第170話 釣り


 釣り道具を3人分選び終えた。さあ魚釣りだ。俺は最初投げ釣りをしようと思っていたが、初心者と同じ装備で臨む方が良かろうと思い俺も延べ竿のべさおにした。


 三人でコテージを出て、周りを巡る板張りの張り出しの上から2メートルほど下の湖を見ると、40、50センチくらいの魚が水面近くを泳いでいるのが見える。水深は5メートルくらいで底の方にも何かいるようだ。


 湖の真ん中に向いた張り出しのかどまでいき板の上に荷物つりどうぐを並べていく。


「何が釣れるかなー?」


「ワクワクだね」


 俺の後ろで、トルシェとアズランが釣りに胸を膨らませている。おそらくこの湖の魚はスレていないはずだから、素人の二人でもすぐに魚を釣り上げることができるだろう。心配なのは俺が釣りすぎることくらいだ。たくさん釣ったらリリースせざるを得ないな。




 しゃがんで俺の指先を見ている二人の前で、針の付いた擬似餌を3人分釣り糸に付ける。今回はリールなしの延べ竿のべさおなので、あとは、おもりを付けただけだ。底まである程度見えているので、わざわざ浮きは付けなかった。



「そら、準備ができたから、二人とも糸を垂らせばいい。適当に上げたり下げたりしてればそのうち釣れるだろ。竿の先は気を付けて糸を絡ませないようにな。もうすこし離れて座った方がいいぞ」


 二人に準備のできた竿を渡してやった。


 さっそく二人が糸を垂らした。それを見て俺も糸を垂らし、3人で並んで釣りだ。


 こういったものはつい競争心が出てくるんだよな。人より早く、人より大きなとかな。


 おっと、さっそくアズランの竿にアタリがあったようだ。竿先が揺れて大きくしなった。


「アズラン、竿を立てて、魚の口が水面に出るか出ないかの位置に引きあげて」


「ああああー! 魚が、魚がー」


 かなり大きな魚がかかったようだが、針がちゃんと魚の顎に刺さっていなかったようでバレてしまった。


「最初はうまくいかないもんだよ。針がちゃんと付いてるか確認した方がいいぞ。バレると針が曲がってしまうこともあるからな」


「針は大丈夫みたいです」


 そういえば、俺たちの使っている釣り道具はウマール・ハルジット謹製の釣り道具だった。めったなことでは不具合は起きないと思って良さそうだ。


 アズランのアタリから間を置かずトルシェの竿の先が揺れ始めた。


「トルシェ、アタリが来てるんじゃないか?」


「来てます、来てます。この感触堪らない!」


「感触は良いから釣り上げろよ」


「えー、もったいない」


「また釣ればいいだけだろ」


「はっ! そうだった」


「ゆっくり引き上げて、魚が水の中にいるうちにタモで掬い上げるんだからな」


 竿のしなり具合からいってこっちもかなり大きな魚がかかったようだ。


「慎重にゆっくりだぞー。やっぱりタモは俺にまかせろ。よし! 捕まえた」


 かなり大きな魚がタモの中で暴れている。いったん張り出しの板の上で針を外し、バケツの中に入れてやった。バケツの中に水を入れるのを忘れていたので、


「トルシェ、バケツに魔法で水を入れてくれ」


「はーい。……、おっきー!」


 案の定、アズランは自分の竿を置いて、バケツの中をのぞき込んでいる。


「これ、食べちゃうんですか?」


「そのつもりだが?」


「そうなんだ……」


 なんとなくアズランの言いたいことは分かるが、飼う訳にはいかないだろ。だけど、この魚、なんだろうな? 冷蔵、冷凍技術の発達していない世界のためか、これまで生魚を見たことはない。


 というか、こいつ食べられるのか? 銀色の地の上に黒っぽい斑点が鰓から尻尾に向かって並び、どぎつい赤い点々と青い点々、それに黄色い点々が背びれから尾びれにかけてまかれている。俺たちなら、毒があろうがなかろうが美味しければ問題ない。逆に少しぐらい毒があれば薬味になってうまく感じるかも知れない。


 そうだ、鑑定すればよかったんだ。どれ、


「鑑定

 名称:ビッグ・トラウト

 サケの仲間。やや大味だが、ピンク色の身が美しい」


 こいつは見た目はケバくて大きいが普通にマスだな。あー、鱒鮨が食べたくなってきた。 



 とりあえず、こいつは三枚におろして、生で食べてみるか。余れば焼いてもいいし。最初少し塩で食べた後は、油と酢はあったはずだからマリネだな。味付けは黒ちゃんではできないだろうが、魚をおろすのはできるんじゃないか? 俺が最初にやって見せれば、魚に限らず下ごしらえはデキそうだ。


 もういちど、食糧庫の中を確認して何かよさげな調味料だか香辛料を見つけてみよう。


 そろそろ、俺の竿にもアタリがあってもいいだろうにうんともすんとも言わない。


 俺が魚のいる場所あたりで竿を上げたり下げたりしていたら、魚をのぞき込むのを止めて釣りを再開していたアズランの竿にアタリが。


 こんどは、ちゃんとアワセろよ。


 竿をたてて、うまく魚の力を逃がせばいいのに、何を思ったか、急にアズランが竿を引いた。それからゆっくり竿を立てて、魚を水面まで上げた。その魚を片手で素早くタモで掬って張り出し板の上まで上げ、針を抜き取った。針の先端が口から出ていたところをみるとしっかりアゴに刺さっていたようだ。針を外した魚はバケツに入れられた。


 今のアズランの動きにはまったく無駄がなかった。Yavaiヤヴァイ! なんだか身体能力で押し切らる未来しか見えない。


 俺もうかうかしていられないので、今度は竿を小刻みに上下させてみる。


 俺の竿にアタリくる代わりに、トルシェの竿にアタリが来た。


 さすがにトルシェはアズランほどではないがそれでもしっかり釣った魚を一人でタモで掬い上げ、自分で針を抜いてバケツに入れていた。


 相変わらず、俺の竿にはアタリがない。Gesenuゲセヌ





[あとがき]

魚釣りは適当です。

突然ですが、あと3話ほどで完結予定です。ここまでありがとうございました。最後までよろしくお願いします。

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