第139話 巨人戦
「デカいのが前の方にいるぞ。兵隊が周りを囲んでいるが、タダの兵隊なんかがちょっかい出したら全滅するんじゃないか?」
前方にいたのは、これまで見てきた魔族と違い、三十メートルほどの背丈で真っ黒い全身鎧を着けた大巨人だった。遠巻きにこの国の兵隊たちが囲んでいるが、巨人は兵隊たちを無視して前に進んでいる。巨人の向かっている先には大きな街が見える。おそらくこの国の王都だろう。あんなのが王都の街中で暴れれば当然王都はエライことになる。
ここは
「あの巨人を斃すぞ!」
「はい」「はい」
そう言って俺はハッチバックから甲羅の上に上がって前方を睨む。巨人は今のところタートル号に気づいてはいないようだ。ゴリラのような長めの腕を振りながら王都に向かっている。
俺たちにとって魔神でもないただの巨人などザコだが、ちょうど周りに兵隊たちがいるので、パフォーマンスを披露するのにちょうどいい。
タートル号に気づいた兵隊たちは、何か叫んでいるがよく聞き取れない。俺たちのことを巨人の仲間とでも思っているかもしれないが、こっちに向かって攻撃を仕掛けてくるようなバカ者はいないようだ。この局面でタートル号がいくら不穏に見えても甲羅の上におれみたいな美人が乗っていれば攻撃できるわけないものな。
「ここらで、タートル号は止めてくれ」
「はい」
タートル号が停止したところで、
「トウ!」
今回は前方伸身宙返り一回ひねりを決めて巨人に向かって走る。相手が相手だし攻撃中に変なものを顔に浴びてはたまらないので、いちおうヘルメットをかぶっている。そして今回は一撃の威力が高そうな聖剣を手に持っての突撃だ! 本当は大剣を振り回してみたかっただけだがな。
一瞬だが、アズランが俺の横を追い抜いていくのが見えた。
トルシェは走って俺の後についてきている。
すぐにアズランは巨人の体に取りついてよじ登り始めた。フェアもおそらく巨人の頭上に飛んで行っているのだろう。
突撃を続ける俺の後ろでトルシェは立ち止まり、ギラギラと青白く輝く小型のファイヤーボールを放ち始めた。アズランが巨人の体に取りついている以上、あまり大きなファイヤーボールは放ちづらいからな。
うかうかしていると、俺の出番がなくなってしまう。
ジュワッ!
トルシェの放ったファイヤーボールが巨人に着弾したようだが、爆発音ではなく何かが溶けるような音がした。
ジュワッ! ジュワッ! ジュワッ!
次々にファイヤーボールが巨人に着弾し、巨人の鎧に孔を空けていく。しかし、すぐに孔が塞がれてしまう。
ほう。コイツなかなかやるではないか。
これだとアズランの攻撃も効かないかもしれない。
巨人はトルシェによる後方から攻撃を受けたため立ち止まって振り返った。振り返った巨人のヘルメットの中の目が一つだけ真ん中で赤く光っている。こいつは一つ目だったようだ。
トルシェの攻撃も、いろんな場所にファイヤーボールをたたき込むのではなく、同じ場所に連続して撃ち込めば孔が塞ぎきらない前に次が着弾するだろうから何とかなりそうだ。穿孔光針なんかも有効と思う。
後ろを振り向いてトルシェに今のことを伝えてやった。ほんとは黙って俺の見せ場を作りたい気もチラ程度はあったが、眷属の働きは俺の働きだし、舐めたまねをして思わぬ不覚をとっては本末転倒だからな。
俺が巨人に到達する前に今度はトルシェは穿孔光針を撃ちだし始めた。今までの穿孔光針は無数の白色の光の針だったが今度の穿孔光針は青い光の針だ。
その光の針が無数に集まった太い光の流れが、巨人の左膝を薙ぎ払った。
きれいに巨人の左足が膝で切断され、巨人は何か大声で叫びながらこっちに向かって倒れて来た。アズランは首のあたりまでよじ登っていたが、巨人が地面に倒れ込む前に軽く跳び下りている。
俺たちと巨人との戦いを周りで見ていた兵隊たちから歓声が起こった。
いいんだぞ、俺たちを目いっぱい尊敬してくれて。
倒れた巨人は、地面に両手を突いて何とか上半身を起こし、一度座り込んだ。
見る間に、先ほど切断した膝の先が再生されていき、それに続いて黒いブーツも再生されていった。切断された膝から先は知らぬ間に消えてなくなっていた。
プラナリアみたいなやつだな。切断された膝から先が再生して新しい巨人が生れなかったからプラナリアではなかったか。
腐肉のゾンビ経験者からすればどうってことないが、一般人から見て骨が再生されて後から肉が再生していくところなんかは気色悪いんじゃないか?
そろそろ俺も何か技を見せないと、トルシェばかり目立ってしまうので、巨人に改めて突撃していった。
俺の突撃に対して巨人が右腕を振り上げて振り下ろしてきた。重さのある一撃なのだろうが、遅い。
簡単に躱して、ここだ!
振り下ろされた巨人のガントレットの右手首を両手に持った聖剣で切りつけた。
グシャッ!
変な音がした。巨人のガントレットの手首部分が大きく凹んで中の骨が砕けた音だ。
周りの兵隊たちから逆の意味でどよめきが起こった。一瞬視界から消えた俺が潰されたと勘違いしたようだ。
俺が巨人に近づいたのでトルシェとアズランは攻撃を控えている。
いま巨人の右手首を砕いたが、あの程度では巨人はすぐ再生してしまうだろう。さて、こいつをどう料理してやろうか?
デッカイということは、重いということだ。ならば、ここは『神の鉄槌』一択だな。
俺がそんなことを考えていたら、巨人のフルフェイスのヘルメットの中の赤い一つ目が光った。
その瞬間、俺のナイトストーカーの右半分が青白く光った。同時にすぐ後ろの地面が赤く溶融してしまった。その地面は熱気を放っている。
今のは魔神アラファトネファルの目からの攻撃と似た攻撃だったようだ。ナイトストーカーがあったから無傷だったが、直接俺が受けていたら、死ぬことはないにせよかなりのダメージを受けてたぞ。
舐めてかかることは厳禁だが、ある程度観客にはスリルを味わってもらわないと、強敵を斃した感が出ないからな。それでは改めて、
「『神の鉄槌』!」
ナイトストーカーのフルフェイスヘルメットの額部分から青い光が放たれその光が巨人を覆う。
真っ黒だった巨人の全身鎧の表面が白く変色したところで、超重力が発生。
グワシャーン!
表現に困るような音がして巨人は砕け散った。巨人の周囲の地面は今の超重力でかなり
巨人は砕け散ったその時、俺が手にしている聖剣の側面の模様が赤く輝き始めた。なんだ?
巨人だったもののカケラは、その場で崩れ去るように宙に溶け込んで消えていいった。後始末がいらないところはエコだな。巨人が消え去った後、聖剣の模様の赤い輝きも消えていた。巨人を撃破したことが聖剣にとって何か意味があったのだろうが、どういった意味があったのかは不明だ。
巨人が砕け散り、消えてなくなった後しばらくして周りから歓声が上がった。
いいタイミングで真打として登場できたようだ。
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