第173話 帰還?

[まえがき]

ここまでお読みくださりありがとうございました。

『常闇(とこやみ)の女神~』これにて完結です。最後までよろしくお願いします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「女神さま。お久しぶりでございます。お待ちしておりました」


 俺たちを迎えに出てきた恰幅のいいおっさんはリスト会長で30がらみの女はリストの娘のマレーネだった。


「元気そうで何より」


 鷹揚に軽く会釈して、二人に案内されるまま、二列に整列する店の者たちの間を通り建物なかに入っていく。


 玄関の中は大ホールになっており、そこかしこに大理石の石像が立っていた。どうも見たことがあると思って石造をよく見ると俺たちをかたどった石像のようだ。似ていなくもないが、はっきり言ってそこまで似ているわけでもない。そこを指摘するほど俺もバカではないので、リスト会長に向かって石像のことを適当に褒めてやったら嬉しそうにしていた。


 俺たちはリスト親娘おやこに大ホールの先の応接室に案内された。通された部屋の内装も立派だったが、部屋の真ん中に見事なテーブルと椅子が並んでいた。真っ黒で深みと艶のある木製のテーブルと椅子だ。テーブルの角や椅子の足などには彫刻も施されている。材質はどうも黒檀のようだ。


「女神さま、こちらでしばらくお休みいただいたあと、表に馬車を回しますのでさっそく神殿をご確認ください」


 席に着いていたら、すぐに店の女性がお茶を人数分もって来てくれた。


 お茶を一口口に含んだところ、俺でもうまいと思えるお茶だった。こんなところにも景気の良さが現れている。


 信者の繁栄は俺の喜びでもある。非常に満足だ。礼拝だけでなく、こういったことも女神の喜びになるとは新しい発見だ。これからも信者たちの役に立つようなことは積極的にやっていくぞ。


 しばらく席に座って寛いでいたら、店の者がやって来てリスト会長に何か報告をした。


「馬車の用意ができたようです」


 リスト会長の案内で玄関を出ると立派な黒塗りの4頭立ての箱馬車が停まっていた。


 リスト会長が扉を開き俺たちが中に入っていく。タートル号はさすがに玄関ホールの中に置いてきたが鳥かごを抱えた黒ちゃんは俺たちと一緒だ。


 おそらく8人乗りの大型馬車に、俺たち4人とリスト会長とマレーネが乗り込んだ。トルシェとアズランは小柄なのでかなりゆったりしている。


 しばらく馬車に揺られていたら、


「到着しました」


 そう言ってリスト会長とマレーネが先に馬車から降りて俺たちの降りるのを待っている。


 馬車を降りた俺たちの目の前には、10年前完成図で見ただけの黒光りする大神殿が青空の下にそびえ立っていた。ここからでも6本の尖塔が全部見えたが、思った以上に尖塔の先端は高い。


 素晴らしい、これこそが俺の大神殿だ!


「うおおー!」


「すごい!」「はーー!」


 実物は迫力が違う。大神殿の周りは3メートルほどの塀で囲まれていたが、その先にはいろいろな木が植えられているようだ。最初ここを見たときに敷地内に生えていた木々は枝や葉が伸び放題でそれはそれで趣があったが、新しく植えられた今の植栽はきれいに選定されて見事なものだ。


 開きっぱなしになっていた門から敷地の中に入ると、黒い玉石が敷き詰められている。その上に立つと、石と石がこすれて新鮮な音がする。


 玉石が敷かれた神殿正面の広場をまっすぐ進み、石の階段を上った先の巨大な出入口の先は広大なホールだった。ツルツルに磨き上げられた黒御影石みかげいしの床に俺たちの姿が上下さかさまに映し出される。鏡のように磨き上げられているので、スカートの中が床に映って見えそうだ。


 ホールの両脇にはズラリと黒御影の台が置かれ、その上に俺たちをかたどったの大理石の石像が立っていた。リスト商会の玄関ホールにあった石像の3倍はある。ちょっとやり過ぎじゃないかと思ったが、信者の気持ちと素直に受けとっておこう。


 大ホールの正面はステージだ。石の階段で上り下りできるようになっている。上った先のステージの床も正面の壁も磨き上げられた黒御影だ。


 どこもかしこもピカピカだ。それが黒御影石を磨いたものだから、落ちついた雰囲気がありケバさがない。ようは俺のように上品なうえにも豪華さが漂っているわけだ。



 ステージの裏側からが神官たちの居住区になっている。居住区の最上階が俺たち専用のフロアーになっているそうで食事以外なら今からでも使えるそうだ。すでに部屋の中には衣装などが用意されているという。後で確認しよう。


 たった三人しか使用することのないフロアーなのだが、どうせトルシェが空間拡張してしまうのだろう。放っておくと迷路になるかもしれない。


 そうすると余裕で迷子になれる俺は、自室周辺以外出歩かないように気を付けないとな。


 神殿内をリスト会長とマレーネに案内されながら、神殿のスタッフについて俺の思っていることを二人に話しておいた。


 神殿の運営は最初の構想では俺たち三人が中心でやっていこうと思っていたがさすがにご本尊様本人とその眷属二人が運営するのはおかしいと気付き、リスト会長を大神官長して大神殿の全般を任せることにした。リスト会長も大神官長の職を快く引き受けてくれて、自分の商会は娘のマレーネに任せると言ってくれた。マレーネも驚いたようすではなかったので、親娘おやこであらかじめそのような話し合いでもしていたのかもしれない。


