第141話 ルマーニ王城2


 ルマーニの王宮は立派な城壁に囲まれた平山城っぽい城だった。


 俺たちは案内の騎士団副団長の後について門の中に入っていった。



「私なんかが王宮に入っていっていいんでしょうか?」


 マリアが何だか尻込みしたようなことを言い出した。


「マリア、お前はもう俺の身内だ。お前にはまだちゃんと言っていなかったが、俺は『常闇の女神』というれっきとした女神さまだ。お前を助けたそこのアズランも隣のトルシェも俺の眷属にして半神なんだぞ。女神たる俺の身内のお前が、世俗の王ごときに尻込みしてどうする」


「は、はい。分かりました」


 少し難しかったのか、眉に唾して俺の話を聞いたのかはわからないが、どうもわかっていないような顔をしている。まあいい。ここでは物おじしなければいいだけだ。そのうち俺の今言ったことも理解できるようになる。まだマリアは十歳ほどの子どもだ。焦る必要はない。


 門の先の砂利敷きの前庭を抜け、その先のやはり城のようながっしりした作りの建物の中に案内された。


 扉の先はホールになっており、全身鎧や各種の武器が飾られていた。こういうのを尚武しょうぶの気風とでもいうのかね。


 ホールの先には立派な上下を着たやや年配のおじさんとその後ろにお仕着せを着た女官だか侍女が数名が並んでいた。



「私どもはこれにて失礼させていただきます」


 そう言って騎士団副団長のスノー何某なにがしたちが玄関ホールから出ていった。



「ようこそいらっしゃいました。女神さま?とお呼びしたほうがよろしいでしょうか? それとも女王さまと?」


 女王さまだとなんとなくではあるがいかがわしさ・・・・・・を感じてしまうので、


「女神で頼む」


「はい。女神さま。私はこの国の宰相を務めておりますリッターと申します。陛下が女神さまに王都をお救い下さったお礼を述べさせていただきたいと申しておりますのでこちらへいらして下さい」


 騎士団副団長が先ぶれに走らせた伝令はちゃんと役目を果たしたようで、先方がかなり下手したてに出ている。何も知らなければ俺たちなどはっきり言ってどこの馬の骨ともわからぬ風来坊だ。それを一国の宰相が出迎え、国王が頭を下げると言っている。


 あの巨人をいとも簡単に斃した俺たちは、この国にとっては新たな脅威となりえるわけだ。少しくらい頭が働を働かせれば、おのずと俺たちへの対応は決まるわけで、この国のトップはその辺のことはわきまえているようだ。


 最初は玉座に案内されると思っていたが、リッター宰相の後についていくと、豪華な内装の部屋に通された。たしかに玉座だと、俺の前でここの王さま自身が玉座に座っているわけにもいかないから、居づらいものな。


 その部屋の中には、立派な服を着たおじさんが一人。立ち上がって俺たちを迎えてくれた。


 宰相がそのおじさんに耳打ちしたところで、


「ルマーニ国王のバリオと申します、女神さま。どうぞおかけください」


 国王ではあるもののちゃんと俺たちに対して下手に出ているところは好感が持てる。


 言われるまま、ちょっと豪華な席に着いた。俺が長テーブルの真ん中あたりに座り右にトルシェ、左にアズラン、その左にマリアだ。タートル号は部屋の出入り口の脇にじっとしている。オウムのサティアスの入った鳥かごはタートル号の横に置いている。


 ルマーニ側は、俺の向かいに王さま、俺から見て左に宰相が並んで座った。宰相と一緒だった女官だか侍女たちはタートル号の向かいに並んで控えている。彼女たちはどうもオウムが気になるらしく鳥かごをチラチラ見ている。サティアスのやつどうせ出番がないんだから、芸の一つも見せてやればいいのに気の利かないヤツだ。



 俺たちが席に着いたところで、改めて国王と宰相が立ち上がり俺たちに向かって頭を下げた。


「このたびは、わがルマーニの危機を救っていただきありがとうございます」


「いや、そちらからの使者がトランの王宮に急報をもたらしたので、我国の北方が侵されてはかなわぬと、急遽我らが赴いたところだ。先ほど我らが倒した巨人の他、多くの異形の者たちがこの地にあふれたようだが、ほとんどのものはここに来るまでに斃している。その異形の者たちは、魔族と言うらしい。残った魔族はまだいると思うが、この国の兵士たちで対応できるだろう。

 その魔族についてだが、ここから五百キロ東に魔界ゲートと呼ばれる門ができていた。魔族はその門からあふれ出て来たらしい。この門を破壊できればよかったのだが我らにもそれはかなわなかった。いまはそこから魔族が現れないよう我らのいわゆるで封鎖しているところだ」


「昨日、東方で光の柱が現れ、この王都でも地面が揺れましたが、あれは女神さまがその魔族を討伐されたときのものだったのでしょうか?」


「その通り。すでに魔族によって辺りが破壊つくされていた故、我が『神の怒り』により焼き払ってやった」


 魔族によって破壊し尽くされていたかどうかは確認していないし今さらどうにもできない。事実はひとーつ。これでよーし。


「そ、そうでしたか。それではノルド王国はすでに」


「この世からなくなってしまったようだ。あの辺りは今は何もない荒野になっておる」


「……」


 王さまがゴクリと唾を飲み込む音がした。


「東からこの国に来る途中、街道沿いの多くの街が魔族によって破壊されていたが、破壊され尽くされてはいない街もあった。残敵の掃討が完了したら早めに復興を始めるといい。我が今はセントラルと名を変えたトランの都に戻れば、わがトランも援助できるはずだ」


 少しくらいは援助してやろう。『慈悲』の心も大事だし、マリアの生まれた国だしな。


「それは、誠にありがとうございます」


 口約束でも、こちらは女神だ。期待してくれていいからな。


「それで、すこし頼みがあるのだがな」


「な、なんでしょうか?」


 そう怖がるな。口には出さないが、無茶な願いをするくらいなら、最初からこの国を乗っとってるんだから。


「そこの女の子は、ある街で保護した子なのだ。いちおう我らが保護した以上これから先も面倒を見ていこうと思っている」


「はい」


 話は見えないよな。


「それでだ、この子の当面の着替えもなければ、普通の食材も我らは持っていなくてな。街で買っても良かったが面倒なので、ここで用意していただけないか?」


 これにはさすがに王さまも宰相も拍子抜けしたようだ。俺自身でも笑っちゃうくらいおかしいからな。


「かしこまりました。すぐに用意させます」


「よろしく頼む」


 宰相が目配せして、すぐに部屋の入口隅で控えていた一人が部屋を出ていった。


「それでは、そういったものを用意させる間、もう良い時間ですので昼食でもおとりください」


「そうさせてもらおう」


 今度は別の女性が部屋を出ていった。



 すぐにワゴンに乗せられた料理がその部屋に運び込まれ、次々とテーブルに並べられて行く。


 酒と酒の肴以外このところ口にしていなかったので、新鮮でもあるし、実にうまそうに見える。


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