第28話 信者3号


 わが神威しんいに触れるがよい!


 シーラと名乗る『闇の使徒』の幹部らしい女の前で、ヘルメットをとってやった。


 一度上に持ち上げられた黒髪が肩先までゆっくり流れる。ここで俺は後光スイッチオーン。俺の背後から金色の後光が放射状に広がる。やや逆光気味のなった俺の姿に向かって、


「め、女神さま! ……」


 俺を見つめる大きく見開いた目。こいつは落ちたな。


「この俺が、邪教を滅ぼす。当然だと理解できただろ?」


「は、はい。わが行い。死して償います」


「ばかもの、死んだら償えないだろ。生きてわが信者となれ」


「私のようなものでも女神さまの信者になれるのですか?」


「今までの行いを悔い改め、われを礼拝する者はみな信者だ。

 アズラン。この女に礼拝の仕方を教えてやってくれ」


 アズランが俺に向かって、二礼二拍手一礼をやって見せた。


 それを見たシーラが礼拝を始めたので、横からアズランが、


「最初は二回頭を下げる。そう。それから二回拍手。最後にもう一回頭を下げる」


 ほう! 来ました。心地よさが体を駆け抜けていった。フォウ!


「シーラ、じきにここは俺が完全に破壊する。先にここから脱出しておけ。行き先はエルンスト・リストという男が営んでいる商会だが、知っているか?」


「大通りに店を構えているリスト商会ですね」


「おそらくそこだ。そこに行って一時そこに居ろ。俺の名を出せば悪いようにはされないはずだ。俺たちもあとで顔を出す」


「分かりました」


「それと、わが信者には決まった衣装は無いが、その格好はやめておけよ」


「承知しました。それでは着替えた後、リスト商会でお待ちしています」


「うむ」


 シーラは急いで広間を出ていった。順調、順調。



「ダークンさん。信者第3号、チョロかったですね?」


「まあな。人は極限状況ではわらにもすがりたくなるものだ。藁の代わりに俺のような女神だったら誰だってしがみつくだろ?」


「さすがダークンさん。それではさっそくお宝を拾いにいきましょう」


「残った場所も、見てみるだけは見てみないとな。それじゃあ行こう」




 大広間を後にして、階段下のホールに戻り、俺たちは最後に残った扉を開いた。


 シーラがいるので、蹴っ飛ばすと思わぬ事故が起きる可能性もあるので、普通に扉を開いたわけだ。



 扉の先は他と同じように通路になって、その通路の左右には十個ほど扉が並んでいた。最初の扉を開けると、そこは二段ベッドとロッカーの並んだ部屋だった。おそらく平の『闇の使徒』構成員のタコ部屋なのだろう。


 残った扉も一々中を覗いてみたが、目ぼしいものはなかった。


 その先の通路の突き当りの扉を開けるとかなり大きな部屋になっていた。


 その部屋には二段になった棚が二列ほど並んでいて、その上にキノコの入ったかごが並べられている。おそらくキノコを乾燥しているのだろう。


 キノコには用はないので奥の方に進むと、そこにまた扉があった。扉を開けるとまた部屋になっていて、部屋の中に並んだ長机の上には、いろいろな道具が並んで置いてあった。


 キノコや白い粉が山盛りになっているトレイが道具と一緒に置かれていたところを見ると、ここが『パルマの白い粉』の製造工場なのだろう。下っ端がせっせとここで乾燥させたキノコをすりつぶして粉を作っていたに違いない。部屋の脇には『赤き左手』で見た木箱も積んであった。


 その先にも部屋があったので先に進む。


 奥の方からシーラが赤いローブから普段着に着替えて出てきたので軽く会釈しておいた。


「ダークンさん、シーラが言ってたようなお宝は今のところどこにもないんですけどー」


「トルシェ。シーラが出てきた奥の方が幹部の居室きょしつだろうから、そっちにあるんじゃないか?」


 それを聞いたトルシェは一人で勝手に奥の方に走って行った。


 シーラは金目のものとは言っていたがお宝とは一言も言っていなかったと思うが、トルシェの頭の中ではすごいお宝があることになっているようだ。


「アズラン。悪いがトルシェを見てやってくれ」


「はい」



 どれ、俺も変わったものはないかとトルシェの後を追ったのだが、バタバタ音を立てながらトルシェが部屋の扉をあけて中に突入して、しばらくして出てくる。そしたらまた同じように次の部屋に突入する。アズランはフェアと一緒にその後を追っていく。


 トルシェの顔を見たところ、不機嫌そうには見えないのである程度の収穫はあったようだ。


 しばらくしたらトルシェがアズランを引き連れて戻ってきた。


「トルシェ。何か目ぼしい物はあったか?」


「ぼちぼちでした」


 大阪人じゃないから、ちゃんと『ぼちぼちでんなー』とは言わないらしい。


「それじゃあ、撤収して、ここを破壊するぞ」


「はーい」「はい」


 その前に街中でナイト・ストーカーを装着したままという訳にもいかないので、収納したあと下着の上に予備の服を着ておいた。





 地上に戻って、改めて墓地を見たところ、百メーター四方、一ヘクタールはある。


 俺の大神殿を建てるにはちょうどいい土地のような気がしてきた。ということは、『神の怒り』でここをぶっ潰してしまうと、あとあとの利用に支障がでそうだ。ここは、『神の鉄槌』冷凍光線なしで、重力だけで押しつぶしてやった方が良さそうだ。


「トルシェ、アズラン、二人は後ろに下がっていろ。『神の鉄槌』でここを破壊する」


「はーい」「はい」


 あまり大きくない『神の鉄槌』を四、五発発動してやったら、地下施設が崩落したのかエライ大きな窪みができてしまった。これだとこの土地の再利用は難しそうだ。


 また別の場所を考えないとだめだな。



「それじゃあ、信者1号、2号のいるリスト商会に行ってみるか。話しぶりから言ってそれなりに儲けている店のようだったが実際どうだろうな?」


「私は聞いたことのない名前でしたが、シーラが知っていたということは最近のし上がって来たのかもしれませんね」


「信者2号はやり手だってことか?」


「そう思います」



 どこにリスト商会の店があるのかアズランも知らなかったので、トルシェが道々適当に尋ねることで何とか位置は分かったようだ。



 その道すがら、


「しかし、拷問もしなかったのに、シーラは簡単にしゃべりましたね」


「うーん、どうも一般常識のような情報だったようだしな。それと俺が『女神』であることも関係あるんじゃないか?」


「それはありそうですね。神の前では嘘をつけないという話を以前聞いたことがあります」


「そうだとすると神さまの威力はやっぱりすごいな。トルシェと違っていまさら金儲けをしようとは思わないが、相手が本当のことしか喋れないなら、商売で相当儲けることができそうだな」


「そんなことを言わず、金儲けに使いましょうよ。新しい権能として『商売』はどうです?」


「トルシェ。ダークンさんの権能に『破壊』と『殺戮』ってないの?」


「一応いま売り出しているのは、『闇』と『慈悲』だったかな」


「『闇』と『破壊』と『殺戮』だよ。きっと」


「そういえば、そうかも」


 二人ともだまらっしゃい! おれは『闇』と『慈悲』の『常闇の女神』さまだぞ!

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