第168話 一幅の山水画


 俺たちが酒盛りを内部で行っていようが、風呂に入っていようがそんなことはお構いなしにタートル号はテルミナ目指して突き進んでいく。



 いい気分で飲んでいたら夜が明けてきたようだ。しばらくしてタートル号が停止したので、スリットから前方を見たら、テルミナの北門が見えた。


「おいトルシェ、テルミナについたようだぞ。服を着ろよ」


「はーい」


 タートル号にかされる形で俺たちはタートル号から降りた。今回はお試しで、サティアスオウムの入っている鳥かごをわざとタートル号の中に置いてきた。


 サイドハッチからタートル号を後にするとき視線を感じて後ろを振り返ってみると、つぶらな瞳のオウムと目が合ってしまった。何か訴えかけてくるような雰囲気があったが、何せ相手は悪魔のサティアスだ、気のせいだったに違いない。



 俺たちは、後ろに黒ちゃんとタートル号を引き連れてテルミナの北門を抜け、街に入っていく。清涼剤男のこともあったので、俺は最初からダークサンダーを装着してヘルメットもかぶっている。見た目はスケルトン時代の俺だな。


 アズランの先導なので迷うことなくダンジョン入り口に到着した。周りにいた冒険者たちが俺たちをジロジロ見るが、俺がそいつらに顔を向けると、明後日あさっての方を向く。横を向いて、また急に振り向くとまた明後日の方を向く。何気に面白い。


「ダークンさん、渦の中に入りますよ」


 ダンジョンの渦の前で遊んでいたらトルシェにかされてしまった。



 いつものように黒い渦から出て、拠点に帰還。


「それじゃあ、ワンルームに寄る必要もないし、さっそくワンルームの隣の扉を開けて様子を見てみるか?」


「わくわく」「はい」





「それじゃあ、開けるぞ」


 扉を開けると、前回見た時と同じく、緑の畑や果樹園かじゅえんがそよ風にそよいでいる田園地帯だ。ところどころの林の緑が黄緑に見えるとこは新芽が出ているのかもしれない。空は雲一つない快晴で、ずっと遠くに見える水面みなもが朝日を反射して照り輝いていた。



 前回は多くのゴーレムが畑に出て働いていたが、今はゴーレムは見えない。


 俺の両脇から、トルシェとアズランが首を出して景色を眺める。


「うおー!」「ここはいったい、何なんですか?」


「見た通りの『田園』だろ。今はいないようだが、以前見た時にはゴーレムたちが畑で働いていたんだ。この景色は絵になるよなー。油絵も嫌いではないが、やはり山水画だよな。山水画の中で小舟に乗った一人の老人なんかもなかなかいいものだが、山水画の中にゴーレムが出てきたらかなり斬新で受けるんじゃないか。ゴーレム出てこないかな? 俺の余生は山水画を描いて過ごしてもいいかも」


「ダークンさん、訳の分からないこと言ってないで、早く探検しましょうよ」


 トルシェにかされて、扉を潜り抜けた。振り返ったら扉が無くなっていた。ということも無く扉はそこにちゃんとあったが、扉だけだ。後ろに回って扉を見ようとしたら何も見えない。真横から見ると、扉の枠と扉の板が見えた。


 見る方向によりドアが見えなくなるため、見つけられなくなる可能性があるのだが、アズランがいる限りこの位置を忘れることはないはずなので、問題ない。


「行こう」


 今回の俺たちは探検モードだ。


 アズランを先頭にその後ろの右側を俺が、少し後ろの左側をトルシェが進む。その後を黒ちゃん、タートル号がいつも通り何となくついて来る。


「ダークンさん」


「なんだ、トルシェ?」


「ここのことなんだけれど。いちおう拠点につながってるんだから、ウマール・ハルジットがらみなんですよね?」


「そう思うぞ」


「そしたら、素直に、リンガレングに聞いた方が早くありません?」


「トルシェ、きみはいいところに気づいたようだな。実はわたしも先ほどからそう思っていたところなのだ」


 負うた子に教えられたところをうまくごまかしてやった。ごまかせたよな?


「困った時の、リンガレング!」


 キューブに仕舞っていたリンガレングを目の前に取り出してやる。


「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャーン」


 なんでリンガレングがそんなネタを知っているのかはそれこそ謎だ。


 キューブから出てきたリンガレングが8本の足を延ばし通常状態に戻ったところで、


「リンガレング、ここは拠点にあった扉を開けた先なんだが、お前はここが何だか知っているか?」


「はい、ここはいわゆる『田園』または『田舎』と言ってもいいでしょう」


「俺から見てもその通りと思うけれど、何か他にはないのか?」


「特に意味はありませんが、一時期ウマール・ハルジットは拠点の部屋からこちらに居を移していたことがありました。彼は数十年この『田園』でゆっくり過ごしたと記憶しています」


「ゆっくり過ごすというと?」


「あの先に見える湖のほとりにコテージがあります。そこでウマール・ハルジットは瞑想にふけったり、魚釣りをして過ごしたりしていました」


 あの水面みなもは湖だったのか。ここからでは見えないがそこらにコテージがあるらしい。


「あと、ここでゴーレムが働いていたが、あいつらは何なんだ?」


「ウマール・ハルジットが『田園』には農民だろう。ということで作り出したもので、作られて以来休まず農作業を続けてたと思います。もうしばらくすれば、現れると思います」


 ゴーレム農民なんだから早起きして夜明け前には仕事を始めろよと偏見をもって言いたくなったが、まだ7時前だし、ゴーレム農民にはゴーレム農民なりの俺にはわからない何かの都合があるのだろう。


「生産物は特殊サイロに蓄えています。サイロ内は時間が停止しているうえかなりの容量があるためいくらゴーレムたちが働いても1万年はいっぱいにならないでしょう。それと、サイロは拠点内の食糧庫の管理も行っていて、いつも中身を補充しています」


 トルシェの魔法も凄いが、本家はもっとすごかった。



 リンガレングの説明を聞いて、景色を見ながら小道を歩いていたら、耳鳴りのように頭の中で音楽が響いてきた。


 タンタンタンタンタンタララッタ、タンタンタンタララー!



 この曲なんだったっけなー?


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