第168話 一幅の山水画
俺たちが酒盛りを内部で行っていようが、風呂に入っていようがそんなことはお構いなしにタートル号はテルミナ目指して突き進んでいく。
いい気分で飲んでいたら夜が明けてきたようだ。しばらくしてタートル号が停止したので、スリットから前方を見たら、テルミナの北門が見えた。
「おいトルシェ、テルミナについたようだぞ。服を着ろよ」
「はーい」
タートル号に
サイドハッチからタートル号を後にするとき視線を感じて後ろを振り返ってみると、つぶらな瞳のオウムと目が合ってしまった。何か訴えかけてくるような雰囲気があったが、何せ相手は悪魔のサティアスだ、気のせいだったに違いない。
俺たちは、後ろに黒ちゃんとタートル号を引き連れてテルミナの北門を抜け、街に入っていく。清涼剤男のこともあったので、俺は最初からダークサンダーを装着してヘルメットもかぶっている。見た目はスケルトン時代の俺だな。
アズランの先導なので迷うことなくダンジョン入り口に到着した。周りにいた冒険者たちが俺たちをジロジロ見るが、俺がそいつらに顔を向けると、
「ダークンさん、渦の中に入りますよ」
ダンジョンの渦の前で遊んでいたらトルシェに
いつものように黒い渦から出て、拠点に帰還。
「それじゃあ、ワンルームに寄る必要もないし、さっそくワンルームの隣の扉を開けて様子を見てみるか?」
「わくわく」「はい」
「それじゃあ、開けるぞ」
扉を開けると、前回見た時と同じく、緑の畑や
前回は多くのゴーレムが畑に出て働いていたが、今はゴーレムは見えない。
俺の両脇から、トルシェとアズランが首を出して景色を眺める。
「うおー!」「ここはいったい、何なんですか?」
「見た通りの『田園』だろ。今はいないようだが、以前見た時にはゴーレムたちが畑で働いていたんだ。この景色は絵になるよなー。油絵も嫌いではないが、やはり山水画だよな。山水画の中で小舟に乗った一人の老人なんかもなかなかいいものだが、山水画の中にゴーレムが出てきたらかなり斬新で受けるんじゃないか。ゴーレム出てこないかな? 俺の余生は山水画を描いて過ごしてもいいかも」
「ダークンさん、訳の分からないこと言ってないで、早く探検しましょうよ」
トルシェに
見る方向によりドアが見えなくなるため、見つけられなくなる可能性があるのだが、アズランがいる限りこの位置を忘れることはないはずなので、問題ない。
「行こう」
今回の俺たちは探検モードだ。
アズランを先頭にその後ろの右側を俺が、少し後ろの左側をトルシェが進む。その後を黒ちゃん、タートル号がいつも通り何となくついて来る。
「ダークンさん」
「なんだ、トルシェ?」
「ここのことなんだけれど。いちおう拠点につながってるんだから、ウマール・ハルジットがらみなんですよね?」
「そう思うぞ」
「そしたら、素直に、リンガレングに聞いた方が早くありません?」
「トルシェ、きみはいいところに気づいたようだな。実はわたしも先ほどからそう思っていたところなのだ」
負うた子に教えられたところをうまくごまかしてやった。ごまかせたよな?
「困った時の、リンガレング!」
キューブに仕舞っていたリンガレングを目の前に取り出してやる。
「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャーン」
なんでリンガレングがそんなネタを知っているのかはそれこそ謎だ。
キューブから出てきたリンガレングが8本の足を延ばし通常状態に戻ったところで、
「リンガレング、ここは拠点にあった扉を開けた先なんだが、お前はここが何だか知っているか?」
「はい、ここはいわゆる『田園』または『田舎』と言ってもいいでしょう」
「俺から見てもその通りと思うけれど、何か他にはないのか?」
「特に意味はありませんが、一時期ウマール・ハルジットは拠点の部屋からこちらに居を移していたことがありました。彼は数十年この『田園』でゆっくり過ごしたと記憶しています」
「ゆっくり過ごすというと?」
「あの先に見える湖のほとりにコテージがあります。そこでウマール・ハルジットは瞑想にふけったり、魚釣りをして過ごしたりしていました」
あの
「あと、ここでゴーレムが働いていたが、あいつらは何なんだ?」
「ウマール・ハルジットが『田園』には農民だろう。ということで作り出したもので、作られて以来休まず農作業を続けてたと思います。もうしばらくすれば、現れると思います」
ゴーレム農民なんだから早起きして夜明け前には仕事を始めろよと偏見をもって言いたくなったが、まだ7時前だし、ゴーレム農民にはゴーレム農民なりの俺にはわからない何かの都合があるのだろう。
「生産物は特殊サイロに蓄えています。サイロ内は時間が停止しているうえかなりの容量があるためいくらゴーレムたちが働いても1万年はいっぱいにならないでしょう。それと、サイロは拠点内の食糧庫の管理も行っていて、いつも中身を補充しています」
トルシェの魔法も凄いが、本家はもっとすごかった。
リンガレングの説明を聞いて、景色を見ながら小道を歩いていたら、耳鳴りのように頭の中で音楽が響いてきた。
タンタンタンタンタンタララッタ、タンタンタンタララー!
この曲なんだったっけなー?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます