第172話 闇の大神殿
コテージの中にトルシェが冷蔵室も作ってくれたので、冷たい飲み物も手に入るようになった。もとからあった食糧庫の奥の方を確認したら、ワインやエールの樽が置いてあった。各種の蒸留酒の樽まであるじゃないか。しかも驚いたことに、コメの酒としか思えない酒も樽に入ったものが大量に見つかった。やはりこの食糧庫は変だ。俺が欲しいと思っていた食料品や調味料、酒がいつの間にか取り揃えられている。
一度試しに食糧庫の外で、
「カレーが食べたーい!」とか10回ぐらい大きな声を出してやった。トルシェとアズランが結構驚いていたが、かまわず食糧庫の中に入って行って中を調べたら、思った通り、カレー用と思えるスパイスの入った瓶がずらっと並んだ棚が出現していた。
まさにスーパーマーケットだ。食べ物については全く不満が無くなってしまった。
今では当然鰹節も煮干しもコンブも食糧庫の中に入っている。もちろん米も食糧庫の中に入っている。
黒ちゃんは味見はできないのだが、黒ちゃんの前で俺が一度作って見せた料理は、正確に食材の分量と投入時期、時間、温度を覚えているようで、俺の作ったものと同じ料理が作れるようになっている。
今では、にぎりも黒ちゃんが握ってくれる。
俺たちは、アーリーリタイアメントしたお金持ちそのものの生活を送っていった。
ある時は、みんなで湖の周りを数カ月がかりで一周してみたり、ボートを作って湖に浮かべてみたりして面白おかしく生活していたらあっという間に月日が流れていった。
そんな生活をダンジョンの中で10年近く送っていたら、王都セントラルのリスト商会のリスト会長から大神殿の完成が間近だとテルミナに連絡があった。
完成までには30年はかかると言われていたようだが、トルシェの残していったゴーレムの活躍で10年で目途が立ったようだ。ゴーレムたちはまだまだ元気なようで、大神殿工事が完了すれば、次は王都から伸びる街道整備に使うそうだ。
どうしてダンジョン内にいる俺たちにリストから連絡が届いたかというと、
トルシェに新たに召喚してもらった黒ちゃん2号を、連絡係として冒険者ギルドに置いていたのだ。
最初、金カードを首からぶら下げた俺たち三人で黒ちゃん2号を連れてギルドの中に入っていき、ギルドの受付嬢に事情を説明して、今後王都から俺たちに連絡があるようなら黒ちゃん2号に言伝ててくれと頼んでおいた。
黒ちゃん2号は用事ができるまで、このままホールの隅で何年間でも立っていることを伝えてたら、最初ギョッとされたが、隣の受付嬢から何か耳打ちされたその受付嬢は分かりましたと答えてくれた。
きっと何か俺たちのよい噂を隣の受付嬢から聞いたのだろう。
そのあと、商業ギルドにまわって、王都のリストに手紙を出した。リストへの手紙には俺たちに用事があればテルミナの冒険者ギルドに言づけるよう書いている。
そのリストから連絡を受けた俺たちは、田園コテージを後にして、本当に久しぶりにテルミナの街に出ていった。俺たちがダンジョンで悠々自適に暮らしていた10年ほどの間に、テルミナの街の名前がキルンになっていた。どういう経緯があったのか俺にはわからないが、多分どこかの誰かのご都合主義で変更されたのだろう。
そのせいで、これまでテルミナのダンジョンと呼ばれてきたダンジョンがキルンダンジョンという名前になっていた。俺にとってはどうでもよいことなので、関係者出てこい! 責任者出てこい! などととクレームを入れてはいない。
街の北門まで移動した俺たちは、ほぼ10年ぶりにタートル号に乗り込んだ。
そしたら鳥かごの中に入ったオウムがつぶらな瞳で俺たちを見ていた。
「あっ! オウムがいた!」
「久しぶりにオウムを見たけど、こいつの名前は何だったっけ?」
「えーと、確か最初は『ダ』から始まったような」
「ダークンは俺だし、何だったけな? ダルマじゃないし、ダンゴムシじゃないし」
「すみません。悪魔サティアス・レーヴァです」
「おっ! オウムが喋った」
「ダークンさん、オウムが喋るのは普通ですよ」
「すみません。女神さま、悪魔サティアス・レーヴァです。思い出してください」
じっと、オウムを見てみてが、見てくれは悪いがタダのオウムだ。
「それで、自称悪魔サティアス・レーヴァ、一体お前は何なのだ?」
「サティアスですよ。虐めないでくださいよー。ぐすん」
オウムがわざとらしく泣き始めてしまった。
「黒ちゃん、オウムがうるさいから、面倒を見てやってくれ」
黒ちゃんに丸投げしてやった。黒ちゃんは鳥かごを抱えて寝室の方に持っていった。黒ちゃんは実に気が利くねー。
行き先をタートル号に告げた俺たちはさっそく酒盛りだ。タートル号の食糧庫の中には今は何も入っていないので、トルシェがコテージからキューブに入れて持ってきた食材や酒を冷蔵室にしまって行った。もちろん氷は全部融けていたので新しくトルシェがつくっている。
「さあ、酒盛りだー!」
「イエーイ!」「アハハハ!」
俺たちが一般人だったら完全にアル中になってたな。
王都に到着した俺たちは、タートル号を降りてリスト商会に。
俺たち三人の後ろを鳥かごを持った黒ちゃん。そしてオオガメモードのタートル号がついて来る。
リスト商会の前に着いたのだが、そこは以前見たリスト商会ではなかった。
「なんだ、ここは?」
「大きい」
「こんなに立派になってるってことは、繁盛してるんでしょうね」
「そうなんだろうな」
俺たちが、どこかの宮殿のような石造りの店の前で建物を見上げていたら、店の扉が開き中から立派な服を着た恰幅のいいおっさんを先頭に30くらいの女と、その他大勢が駆けだしてきた。
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