第73話 瑕疵(かし)あり物件2
大神殿建設に向けて、貴族街に非常にいい物件を見つけたので、もう少し詳しく様子を見てみようと、四方を道で囲まれた敷地の周りをまわってみた。
「敷地の周りを一回りした感想とすれば、薄暗いところがいい感じで、なかなかの物件だな」
「そうですね。これなら大神殿でなく、屋敷を改修して、わたしたちの王都邸にでもしたいところです」
「俺もそうは思ったが、やはり住むならテルミナのワンルームだろう。あそこほど快適なところはないぞ。洗濯も文字通り全自動で放っておくだけできれいになってるし、温かいお湯の風呂にいつでも入れる。食材だって主なものはそろってる。しかも街の中心部にかなり近いからな」
「そろそろ、帰りたくなってきましたね」
「大神殿建設の目途が立ったら、トルシェに大神殿を任せられる魔法ホムンクルスを作ってもらって俺たちはテルミナに帰ってもいいしな。いやその前に『闇の使徒』の本拠地を叩き潰しておいた方がいいか」
「王都から『闇の使徒』の本拠地があるというハイデンの都まで二カ月くらいかかるそうです」
「だからと言って行かないわけにもいかないしな。本拠地まで行けば何か面白いヤツも出てくるかもしれないし。行き来で四カ月。暴れ回って長くて二日か。まあ、それもいいだろ。
それじゃあ、これからどうする? いちおう、この前俺たちの身代わりを見繕いに行ったあたりにまた行ってみるか?」
「マグショットがあの辺りに詳しそうだから、あそこのハウゼンに権利関係を調べさせておきましょう」
「マグショット? ああ、このまえ乗っ取った金貸しのマグショットな。いいんじゃないか。それじゃあ行ってみよう。
アズラン案内頼む」
「はい」
通ったことのある迷宮内の道を全て記憶できるアズランからすれば王都の道程度を覚えるのは簡単なのかもしれないが、本当にアズランは道をよく覚えて知っているな。
無駄に大回りすることもなくマグショットの建物にやってきた。
出入り口に若い
もちろん若い
この若い
階段を上っていったら、今は溶けて流れてしまって立派にお務めを果たしてくれた前会長の部屋がある階の階段口にハウゼンが立っており、俺たちを階段の近くの応接室の中に招き入れた。
「今日はどういったご用件でしょうか?」
「この前お前に最初に出会った場所のことを覚えているか?」
「は、はい。もちろん憶えております」
「それは結構。でな、俺たちであの辺りの土地を買うかもしれないんだが、買うにあたっても買う相手が分からないと話にならないだろ?」
「はい。その通りです」
「それで、お前のところで、あの辺りの土地の持ち主を調べてくれないか? 結構な数になると思うが頑張ってやってくれ」
「はい。いつ頃までに調べ終わればよろしいでしょうか?」
「それほど急いではいないが、なるべく早くだな」
「かしこまりました。全力で当たります」
「よろしくな。それじゃ」
「今お茶菓子など用意させていますので、もう少しお待ちください」
「気を使わなくてもいい。気持ちだけで十分だ」
「わかりました」
これで話しは終わったので、マグショットの建物を後にした。建物の中にいる間、マグショットの連中が集まって来て俺に向かって礼拝するものだから、気持ちの良さに困ってしまったよ。マグショットは実に教育が行き届いて、気持ちが良い連中が揃っている。
一応、こっちの方で保険をかけておくこともできそうだ。詳しいことはトルシェに聞かないと分からないが、かなりの金はいつでも用意できるだろう。現金以外にも金の延べ棒もある程度の数を持ち歩いているはずだ。
その日は、その後、適当に街の中をブラブラして、ちょっかいをかけてくるヤツを待っていたが、誰も俺たちにちょっかいをかけてくるヤツは現れなかった。
宿に戻り、例のごとく酒盛りの後、一夜明けて、今日は監察官との楽しいミーティングだ。
朝から警備隊本部に顔を出した。
こっちの方では俺たちの顔は売れていないので勝手に監察官の部屋まで上がっていいのか分からなかったが、そのままずかずかと階段を上って行ったが誰にも呼び止められることもなく部屋に入ることができた。
こんなのでいいんだろうかと思ったが、どうせよそ様のことなので放っておくことにした。
監察官のジ-ナ・ハリスもいきなり俺たち三人が現れたことに驚いたようだ。いちおう信者なのだから、俺たちの顔を見たら驚く前に礼拝しろよ。
少し機嫌が悪くなったのだが、すぐにトルシェが気づいて、ジーナに小さな声で『礼拝』とか言ったら慌てて俺に向かって二礼二拍手一礼を行った。それでいいんだよ、それで。
スケルトンちゃんを当分の間、置いておくと言ったら、たいそうジーナの機嫌もよくなった。
「ここの本部長以下十数名無事に逮捕することができました。ありがとうございます」
「お前の護衛については約束だったからな。それで、土地を買うことの国からのお墨付きの方はどうなった?」
「申し訳ありません。依頼は上を通じて担当に持ち込んでいますが、まだのようです」
「それは困った」
実際は特に困っているわけではないが、そう言っておくのが、クレーマーの極意だ。
「こちらはちゃんと約束を果たしたわけだから、そちらも約束を果たしてもらわないとなー」
「はい。何とか早くしてもらうように努力します」
応接セットの椅子の上でこれ見よがしにふんぞり返って足を組む。
これで、葉巻でもふかせばいいのだが、あいにく俺は嫌煙家なのでそれはできない。
「うーん。それじゃあ、そっちはそっちで進めてもらうことにして、別に頼みがあるんだが。こっちの方はずいぶん簡単だと思うぞ」
「どういったお話でしょうか?」
「お前も知っていると思うが、二十年ほど前に王都を騒がせた惨劇が貴族街であったろ?」
「存じています。私がまだ学生のころの話です。その惨劇のあった屋敷は今では国の管理になっているそうです。何でもその屋敷に入ると出てこられなくなるとか噂が立っており実際多くの者がその屋敷に入ったまま行方不明になっていますので、今は立ち入り禁止になっていると思います」
「その屋敷なんだが、周りからの苦情もあるらしいな」
「その辺りは存じませんが、苦情は出るでしょう」
「そういった土地を管理している国としてもできれば手放したいだろうと思ってな」
「まさか、あの土地の払い下げを受けたいとかいうお話ですか?」
「そのまさかだ。そういった土地なら安く払い下げができるだろ。そういうことだからよろしく頼む」
「本当にあの土地を買うのですね」
「その通り。金貨100枚も出せば買えるんじゃないか?」
「おそらくそこまでせずとも買えるでしょう。しかし大丈夫ですか? たしか数年前、名だたる冒険者パーティーもあの屋敷に調査に入ったままだと聞いています」
「名だたる冒険者パーティーと言っても最高Aランクしかいないんだろ? 俺たちはランクの上限がAランクしかないからAランクに甘んじているがそんな枠にははまっていないから大丈夫だ。おまえだって俺たちの実力を少しくらい推し量れるんじゃないか? このトルシェでさえ魔術師ギルドの前の評議会議長を圧倒してるんだぞ」
「わかりました。そちらのお話は国も困っている案件ですので数日のうちに何とかできると思います」
「それじゃあ何とかなったら俺たちの泊っている宿の方に伝えておいてくれ。そしたら俺たちがここに顔を出すから」
「了解しました」
「それじゃあ頼んだ」
そう言って、俺たちは監察官の部屋を出て警備隊本部を後にした。
これで、やるべきことは一応終わったので、しばらく王都の中をブラブラと歩き回ることにした。
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