第169話 コテージ


 リンガレングに案内されて、湖のほとりにあるというコテージに案内される間、地面の中からいきなりゴーレムが湧きあがってきた。


 この演出にはさすがの俺もちょっとだけびっくりしたが、ゴーレムたちは俺たちには目もくれず、畑や果樹園の中に入っていきなにやら作業を始めた。収穫にはまだ早そうなので、草むしりやその他の手入れをするのだろう。


 トルシェとアズランが反応しなくてよかった。まかり間違えればゴーレムたちと戦争を始めるところだった。ゴーレムに俺たちをどうこうすることはできないだろうが、俺たちがゴーレムを殲滅してしまうと農民がいなくなってしまうでかなり困るものな。


 ゴーレムたちが働く畑と畑の間のなだらかな坂道を下っていき、ようやく湖のほとりをめぐる小道にでた。湖の向こう岸は遠く霞んでいて見えているのか見えていないの分らない。目の前の湖は相当広い湖のようだ。


 小道を左に曲がると、少し先に湖の上に建てられた平屋のコテージが見えた。湖のほとりから伸びる橋につながった板張りの張り出しがコテージを巡っている。魚がいるのなら、張り出しから釣りも楽しめそうだ。湖ということなのでいたとしても大した獲物は期待できそうもないが、スレてはいないだろうからトルシェたち初心者向けにちょうどいい。


 そんなことを考えていたら、また無性に刺身が食べたくなってきた。淡水魚の刺身はあまり勧められるものではないかもしれないが、俺たちなら食中毒になることはないので問題ないだろう。何はともあれ醤油とワサビだ。あー、日本食も食べたくなってきた。


 

 リンガレングについて歩きながら俺がただ一人食欲で悶絶しているうちにコテージに到着した。コテージへの橋を渡る間、下の湖を見たら、大きな魚が泳いでいる。いいじゃないか。どういう名前の魚かは今のところ分からないが、釣り上げて鑑定すればすぐわかる。



 コテージの扉は、高級マンションの鋼板製の扉そっくりだった。重い扉を引き開けて中にはいると、中は板張りの部屋で、拠点のワンルームより広かったが、ここもワンルームだった。部屋の隅には、キッチン。小さな食事用のテーブルがキッチンの近くに置いてあり、椅子は向かい合って二つ。


 ワンルームの湖の真ん中向きの壁際にベッドが一つ。部屋の反対側には机と椅子。壁には作り付けの本棚があり中にぎっしりと本が並べられていた。


 部屋の中央には足の短いテーブルと応接セット。ここで酒盛りをすればいいようだ。拠点のワンルームと同じように脱衣室に浴室につづくドアと、物置と思われる扉が何個所か。外から見たこのコテージの形は正方形なので、そういった扉の先はトルシェの空間拡張のような細工をしているのだろう。


 一人で住むなら物置は必要かもしれないが、それ以外浴室とトイレくらいが個室になるくらいで部屋数はいらないものな。


「良いですねー。ちょっと明るすぎるけれど、それはそれ」


「トルシェ、さっそくベッドをあと二つ並べてくれ」


「はーい。他のも適当に出しておきまーす」


「頼んだ」



 トルシェがキューブからベッドを二つ取り出して壁際に並べていった。最初に一つ置いてあったベッドも大きかったが、トルシェの取り出したベッドも大きかった。値打ちものという基準でトルシェが今までどこかから拾ってきた・・・・・ものなので当然だな。ついでにサイドテーブルを二つ取り出して置いていた。


 黒ちゃんはどこで見つけたのか、雑巾とバケツをもって拭き掃除を始めた。実に働き者である。タートル号は出入り口の脇でおとなしく座って?いる。


 タートル号を目にして何か足りないものがあるよう気がしたが、おそらく気のせいだろう。



 俺は、部屋の中を点検しようと、物置だと思う扉を一つずつ開けていった。


 キッチンの隣の扉の先は予想通り食料庫だった。各種の食材がきれいに並べられている。どれもみずみずしいままなので、ワンルームの食糧庫同様、扉が閉まっているあいだはここも時間が止まっているのだろう。


 ベッドのあった場所の隣にあった扉の先は、寝具などがまとめておいてあった。真っ白なシーツも綺麗にたたんで何十枚も置いてある。リネン室というか布団部屋だな。


 玄関口の脇の扉を開けてみると、中には、釣り道具が入っていた。投げ釣り用のリールの付いた竿が何本か立てかけたあり、リールの付かない延べ竿が壁に横向きに何本か掛けてあった。糸巻に巻かれた透明の釣り糸が太さごとに並べられている。釣り針も大きいものから小さいもの、ルアーのようなものから疑似餌まで並んでいる。重りや浮きなど。使い方は分からないが釣り用の金具もそろっていた。まるで、釣具屋だ。バケツなども置いてあった。よほどウマール・ハルジットは釣りが好きだったようだ。


 まだ時間は午前中の早い時間なので、これから釣りをするのも悪くない。うきうきと釣り道具を物色し、いったん自分のキューブに仕舞った。エサの用意はできないので、今回は疑似餌だ。コテージの張り出しの角辺りから湖の真ん中方向に向かって投げ釣りをしてやろうじゃないか。


 俺が釣り道具を物置の中で選んでいたら、トルシェとアズランがやって来てしゃがんで俺の後ろからじっと見ている。


「お前たちも魚釣りするか?」


 二人とも頷いたので、場所を代わってやる。


「すみません、わたしは今まで釣りをしたことないのでなにがなんだか」


「私も初めてなので教えてください」


「なるほど。分かった。任せなさい。竿は俺的には胴調子の方がいいが、初心者にはあまりしなると扱いにくいかもしれないし大きな魚は難しいだろうから先調子の方がいいかな。この竿とその竿を一本ずつ持ってくれ。最初のうちは、難しいことは考える必要ないし、後は、釣り場で準備しよう。あとは、タモだな」


 諸々を各々キューブに収納して準備完了。



 俺は知ったかぶって知ってる言葉を適当に並べて、初心者たちの尊敬の目を勝ち取ることができた。




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