第171話 うんまーい!


 俺の黒髪はこんなにフサフサなのに、ボウズとはこれ如何いかに?


 トルシェとアズランが3匹ずつマスを釣り上たらバケツが一杯になった。これ以上二人だけ・・が釣果を上げることにがえんぜず、我は道具をそそくさと仕舞うのであった。


「そろそろ、釣りは終わりにしよう」


「えー、面白くなってきたところなのにー!」「まだまだいけます」


 マスは6匹ともバケツの中で死んでいる。


「バケツがもう魚で一杯だから、こいつらを食べてからにしないか? 遊びのためだけに生き物をあやめるのはあまり感心しないぞ」


 俺自身そんなことはちっとも思っていないがそれらしく言ってみた。


「ダークンさんが言うなら仕方ない。それなら早く食べちゃいましょう」「はーい」


 トルシェも素直ではあるからな。



 二人も道具を仕舞ったので、釣果の入ったバケツを持ってコテージに入り、一匹だけキッチンに置いて後はバケツごと食糧庫に入れておいた。


 俺が下ごしらえをするところを黒ちゃんによーく見せて、手順を覚えさせることにした。アズランなら俺のやっていることくらい直ぐに俺以上にできるようになるのだろうが、あくまでも料理人養成のためだ。


 キッチンにある道具類をまず確認してみたところ、切れそうな出刃包丁。長刃の包丁。ぶつ切り用の鉈のような包丁などいろいろな包丁が並んでいた。



 さて、下ごしらえを始めるとするか。


 まず、黒ちゃんを俺の近くに呼んで、


「黒ちゃん、俺の手さばきをよく覚えておくんだぞ」


 黒ちゃんが頷いた。



 マスは表面がぬめっているので壺に入っていた塩を多めに振りかけて揉むようにぬめりをとっていく。二回ほど同じ作業をしたらすっかりぬめりが取れた。


 ぬめりが無くなってマスが持ちやすくなったので、出刃包丁でまずヒレを切り取り、頭を落としてから尻からエラ元まで包丁を入れてから内臓を掻き出してやりエラもとってやる。


 ここで一度、腹の中まで流水できれいに洗ってやった。腹の中を見たら身はピンクだった。


 次はウロコ取りだ。出刃包丁の背で軽くマスの表面を尻尾から頭にかけてシャカシャカ動かしていく。小さなウロコが包丁の腹にくっ付いて来るので、包丁についたウロコをたまに水で洗い流しながら作業していく。どうせ皮をはぐのだからそこまで丁寧にウロコを取る必要はない。


 一度水洗いした後、乾いた布巾でマスの水気をきれいにふき取ってやり、三枚におろしていく。


 いい出刃包丁のせいか簡単にさばける。


 腹の部分に並んでいる骨を削ぎとったあと、身を上から触ってみて、見つけた小骨を毛抜きで抜こうとしたら、毛抜きがなかった。


「トルシェ、魚の小骨を抜くから毛抜きを作ってくれないか?」


 毛抜きで通じたようで、トルシェが魚の小骨抜きを作ってくれた。


 それを使って丁寧に小骨を抜いていく。


 最後は、皮を引いて下ごしらえは完了だ。小骨抜きは、黒ちゃんには無理そうだから、小骨の手前までかな、頼めるのは。高性能の黒ちゃんなら最後まで大丈夫かもしれんな。


 まな板の上を布巾できれいに拭いて、その上に先ほどおろした身を二枚ならべ、長刃の包丁を刺身包丁のつもりで使って薄造りを作っていく。


「トルシェ、そこの大皿をとってくれるか?」


「はーい」


 白い大皿の上に、ピンクの薄造りをらせん状に並べていく。我ながらセンスある。先ほどはボウズだったが、今回はピンク色のボタンの大輪が咲いたようだ。


「おいしそー!」「すごい!」


 二人にも感心された。


「本当は、ショウユというしょっぱくて黒いソースで食べるもんだし、ワサビと言って濃い緑の根っこみたいなのをすりおろした、きれいな緑色の鼻にツーンと来る薬味を入れるんだが、どちらもここにはないんで、塩を少しつけて食べてみよう。これなら塩で食べてもきっとおいしいぞ」


「ダークンさん。さっき、わたしが食糧庫を見た時、壺に入っていた黒い液体があったんでちょっと舐めたら塩辛かったけど、あれってダークンさんの言うショウユかも?」


「ダークンさん、緑っぽい根っこみたいなのも見ましたよ」


「本当なら嬉しいが、どれ確認してみよう」


 三人で食糧庫の中に入っていき、トルシェとアズランがそれぞれを俺の目の前に持って来てくれた。


「あったどー!」


 確かにショウユとワサビだ! もういちど改めて、


「あったどー!」


 俺は結構注意深く食糧庫を見たはずなのだが、全く注意深くなかったのか。はたまた先ほど俺の願いを聞いた上位の神さまが俺の願いを叶えてくれたのか。


 ワサビのすりおろし器は無かったので、まな板の上でワサビを小さく刻んで包丁の背で潰して刺身ワサビのでき上り。それを大皿の真ん中に盛ってやる。ショウユを小皿にとって、準備完了。



 皿ごと刺身を少し冷やした方がいいかもしれないが、そんなことは次回試せばいいとして、さっそく実食だ。


 テーブルの真ん中に大皿を置き、各自の前にショウユを入れた小皿を置いてやる。俺だけは試しに塩を入れた小皿も用意しておいた。


 席に着いた俺たちに、トルシェがキューブから取り出した樽から黒ちゃんがジョッキにエールを注いで俺たちに手渡してくれる。


 三人分のジョッキが揃ったところで、


「カンパーイ!」


 プファー!


 やや温いエールだったがそれはそれ。


 食器はナイフとフォークしかないのでチョッと締まらないが、トルシェとアズランが俺をじっと見ている中で、ワサビを少し刺身の上に乗っけて、ショウユをちょっとつけて口に運ぶ!


「うんまーい!」


 なんだこれ? うますぎるー。


 鑑定では大味だとかでていたが、アブラの乗り具合が絶妙だ。


 さっそく次だ、次。


 トルシェとアズランが俺のマネをしてワサビを少しだけ乗っけたピンクの身にショウユをチョイ付けして口に運ぶ。


「なにこれ? こんなにお魚って美味しいものなの?」「おいしーー!」


 大好評だった。


 それを見ていた黒ちゃんが、何を思ったか食糧庫の中に入っていった。出て来た時にはマスを一匹抱えていた。今の皿だとすぐに足りなくなると思い、さっそく料理に挑戦するようだ。俺たちが近くで見ていると黒ちゃんも緊張するかもしれないので、エールを飲みながら刺身を食べて、新たな刺身ができ上るのを待っていた。



 刺身を満足いくまで食べた後、冷たい酒を飲みたくなったので、


「タートル号の中の冷たい食料品もこっちに移しておいた方がいいな」


 いったんタートル号を湖のほとりまで連れていき、そこで元の大きさに戻したタートル号の中にトルシェが乗り込んで、冷蔵室の中のものをキューブに仕舞って出てきた。


「トルシェご苦労さん」


 何か忘れた物があったような気が少ししたのだが、気のせいだと思い忘れることにした。





[あとがき]

魚の分解は適当です。本当は釣ったら早めにえらと内臓は取り出して、血抜きをした方がいいそうです。

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