第27話 尋問


 目を覚ました赤服改め若い女は、俺たちに捕まっていることをすぐに理解したようで、騒ぎ出すことはなかった。



「それじゃあ俺がこいつに質問しよう」


 血管模様の浮き出たナイト・ストーカーを着た俺が女の方に近づいていったら、女はイッチョ前に体をこわばらせた。好きにしてくれ。


「おい、お前。名まえはなんていう?」


「……」


「分かっていないようだが、そこに白服が転がってるだろ? お前がちゃんと喋らないとあの白服、体の部品がちょっとずつなくなっていくぞ」


「アズラン、白服の頭巾を引っぺがして、まず右耳を剃ぎ取ってやれ。そこの台の上に散らばっている白い粉をつけてやれば止血になるだろ。顔の部品くらいなら全部取っても死にはしないだろ」


 死体に振りかけられて台の上に散らばった『パルマの白い粉』の元のキノコの胞子らしきもの。そいつを傷口にり込んでやったら、麻薬成分で痛みが取れるんじゃないか? そこから、キノコが生えれば儲けものだろ?


「まっ待って。私の名まえはシーラ」


「それじゃあ、シーラ、お前たちは『闇の使徒』を名乗っているんだよな?」


「私たちの格好を見ればわかるでしょ。誰が見ても『闇の使徒』だってわかるわ」


 いかにも『闇の使徒』がメジャープレイヤーだと言いたげな口ぶりだ。


「あのなあ、お前たちは『闇』とか軽々しく口にしているが、恐れ多い言葉なんだぞ。無知は罪だからな。だが今はまあいい。それで、お前たちの崇める神の名は何て言うんだ?」


「それも知らないの?」


「いいから言え!」


「『黄昏のあるじ』この世を黄昏から闇へ導く偉大なる神よ」


あるじの名は知らないのか?」


「『黄昏のあるじ』には名などないわ」


 自らの神の名は知らないのか。多分こいつらの神はあの邪神アラファトネファルで間違いないだろう。


「おまえたちがここでやっていた儀式は一体何の儀式だ?」


「眠りについている『黄昏のあるじ』に生贄いけにえを捧げて眠りから覚めてもらう儀式よ」


「その生贄が心臓なのか?」


「そうよ。生贄として心臓を捧げ続けるとやがてあるじは目覚めるわ」


「あの白い粉は何のために?」


「『パルマの白い粉』で廃人にしたものを引き取ってきて生贄にするためよ。廃人を引き取ってくれば世間からはありがたがられるし、粉で廃人になって心臓を抜き取った後の死体はいい菌床になるの」


「そうか。大体のことは分かった。最後にお前たちの本部というか本拠地はここなのか?」


「そんなわけないでしょう。わたしたちの本山はハイデンの王都にある大神殿よ」


「わかった。おまえはそこでおとなしくしてろ。

 この女だけで聞きたいことはだいたいわかったな。トルシェ、ハイデンって知ってるか?」


「西の方にある、大きな国じゃなかったかな?

 アズランは知ってる?」


「私もそのくらいしか知らない」


「大国なのか。それなら街で調べればもう少し詳しく分かるだろうから、今はいいか。それじゃあ、次いってみよう」


 白服の頭巾を引っぺがしたら、中からツルピカ男が出てきた。


「アズラン、頼む」


 フェアはまた、インジェクターで軽く男の首元にキズをつけた。そこで俺がガントレットをつけたままの手で、頬をペチャペチャ叩いてやる。幾分頬が切れて血が流れ出てきたがインジェクターに付いた万能薬の効果かすぐに治ったようだ。


「おい、起きろ!」


 もう一回、頬をペチャペチャしてやったら目がさめたようだ。


「おい、お前のなまえは?」


「貴様は先ほどの怪人! どこの誰なんだ?」


「質問は俺がしてるんだ」


 ローブの襟元を左手で掴んで、右手で少し強めに頬をはたいてやったら、口の中が切れたらしく、口の脇から血が流れ出てきた。こいつ殴られ弱いな。万能薬の効果もそろそろ切れてきたのか、血は止まらないようだ。


「それで?」


「ひっ、わたしの名まえはジョイナスだ」


「おまえ、そのとしになって口の利き方も知らないのか?」


 もう一度、強めに頬をはたいてやったら、今度は奥歯が折れたらしく、折れた奥歯を血と一緒に口から吐き出した。汚いなー。


「それで?」


「ジョ、ジョイナス、です」


「それでいいんだよ。ちゃんとしろよ。それで『パルマの白い粉』はおまえたちが作ってるんだろ? 何のために作っているんだ?」


「それは、……」


「知らないのか。それじゃあ仕方ない」


 今の俺の言葉であからさまにほっとした顔をしてるよ。こいつ、頭が足りないんじゃないか?


「おまえたちの儀式は何の儀式だったんだ?」


「それは、……」


 こいつは、自分の立場が全く理解できていないようだ。さっきの女の方がよほど頭がいい。


「わかった、何も知らないなら、用はない。そんじゃあな」


 最近出番のあまりなかったスティンガー(注1)でこいつを殺せば少しは強化されるかもしれない。と思って腰の鞘から抜き出して、頭の悪い男の胸に突き入れてやった。


 しばらく突き入れていたら、ようやく男が死んだのか、俺も元気が湧いてきたようだ。


 もうこいつらには聞くこともなさそうなので、ただ一人寝ている赤服もスティンガーの餌食になってもらった。


 後残るは、赤服のシーラだけだ。俺が無造作に二人殺しても騒ぎたてもせずにじっとしていたところは評価が高い。


「最後にお前ひとり残ったが、何か有用な情報はないのか?」


 尋問中じっとしていたトルシェが、横合いから、


「金目のものがここには見当たらないけれど、どこかに無いのかな?」


「この広間を出て右手に行けば私たちの居住区と作業場・・・があります。そこならある程度高価なものがあると思います。これくらいしか私には情報はありません。私も殺されるのですか?」


「おまえたちのしていたことをどう思う?」


「?」


「おまえたちの自己満足のためにただの人をお前たちは廃人にしてその後殺していたわけだ。何とも思わないのか?」


「私たちの神のためになしたことで、あなたは私を断罪しようとしているのですか?」


「そうだ。おまえたちの神は、偽りの神、魔神『黄昏のアラファトネファル』だ! 真の神、この『常闇の女神ダークン』に断罪されて当然だろう」


 そういって俺はフルフェイスのヘルメットを女の前で取ってやった。




注1:スティンガー

ダガーナイフ。刺すことで、防御力を無視して貫通。命を奪うことにより強化される。命を奪うことにより使用者の気力・体力を回復。自己修復機能を持つ。


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