第30話 リスト商会2
「
「気にはしていないから大丈夫だ。それより、シーラのことだが
「簡単な事情はお聞きしました。シーラさんもできればうちで働きたいとも言ってくれていますので、このままここで働いていただければありがたいと思います」
「本人も望んでいるなら、よろしく頼む」
「はい。お任せください」
「失礼します」
しばらくして、信者1号のマレーネがお盆にお茶をもって部屋に入ってきて、テーブルの上に並べて部屋を出ていった。
おっさんの娘と言えばこの店ではお嬢さまだろうに、よく働く。だが、やはりこの店には雇い人はいないのか? 先ほども見知った三人しかいなかったし、店の中では雇い人を誰も目にしていない。はて?
『ダークンさん、店の
トルシェも不審に思っているようだ。
『俺にも分からないが、まさか店に雇い人が誰もいないということはないだろう。なにか問題があるようなら、信者1号と2号の店だ、手助けはしてやらねばな』
『さすがは「慈悲」のダークンさん』
『まあな』
「今日われわれがここに顔を出したのは、シーラのことを頼むためと、お前たち
「
「その言い方からすると、なにか問題でもあるように聞こえるが。遠慮することはないから言ってみろ」
「……」
「では、この俺が命じる。心配事を言ってみろ」
「分かりました。
実は私どもの商会は、各国の産物を差配して
「暴漢に襲われたか。うーん。そういえば、この店の前で数人潜んでいて、この店を見張ってるようだが、その心当たりはないか?」
「うちを見張っている。おそらくその連中がうちの者を襲った連中なのでしょう」
「こういう場合は、誰かに恨まれるとか、商売敵といった
アズラン、外でここをうかがっているヤツを一匹捕まえてきてくれ」
「はい!」 バタン!
アズランが『はい』と言って見えなくなった瞬間、部屋の扉が開いて閉じた。
「しかし、ケガくらいなら、ヒールの呪文なり、ある程度のポーションで直ぐに治るんじゃないのか?」
「簡単な骨折程度なら、ヒールやそれなりのポーションがあれば治せるのでしょうが、腕や足、手のひらを砕かれたりしていまして、私どもで手に入れることのできるポーションでは治らないようです。ヒール・オールの呪文を使える術師の方も王都にはいらっしゃらないのでどうしようもありません」
「そうなのか。その辺はいずれ俺が何とかしてやる。それで、店のほとんどの者が被害に遭っているということだが、
「店の者が何度か相談に警邏の
「うーん。その警邏の連中も怪しいな」
部屋の中で話をしていたら、部屋の外からアズランが、
『ダークンさん、一匹捕まえてきました。残りの連中は逃げましたが、どうします? もう一匹ぐらいなら今からでも追いかけて処分できますが』
「そいつらは、放っておいても良いだろ」
応接から出てみると、チンピラ風の男が青黒い顔をして白目を剥いて店の出入り口の床に転がされていた。
男の横にしゃがみこんだアズランが、肩にとまった妖精のフェアに、
「フェアちゃん、こいつを起こしてくれる?」
フェアは背中の鞘からインジェクターを抜いて、軽く男の首筋に傷をつけた。
青黒かった男の顔色に血の気が戻って来たようで、白目が返って気が付いたようだ。
俺は、男の胸の真ん中にある程度の体重をかけて右足を乗せて身動きできないようにしたうえで、上から、
「おい、何のためにここを監視していた? 早く言わないと、苦しむだけだぞ」
俺を見上げて男が何か言おうとしているのだが何を言っているのかさっぱり分からない。
「早く、しゃべらないか!」
『ダークンさん、こいつの胸を圧迫しすぎて、声が出ないんじゃないでしょうか?』
『この程度で、声がでなくなるか?』
『何だか口から泡ふいてる。これだと、普通に声を出しにくそうー』
見ればトルシェの言うように、口から泡が出てきてる。仕方ないので、男の胸を踏んづけていた足の力を緩めてやったのだが、それだけではしゃべり出さなかった。
しかたない。
いったん男の胸倉を左手でつかんで引きずり上げ、右手で両頬をペチペチ張ってやったら、鼻血を流しながらも目が覚めたようだ。
「おーい、何のためにここを監視していた? 誰に頼まれた?」
「……」
面倒なヤツだなー。もうちょっと力を入れなきゃだめか?
もう一回往復ビンタで、ペチペチ。
男は口の中をだいぶ切ったようで、口からそれなりの量の血がこぼれてきた。おっと、奥歯が数本折れたのか、咳と一緒に吐き出した。汚いやつだなー。信者1号の店をあまり汚したくはないので、
「コロ、悪いけど、血で汚れたところをきれいにしてくれ」
アズラン以外にはおそらく見えないような極細の触手かベルトに擬態中のコロから伸びて、あっという間に汚れがきれいになった。
「見張ってたのは、店の者が一人で中から出てきたら、
「誰に言われた?」
「マイルズ商会の会長に」
少し
「リスト、おまえマイルズ商会って知ってるか?」
「はい。いわば私の店の
「思うに、お前のとこの商隊から連絡がないのも、そのマイルズ商会の
「ま、まさか!」
「いやいや、ここまでやる相手だ。警邏も抱き込んでるようだし、そのくらいのことはすると思うぞ。
トルシェでもそう思うだろ?」
「わたしから言わせれば、ちょっとやり口が甘いかな。足の一、二本折ったくらいじゃ放っといても一、二カ月で治っちゃうでしょ? 二、三人首チョッパして、店の前くらいにぶん投げとけばインパクトもあって最高だと思うけどなあ」
「おまえならな。おまえほどのヤツはいなかったということだ。
よしわかった。
リスト。俺たちはこれからその何とか商会に行ってオトシマエをつけてくる。任せておけ。それで、誰か道を教えてくれないか? シーラ、お前知らないか?」
意味もなく俺たちの近くで突っ立ていたシーラに聞いたら、
「あの店なら薬を
「なんだ、相当な悪じゃないか。オトシマエだけじゃすまなくなったな。よしシーラ、案内頼む。
リスト、シーラをちょっと借りるぞ」
「は、はい」
俺たちは、わが信者のため、次のターゲットに向かうことになった。まさに『慈悲』の女神さまだ。
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