第140話 ルマーニ王城1
大巨人を『神の鉄槌』で撃破したら、ルマーニの兵隊たちから喝采を浴びてしまった。ここは手ぐらい振った方が良かろうと思い、ヘルメットをとって抜き身の剣先を下にした聖剣を左手で支え、軽く右手を振ってやった。そしたらまた歓声が大きくなった。
歓声の中から一人の男が数人の子分を連れて俺の方に小走りにやってきた。その男はほかの兵隊たちの着ている革鎧よりも装飾が派手目なうえ、被ったヘルメットの頭の上には赤いとさかを付けていた。多分隊長だろう。
狙撃技術が発達していなければそこまで問題ないのかもしれないが、近代戦では隊長が目立つ格好をしていれば絶好の獲物になる。俺たちにとっては敵に指揮官がいようがいまいがあまり意味ないが、指揮官がいないと普通の軍隊同士のぶつかり合いではかなりのハンデになりうる。そこいらをそのうち
「私はルマーニ騎士団副団長のスノーと申します。王都を救った英雄殿のお名前をお聞かせください」
「
我ながら神さま言葉で話しているのがもどかしくなってきてしまった。しかも、しゃべり方がサティアス風味だ。ちょっと恥ずかしいぞ。
「私には理解が追いつかぬお話でしたが、女神さま? 女王さま? いずれにせよわが国を救っていただいた救国の大英雄さまです。是非私共の王宮までお越しください」
「わかった。我らはそこの大ガメに乗っておる故、
「ハハー」
水戸のご老公が正体を現した後のような感じだ。苦しゅうないぞ。
ルマーニの兵隊のうち二名ほどが騎士団副団長のスノー
俺たちは、タートル号の中に入り、騎士団副団長以下十名ほどに先導されルマーニの王都の大通りを進んで行った。
「巨人の目が光った時にはヒヤッとしたが、何とかなってよかったな」
「アレをわたしがもろに受けていたら、危なかったー」
「私はあいつの目の死角にいたから平気」
さすがアズラン。以前魔神アラファトネファルの攻撃で右腕をなくしたことがちゃんと自分の身になっているらしい。トルシェも魔王ハムザサールとの戦いで左腕を持っていかれている。結局自分で自分にヒールオールをかけて元通りになったのだが、新しく生えてきた手先の爪が切り揃えられていたので、爪切り代わりになるとか言ってたな。トルシェの場合は何の足しにもなってないと思う。
俺たちがタートル号の中で何のかんのと騒いでいたら、マリアが、
「前の覗き穴から見てました。巨人を斃してくれてありがとう」
そうだった。あの巨人もマリアの仇だったわけだ。今さら仕方がないが、もう少し俺たちが早くあの街についていればマリアの家族も無事だったろう。
そのうち俺の権能が大きくなって、因果でも操れるようになれば、マリアの悲劇を事後的に解消できるかもしれないが、そんなことができるようになるにはこれから数千年は神としての修行をしなくちゃならないと思う。
「もう少し俺たちが駆け付けるのが早ければ、お前の家族も救えたはずなんだが、こればかりは諦めてくれ」
「いえ、そんなつもりじゃなくて。ただうれしかっただけです」
家族を失って時間もそれほど経っていないにもかかわらず、この歳でちゃんと受け答えしている。実にしっかりした子だ。こいつは、将来バケるかもしれないぞ。俺の後継者としてわが王朝を背負うことができるひとかどの人物になるやもしれん。
実際、女神さまが女王さまというのは、俺自身そろそろ飽きてきたところだからちょうどいい。そのように仕込むようジーナに言っておけば何とかなるだろう。楽しみだ。
案内の副騎士団長一行の後についてタートル号が王都の大通りをゆっくり進んでいく。王都民が道の両側に出てタートル号を眺めている。妙に長い首を付けたタートル号にみんな奇異の目を向けているが、騎士さまの先導のためか王都民たちはいたって冷静だ。俺たちの戦いを見ていたら歓声の一つも湧いたかもしれないが、何も知らない都民たちにとっては、妙なものが道を塞いで歩いているなー、といった感じなのだろう。
案内の連中が大通りを直角に曲がった先は緩やかな上り坂がありその先に王宮の外壁と門が見えた。王宮の外壁がかなりゴツイ岩で組み上げられているところを見ると、ここは王宮というより王城だな。その王城の門が大きく開け放たれている。不用心なことだ。おっと、また国取りを考えてしまった。もうこれはクセだな。
門の広さがどうもタートル号の横幅いっぱいいっぱいのようだ。通り抜けられそうだが万が一引っかかってしまうと門を壁から引き剥がしてしまうことになるので、俺たちはタートル号から降りて王宮内へ進むことにした。
そのタートル号だが門の前に置いておくと邪魔なので、ゾウガメ状態にして連れていくことにした。もちろんマリアも一緒だ。サティアスオウムも忘れず俺が鳥かごごと持っている。問題なのは、タートル号のしっぽにくっ付けた見えない檻の中の鳥人間だ。こいつは、サティアス以上に役に立たない。捕虜虐待はマズいが、逃がすわけにもいかないので、門の脇に見えない檻ごと転がしておいた。
誰に断っているわけでもないので、誰かが檻ごと鳥人間を持っていってしまうかもしれないが、その時は諦めよう。いわゆる、所有権の放棄だ。
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