第29話 リスト商会
俺たちは『闇の使徒』の拠点となっていた墓場を破壊した後、
供給元をぶっ壊した関係で、市中に出回っている『パルマの白い粉』の価格が暴騰するかもしれないが、それは俺には関係ない。そう考えると、トルシェがどさくさに紛れて何袋か隠し持っている可能性も無きにしも非ずではある。
そういえば、俺がいた日本でも大規模摘発があったら、市中価格は高騰したのだろうか? 大規模とか言っても、氷山の一角にしか過ぎなければ、価格が高騰するわけもないか。どっちでもいいけどな。
経営戦略的に言っても、低価格で製品などを普及させ、消費者になくてはならないと感じさせたあと、何かと理由をでっちあげて供給を絞っていけば簡単に大儲けできるよな。
うん? いかんいかん、これではまるでトルシェ思考だ。改めなければ。
今回の墓地工場だけが供給源とは限らないが、見かけたら必ず俺たちが叩き潰してやるので、あの麻薬だけは最終的には撲滅できるはずだ。
これは、俺の自称権能『慈悲』の表れでもある。はずだ!
ただ問題は、本当の権能であるはずの『闇』の出番がなかなか来ない。具体的にどんな権能なのかもノーアイディアだがな。なので、そのうち三人で権能会議でも開いて具体的ビジネスプランを練る必要がある。
どこにリスト商会があるのかはわからないので、トルシェが道行く人に道を尋ねて進んでいる。トルシェの真の姿を知る俺から言わせれば、違和感ありまくりなのだが、トルシェが道行く男に声を掛けて道を聞くと
げに世の男どもはチョロイものよのう。
チョロ
今回は、
やっぱり、街の人のためになるダニ退治は『慈悲』の心だよな。残念だ。
「ダークンさん、アレがリスト商会だと思います」
「トルシェ、ありがと。ほう、ここがリスト商会か。結構大きな店構えだな」
少し歩かされたが、それほど時間もかからずリスト商会の前までやってきた。
『ダークンさん、店の前に数人、人が潜んでいます。どうします?』
『アズラン、潜んでいるとはどういう意味だ?』
『人目に付きにくい場所から、店を見張っているように見えます』
『どういうことかな?』
『今のところ分かりませんが気をつけておきます』
『頼んだ』
「ここは食料品の卸問屋だったっけ? なにか聞いているか?」
「さあ、どういった商売をしているとかは二人から聞いていません。トルシェは聞いてる?」
「全然聞いてない。見た感じだと店という感じじゃなくて、商品を右から左に動かしている商会って感じかな」
「トルシェ、商会が何をするところか私は具体的には知らないけれど、そもそも名まえからしてリスト商会じゃない」
「アハハハ、そりゃそうだったね」
「俺が言い始めたことだけれど、真っ当な商売をしてるんなら別になんでも構わないだろ。ここで話してても仕方ないから中に入ってみよう」
潜んでいるという連中のことはひとまず無視して、
「ごめん!」
扉は開いていたので、ちょっと偉ぶって店の中にむかって声をかけてやった。
それなりに大きな声で声をかけたんだから、誰か出てきてくれよ。
こういうのって、無反応だと困るよな。
「ごめーん!」
もう一度大きな声を出したら、店の奥の方から、
「少々お待ちくださーい」
と若い女の声がした。店の者にしては若々しいというか、幼い声だった。
奥の方から小走りでやって来たのは、年のころは十一、二の少女だった。見た目幼女のアズランの方が少し幼く見えるが、どっこいどっこいかもしれない。
少女は赤い髪を伸ばして三つ編みにして後ろに垂らしており、三つ編みの先は白いリボンをつけてほどけないようにしていた。
「リスト商会にお越しいただきありがとうございます。本日はどのようはご用向きでしょうか?」
なかなかしっかりした少女だが、商売で最も大切な接客にこのような少女を使っているということは、意外とわが信者の商売はうまくいっていないのかもしれない。信者が
「ここの主人に会いに来た」
「失礼ですが、お名前は?」
おっと、こういった場合の名前は何としたものか。何も考えてなかった。ダークンでは締まらないし、『常闇の女神』などと言ってしまうと、いくら後光で演出してもこの少女にアブない人と思われそうだ。
「俺、いや、われわれの姿かたちを主人に伝えればおのずと分かるはずだ」
いい受け
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言って少女は店の奥の方に駆け戻って行った。客を店先で待たせるとは、ますますわが信者の零落を疑ってしまうぞ。
少女が店に引っ込んで、ほどなく店の奥の方が騒がしくなって、ドタドタとリスト
「わが
娘のマレーネとシーラはおっさんが俺たちに平身低頭で話をしているあいだずーっと頭を下げていた。何もそこまでする必要はないのだが、それはそれで気持ちがいい。
「それでは失礼して入らせていただこう」
ちょっと鷹揚にかつ大物ぶって言ってみた。
店の中には商品のようなものが並んでいるのかと思っていたが、特にこれといった商品が並べられているわけではなく、そこそこ値の張るような調度品が上品に並べられているだけだった。商会というのが商社と同じような物なら、商品がないのもうなづける。
案内された部屋に入ると、そこは商談などをする応接室か会議室なのだろう。部屋の奥には生花なども生けられて落ち着いた雰囲気の部屋だった。テーブルもただのテーブルではなくおそらく紫檀かなにかの香木だろう。磨き上げられてピカピカに光っており、そのテーブルの周りに並べられた椅子も同じような木でできていて彫り物のされた立派なものだった。最初、信者の零落を危惧したが、全く心配はいらなかったようだ。
「どうぞお座りくださいませ。いまお茶などをお持ちします」
どっちが
二人ともわかっているじゃないか。
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