第109話 軍隊


 俺が兵隊たちを一丁んでやるかと立ち上がってエクスキューショナーを構えたら、近づいてきていた兵隊たちに緊張が走った。


 どう考えても、槍の間合いと俺のエクスキューショナーの間合いは槍の方が長いと思うのだが、俺の力も分からないのに、そこまで緊張することも無いだろう。心に余裕を持って対応した方がいいぞ。適度な緊張はどんな戦いでも必要だと聞いたことがあるが、緊張しすぎてビビってしまうと体が動かなくなる。


 俺が一気に加速して、五人五人の二段の横列で近づいて来ていた兵隊の真ん中に突っ込んで行ってそのまま通り過ぎてやった。その間に、内側の三人ずつ、計六人の首を刎ねている。盾を構えていたが、俺のぶちかましで構えが崩れ、首がおろそかになったところを刎ねてやった。実際は、盾があればあったで一緒に切り飛ばすだけなので、そんなに差はないんだがな。


 残りは左右に別れた二人ずつの四人。そして振り向きざまに、斜めに切りかかり、二人の首が飛んだ。


 残りは二人。最初に入ってきた兵隊が孔のそばで様子を見ていたがすぐにどこかに行ってしまった。報告に戻っていったのだろう。


 俺もこのところそれなりに場数を踏んだせいか、剣技というほどではないのだが、首を刎ねた後、胴体から吹き上がる血を浴びずに済ませることができるようになった。日々精進していた成果だな。


 要は刎ねた後の首の位置まで考えて、首を刎ねればいいと気付いたわけだ。宙に飛んだ首から滴る血は数滴浴びてしまったが、コロがすぐにきれいにしてくれるので、ナイトストーカーはきれいなままだ。


 俺には通用しないが、首を守るため、硬いもので高い立てエリをレザーアーマーにつけた方がいいぞ。



 一瞬のうちに十人中八人の首が飛んで、残った二人は槍を捨てて降参しようとしたので、


「とっととどっかに行け」


 と言ってやった。


 そしたら槍を放り投げたままで孔の方に走って逃げていった。


 一度でも神たる俺に刃物を向けた連中だ。俺は逃がしてやるとは一言も言っていない。床に転がった槍を二本拾い上げて、逃げていく二人に向けて順に投げつけてやった。どちらの槍も兵隊に鎧ごと貫通していった。なかなかいい槍を使っていたようだ。槍に比べてレザーアーマーは粗悪品だったな。


 出ていった兵隊以外、皆殺しにしてやった。さて、相手は次にどういった手でくるか。


 普通なら、近接戦でなすすべがない相手に対して、弓とかクロスボウとかの飛び道具を使うべきだろうが、連中は用意してないようだ。


 窓から眺めていたら、二十人ほどの一隊が別れて、コロの作った孔の方に近づいてきた。さらにもう一隊二十人ほどが、孔とは逆の左手の方に走っていった。広場に残っているのは、馬に乗っていた一人と兵隊が五十人ほどだ。


 左手に行った一隊と孔からの一隊で、俺たちを挟み撃ちにするつもりなのだろう。


 さっき切り飛ばした頭がヘルメットを着けたまま後ろに転がり、ちょうど鳥かごの前で止まっている。鳥かごの中で体育座りしているサティアスとにらめっこしている感じだ。サティアスくん、その頭を相手ににらめっこでもして暇をつぶしておいてくれ。



「トルシェ、アズラン。後ろから連中の一隊が来るようだから近づいて来たら適当にやっちゃってくれ」


「はーい」「はい」


 二人は俺に返事をしながら、木の実を食べ続けているのだが、相手はタダの兵隊だ。まあいいだろう。気を許していようが、よそ見をしていようが、何がどうなるわけでもないからな。


 しばらく待っていたら、通路の前後に兵隊が現れた。挟み撃ちは良い作戦と思うが、こんな場所に大人数の投入は無駄でもあるし、かえって動きが制限されると思うよ。


 先ほど十名が文字通り全滅したのだが外で指揮を執っている人物はよほど無能なのか? 敵の指揮官が有能であるより無能である方が喜ばしいのは確かだが、少々有能な指揮程度で補えるような戦力差とは思えないぞ。


 戦力が隔絶している場合、戦術的最善手は撤退しかない。戦力差の見極めと撤退できる勇気が必要だが、そういったマトモな人物は出世しないだろうし、こんなところにいないわな。



 前後に囲まれた形になったのだが、兵隊たちは盾を構えて隊列を作った切り動かなくなってしまった。それならそれでこっちから仕掛けてやろうとしたら、例の指揮官が窓の近くまでやって来て、


「お前たちは包囲されている。武器を捨ててそこから出てこい」


 確かに見た目は包囲されている。


 面白いので、


『コロ、そこの窓の周りを食べて孔を空けてくれるか、縦横二メートルくらいかな』


 すぐに目の前の壁が消えて無くなった。


 新しくできた孔をくぐって、俺が一歩二歩と前に出たら、指揮官のおっさんが一歩二歩と後ずさりする。だれもわが身は可愛いわな。


「で、どこの誰が包囲されてるんだ?」


「なんだ、お前は? 女なのか?」


「それがどうした? お前も、後ろにいる連中も、俺が怖くないのか? さっき八人ほどの首を刎ねて、残りの二人は槍で串刺しにしたが、ものの五秒もかかってないぞ。ちがった。槍で串刺しにしようとしたら、槍が貫通してしまって串刺しにはならなかった、訂正しよう」


 普通なら『訂正して、お詫び』ものだが、お詫びはいらないだろう。


 五秒という言葉が相手に通じたかどうかは分からないが、十分俺の言葉は効果があったようで、おっさん含め後ろの兵隊たちが明らかに怯えているのが分かる。


「おまえたち。知らなかったといえ、神にやいばを向けたんだぞ、その罪は万死に値する。そうだろ?」


「神?」


「そうだ。この俺さまがその『神』さまだ。そこの瓦礫の山がみえるだろ。俺が邪神の塔を叩き潰した成れの果てだ!」


 実際は勝手に崩れたのだが、まあ俺たちが壊したといっても差し支えないだろう。


「一度しか言わない。良く聞け、俺の名前は」


 ここで、演出効果を高めるために一拍置いてみた。


 そしたら、俺の後ろの建物の中から、


 パリ、ポリッ、ペッ!


 が聞こえてきた。演出失敗だ。まあいい。


「俺の名前は『常闇の女神』だ」


 ここで、後光スイッチオーン。


 これはサービスだな。こいつらは既に皆殺し確定なので、死出の旅路への餞別だと思ってくれ。



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