第26話 ポポポポポーン!


 様子を見ていたら、ビールの栓抜き競争のような塩梅あんばいで、覆面たちの頭の上半分が覆面と一緒に天井に向かって吹っ飛んでいく。


 ポポポポポーン! って感じだ。


 俺は何だか馬鹿らしくなったので、その場に突っ立って栓抜き競争を見ておくことにした。


 赤服がステージを降りてこっちに向かってくるのだが、ポポポポポーンに恐れを抱いたのか、いったん立ち止まり、歌とは別に何やら唱え始めた。


 今度は、体の中からポカポカと血流が良くなってきたような気がするぞ。いいぞ、いいぞ。もっとヤレー!


 そうだ! 俺がこのままじっとしていたら呪いかなんかにかかって身動きできなくなったと赤いやつらが勘違いするかもしれない。物は試しだ。じっとしておこう。


 そう思って、突っ立っていたら、次の列の頭も、ポポポポポーンで吹っ飛んでいった。


 そこで、やっと歌が終わったようで、ステージの司祭?が俺を指さして大声で、


「侵入者だー! 殺せー!」


 とか叫んだのだが、今頃侵入者は無いだろう。


 後ろを振り返った黒覆面たちが腰に下げていたメイスを手に構え突っ立った俺の方に近づいて来る。


 そして、また一列分が、


 ポポポポポーン!


 覆面たちの足が一瞬止まって、また前に出ようとしたところで、


 ポポポポポーン!


 結局、黙って突っ立って連中が近くに来るのを待っていたら俺のところには誰も来ないうちに衛生商品コンちゃんズは全滅してしまった。


 ステージの上の司祭?は、大声でステージの上に残っている赤服六名ほどに何やら指示を出していた。


 そしたらその六人は後ろを向いてあの気味の悪い像に向かって歌を歌い始めた。


 あららら、邪神像の目が開いた。最初からいきなり目が開いちゃあ迫力に欠けるだろう。


 胸像かと思っていた像が、台から抜け出ようと両手を台について体を持ち上げた。その拍子に台が割れてしまい。下半身がちゃんとくっついた邪神が全身を現した。


 よくできた邪神像だが、本物を知っている俺たちからすればちゃちなオモチャだ。


「あれれれ? ゴーレムじゃあお金にならないじゃん」


 わが右腕はいたく失望されたようだ。


「そういうこともある。トルシェ。面倒だから邪神像、壊しちゃって。大迷宮で出会ったゴーレムなんかよりよっぽど弱そうに見えるけどどうかな?」


「金物のゴーレムだからとりあえず凍らせて様子をみますか。

『フリーズ』」


 ゴーレムまでの距離はまだだいぶあったのだが、トルシェの右手から青白い光の粒々がゴーレムに向かって放たれた。


 距離があったせいか、光の粒々はゴーレムにあたる前にはかなり拡散してしまい、近くにいた数人の赤服も一緒に凍り付いてしまった。凍り付いてしまった赤服は立っていられずバランスを失ってステージの床に倒れたら粉々になってしまった。


 ゴーレムも表面を真っ白にして凍り付いて動けなくなったようで、倒れはしなかったが、その場で止まってしまった。


 トルシェは凍り付いたゴーレムに向かって、キューブから取り出した『烏殺』に矢をつがえ、そのまま撃ち込んだ。


 強化されたトルシェの矢はゴーレムの眉間に突き刺さり、


 ビシッ!


 っと、音がして、矢の命中した眉間みけんから亀裂が胸にかけて広がった。


 そして、その亀裂に沿って頭から胸まで岩が砕けていくようにボロボロと崩れていき、バランスを崩したゴーレムはそのまま床に倒れ込んで、衝撃で胸から下もバラバラになってしまった。


 ありがちな最期だった。


 トルシェが強くなったのもあるだろうがそれにしても弱っちい。


 ステージ上で生き残っているのは司祭?と赤服が二名。


 俺の方を向いて何やら歌っていた赤服四人はもうトルシェのスッポーン四連発で床に転がっている。


 さすがにこれはマズいと思ったのか司祭?と赤服がステージの脇の方に走り出したところで、そのままその場に倒れてしまった。


 やったのがトルシェだとスッポーン攻撃で死んでいたはずなので、姿を隠していたアズランかフェアが何かしたのだろう。



 広間の中は死体だらけ、血の海になってしまったので、コロに処理をさせている。業務用掃除機などは使ったことはないが間違いなくそれ以上の性能だ。みるみる部屋の中が片付けられて行く。


 結局俺は掃除しただけのような感じだが、それもいいだろう。あんまり壊しまくったり殺しまわっていたら、俺の権能に『破壊』だの『殺戮』だのがついてしまうからな。『闇』と『慈悲』の権能獲得のため妙なことはできないのでこれはこれで良かった。


 とりあえずトルシェとステージの上に上がったところで、フェアを肩に乗せたアズランが現れた。


「こっちの三人の方が尋問するにはよさそうなので、最初に捕まえていた三人は処分しておきました」


「アズラン、ご苦労さん」


 アズランは優秀だねー。


 そして、トルシェの方を見ると、さっそく炎の上がっている金属の筒をキューブに仕舞い始めた。


「まったく、たったのこれだけ? バカにしてるなー」


 とか、ブツブツひとり言を言いながらの作業だ。


「あれ? この筒は真鍮しんちゅうかと思ったけれど、金だ!

 金だ、金だ、キンキンキン」


 最後の方は歌い始めてしまった。これで一気にトルシェの機嫌が直ったようだ。


「トルシェ、良かったな」


「あれだけ大きな筒だとかなりの金額で売れますよ!」


「そこらはトルシェに任すから好きにしてくれ。

 それじゃあ、アズラン。白いヤツから起こして尋問を始めるか」


「ダークンさん、尋問じゃなくて拷問でしょ?」


「肝心なことが聞き出せればどっちでもいい」




「今回の訪問は、最初の臭臭くさくさ攻撃も含めて、あまりにもあっけなかったですね」


「そうだな。こんなのでいいのかという気もする。そこの二人を尋問すれば何かわかるだろ」


「それじゃあ先に赤いのからいきますか?」


「そうだな、白いのが一番情報を持っていそうだから、白を尋問する前に予備知識があった方がいいからな」


「分かりました。

 フェアちゃん、こいつを起こして?」


 アズランはそう言って意識を失って床で転がっている赤服の一人を指さしてフェアに指示した。


 フェアが眠らせたのだろうが、フェアにその眠りを覚まさせるようなスキルがあったかな?


 見ていたら、フェアが肩にかけていた鞘からインジェクターを引き抜いて赤服の手首筋に切りつけた。うっすらと手首から血が出てきた。『万能薬』で解毒したようだ。切り傷はすぐに治ってかすかに血がこびりついているだけになった。


 アズランがそいつの覆面を引っぺがしたら、その下から現れたのは若い女の顔だった。その顔をアズランが平手でぺちぺちして目を覚まさせる。



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