黒い液体が飛び散っていく。
それでも鎧の戦士が後ろに後退しないのは見事だ。その代りかどうかわからないが、なんだか体が縮んできている。
最初はやや見上げながら戦っていたのだが、今では俺と同じくらいの背丈だ。黒い液体が飛び散るごとに小さくなっているようだ。
このまま削っていけば、こいつは消滅するのかどうか、俄然興味が出てきた。
さあ、頑張っていくぞ!
ということでかさにかかって鎧の戦士に俺のリフレクターをたたきつけ、エクスキューショナーで切りつける。そこら一面に黒い液体が戦士から飛び散って、泡がぶくぶく立っている。
俺も返り血ならぬ、返り黒液でそれなりに濡れているのだが、特にナイトストーカーは変化はない。汚れたところはコロが細い触手を伸ばしてきれいに舐めとってくれているのですっきりした状態は保たれている。すごく便利だ。
最初からコロにこの鎧の戦士を食べさせれば、こいつの撃破は簡単だったろうが、少しは体を動かしたかったのと、何か変わったことが起こらないか期待してのことだ。
鎧の戦士の縮小が加速してきた。とうとう、アズラン程度まで小さくなった鎧の戦士は何もできずに突っ立っているだけだ。最後のとどめとばかりに、リフレクターを腰の吊り具に戻して、エクスキューショナーを両手で持って、横薙ぎの一撃をヘルメットの付け根、首のあるあたりを切りつけた。
スッパーン!
バターを熱いナイフで切るような感じで手ごたえもなくすっぽり首ごとヘルメットが飛んで行った。エクスキューショナーの首狩りクリティカルが発動したようだ。久しぶりだったがかなり気持ちがいい。
今の会心の一撃で決めたか? と思ったが、鎧の戦士は頭がなくなってもまだ立ち続けている。
その意気や良し!
それでは、その敢闘精神に敬意を表して、まずは肩口から両腕を切り離してやろう。
スパッ!
ついでに、胴体を輪切りに。
スパッ!
先ほどまで、手ごたえがあったが、頭を切り落として以降手ごたえがなくなってしまった。
下半身だけになってもこいつは立ち続けている。切り飛ばした切断面は真っ黒で、転がった腕や首なし上半身からどろどろと黒い液体が流れ出てきた。
ペチィ。
まだ立っている下半身の上を向いた真っ黒い切断面のうえにアズランの投げたピスタチオもどきが落っこちて乗っかった。黒い液体はピスタチオもどきの殻は溶かさないらしい。新しい発見だ。こういった偶然から得られた知見によって人類は大いに進歩したのだろうが、今回の偶然ではなにも人類は進歩しないだろう。
最後に、下半身の真ん中、一番痛そうなところを前蹴りで蹴っ飛ばしてやったら、自分が立っていた台座まで吹っ飛んでそこで当たってとまり、切り口からドロリと黒い液がかなりの量流れ出て動かなくなった。
首を刈りとったのが致命の一撃だったようだが、何とも釈然としない幕切れだった。
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