第72話 瑕疵(かし)あり物件


 目ぼしい物件の隣の屋敷の使用人が出て来た。これはちょうどいい。


 隣りのどう見ても西洋風ホラーハウスの持ち主を知らないか聞いてみることにした。


 こういう対人関係案件は俺がスケルトン時代は言葉が喋れなかった関係で部下のトルシェに任せていたのだが、ここはちゃんと上司である俺が交渉に当たった方がいいだろう。別に話を聞くだけなので交渉というほどではない。


「おじさん、さっきは騒いで申し訳ない」


「分かっていただければそれでいいんです」


 こっちが下手に出たら、やはり向こうもそれなりの対応をする。当たり前のことができるって素晴らしい。そうだろ、トルシェ。


「お伺いしたいんですが、お隣の屋敷にはどなたかお住みなんですか?」


「いえ、もうかれこれ二十年は誰も住んでいらっしゃらないようです。二十年ほど前お隣で王都中が憶測やうわさで大騒ぎになった大事件が起こりまして、それ以来誰もあの屋敷に寄り付きません。正確には中に入った者が出てきていません。当家の隣の屋敷がそのような有様ですので、当家でも苦情を述べようとしましたが、お隣の係累の方が絶えてしまっているようで現在は建前上国の管理ということになっています」


「ほう。その大事件とは?」


「当時のお隣の当主が、親族だけを集めてパーティーを行ったのですが、そのパーティーでふるまわれたお酒すべてに毒薬が入っていたようで、当主を除いて、最初の乾杯を飲み干した百名ほどの者がみな死んだようです。その後、屋敷の使用人も次々当主によって惨殺され、最後にご当主も自分の短剣で自分の首を落として自殺されたようです」


「なるほど。そんな屋敷だと誰も住みたくはないでしょうが、入って人間が出てこないとは?」


「周辺からも苦情が多く、国としても放ってはおけないということで、解体することになったそうです。それで調査のために工事関係者があの屋敷の中に入ったんですが、入った切り、誰も出てきていないのです。その関係者が帰ってこないため、確認のために入った別の者も帰ってこず、かれこれ十数名行方不明になってしまい、とうとう仕事を請け負う者もいなくなって今のようなありさまになりました」


「ということは、誰か中に入って確認して、もしも怪物などが住み着いていたとしてそれを退治してやれば感謝されるってことですか?」


「それはもちろん国からも周辺に住む私どもからも感謝されると思いますよ」


「分かりました。今のような状況で国に払い下げを求めればかなりお安いでしょうね」


「はっきり言って国の責任がなくなるわけですから、二束三文で払い下げていただけるでしょう」


「いやあ、勉強になりました。ありがとうございます」


「いえいえ、どういたしまして。皆さんもくれぐれもあの屋敷には近づかないようお気を付けください。それでは」



 いやー、いい話が聞けた。明日、監察官との約束のミーティングだが、ちょうどいい。幽霊屋敷の権利を国から貰う算段をさせてやろう。これこそWIN-WINの関係が国と築けるわけだ。


「トルシェ、アズラン。そういうことだから、国からそこの危なそうな屋敷を買い取ろう」


「屋敷の中に何かいたら、面白そうですね」


「よく耳にするそういったうわさは、たいていはインチキみたいですが、現に誰も住んでいない廃屋がこんな一等地にあるわけですから本当っぽいですよね」


「きっと何か面白いものがいるんだろうが、俺たちにかかればどうってことないだろ。少なくとも俺が『祝福』して清めてやるから、妙なヤカラは消えて無くなると思うぞ」


「ですよねー」



「取りあえず、道で四方が囲まれた一区画が丸々敷地のようだから、周りを巡って見るか」


「行きましょう。楽しみだなー」


「何かいるとして、今日退治するわけじゃないからな。あくまで自分の土地にしてからでないと売ってくれなくなるからな」


「それくらい分かってますよ。このところ歯ごたえのない連中ばかりを相手にしているのでヒマナンデス」


「それは私もそう思います」


「二人ともそんなこと言っていたら、すごい強敵が出てくるかもしれないぞ」


「そんなわけないじゃないですか。嫌だなー、ダークンさんは。わたしたち三人が苦戦するような相手がいるわけありませんよ」


「しかし、国から買うとして、明日行って明日OKとはならないだろうからずいぶん先の話になるかもしれないぞ」


「それは仕方がありません。その間が暇になりますが、他の土地でも物色しましょうか?」


「離れた土地をそんなに持っていても仕方がないだろ。管理もできないし」


 話をしながら、くだんの屋敷の周りを歩きつつ、塀越しに敷地の中を眺めれば雰囲気がいかにも・・・・で実に優良物件だ。


 立ち木の隙間から、三階建ての屋敷が見える。朽ちて無くなった三階の鎧窓から青々と茂ったツタだか何かが下に延びている。


 屋敷の周りの木々もうっそうと繁ってまるで密林だ。敷地全体が薄暗くなって実に心地よさそうだ。まあ、俺の大神殿を建立するにあたっては、周りの木々は伐採すると思うが、今のこの趣も捨てがたいものがある。


 俺の住居とするならこのようなところが落ち着いていい。もちろん壊れた鎧戸やその他の開口部の修繕は必要だ。窓際の木製の物はほとんど朽ちているのだろうし、廊下なんかも木製だったなら床が抜け落ちている可能性もある。


 内覧会でもしてくれればいいんだがな。だいたい国ってところはサービス精神がないからな。営業努力もせずに物が売れないと嘆くヤツと一緒じゃないか。


 まあ、お楽しみはとっておこう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る