 落成式の大神殿の人員スタッフは、魔術師ギルドのトルシェ2号の養成した陸戦隊員たちに頭からすっぽりかぶれる黒いローブを着せてそれらしくさせることにした。何の役にも立たないだろうが、ステージの両脇にずらっと並ばせておけばそれなりに見栄えも良い。そのほかの事務的な人員の手配は全てリスト会長がやってくれた。




 俺たちが王都に到着して2カ月が過ぎた。その2カ月の間リスト大神官長は落成式の段取りをしていたようだ。俺たちはその間、王宮に行ってマリアに会ったり、魔術師ギルドに顔を出して冷やかしてみたり、居住区の最上階のフロアーの改造をしたりして過ごしていた。


 10年ぶりにマリアに会いに王宮に行ったら、マリアはもう20歳だ。立派な女王さまになっていた。摂政として後見させていたジーナは今では宰相だそうだ。



 世の中は変わっていく。変らないのは俺たちだけ。


 10年経ったがトルシェもアズランも小柄なまま。顔かたちも一切変化がない。もちろん俺もそうだ。今ではマリアは俺と同い年に見える。定命のものと俺たちとの時間の違いを感じ何だか悲しい気持ちになってきたが、そこは表にださずマリアと楽しいひと時を過ごすことができた。




 そして今日ついに大神殿の落成式を迎える。


 リスト大神官長によれば王都に限らずアデレート王国中から信者が集まるそうだ。


 その関係で落成式の準備に2カ月かかったわけだ。もちろん王宮からもマリア女王を始め宰相のジーナほか国の重鎮たちも参集するため貴賓席なるものが作られたそうだ。


 リスト会長が集計したところ、落成式に参集する信者数は20万にも及び、そのうち王都外から5万の信者が集まるらしい。そのため、既存の宿泊施設では足らず、王都内各所に臨時の宿泊所をリスト商会とマイルズ商会それにマグショット商会で設けたそうだ。むかしはインチキ金融業者だったマグショット商会だがいまでは王都でブイブイ言わせているようだ。俺が会長にしてやったハウゼンもいまや王都の名士だそうだ。



 マリア女王初め多くの王国重鎮、リスト商会の影響力の及ぶ多くの商会などからの出席者で大神殿の大ホールは落成式の開始前に満員になった。敷地の中から通りにかけて信者があふれ大変なことになってきた。


 俺の今日のいでたちは黒く染めた絹のローブ。襟や袖口それに裾に金糸で刺繍が入ったものだ。トルシェとアズランには銀糸の刺繍が入っている。


 俺はトルシェとアズランを引き連れ、ゆっくりとステージの袖から中央に進み出る。黒ちゃんは俺たち専用フロワーでお留守番だ。コロはいつものように俺の着ているローブのベルトに擬態中で、フェアはアズランの肩の上だ。


 俺たちがステージの真ん中に立った時、6本の鐘楼の6種の鐘の音がカランカランと鳴り始めた。


 鐘の音が鳴り響く中、大ホールの信者たちがステージの上に立つ俺に向かって一斉に二礼二拍手一礼を行った。大ホールに入れなかった信者たちも一斉に礼拝をおこなったようだ。主催者発表の20万人は伊達ではない。



 俺の神威が爆発的に高まってきているのが分かる。何かが起こる!


 開け放たれた天窓から見えていた青空がいきなり暗くなった。雲が出て陽が陰ったわけではなく、太陽の光そのものが失われたようだ。


 わが『闇』の神威があまねくこの世を覆った瞬間だ!


 俺は歓喜のあまり目の前が真っ白になり、何もわからなくなってしまった。これこそが至上の悦び、天上の至福。


 カランカランと鳴り響く鐘の音の中で、すーっと俺の意識が遠のいていった。


 ……。




 大勢の信者の礼拝を大神殿で受けた結果、あまりの歓喜に気を失っていたようだ。


「あれ? 信者たちは? あれ? ここはどこだ?」


 見回すと、トルシェとアズランがボーとして辺りを見回している。


 俺たちが立っていたのは背の高いオフィスビルに挟まれた舗装道路の上だ。向こうから走ってきた乗用車に軽くクラクションを鳴らされたので、トルシェとアズランの手を引っ張って歩道の上にあがった。歩道の上を歩く人々に奇異な目を向けられたが、その連中は紺やグレーのビジネススーツを着た日本人の男女だ。俺たちをコスプレイヤーとでも思ったのは、スマホで俺たちを撮る連中までいた。


「もしかして、ここは日本なのか? それも東京?」


 ビルの隙間から真上・・の空を見上げると長四角な白い月が出ていた。


 ここは俺の知っている地球とうきょうなのか?




(完)




[あとがき]

最後までお読みいただきありがとうございました。

フォロー、☆、応援ハート、誤字報告などありがとうございました。


結局、フェアとコロも一緒に3人は東京らしき都市に。


なお、この作品は『真・巻き込まれ召喚。~』のだいたい200年ほど前の無理やり設定です。その関係で本作の登場人物の子孫が『真・巻き込まれ召喚。~』内に何人か登場しています。



続編宣伝:

ファンタジー『秘密結社、三人団 -神の国計画-』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426096659154



完結作宣伝:

宇宙ものSF『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641

既にお読みの方は最後の長四角の月の下りはご理解いただけると思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

常闇(とこやみ)の女神 ー目指せ、俺の大神殿!ー 山口遊子 @wahaha7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