第98話 壁の中の巨人
『いしのなか』ではないが内壁の向こうの空洞に巨人がいた。
どこかの漫画かアニメで見たような状況じゃないか。あのあとの展開を見てないからこれからどうなるのか予測がつかない。
顔の大きさと塔の直径からいって、あの魔神『アラファトネファル』よりも相当大きそうだ。
しかも、俺たちは知らぬ間に、ダンジョンらしき謎空間に取り込まれている。ここはまさに戦隊ものでヒーローたちが放り込まれるバトルフィールドと言ったところだろう。
こうなってくると、上に
幸い巨人は今のところ動いていない。やるならやらねば!
まずは、壁を壊して巨人の全体像の確認だな。それにこっちが階段の上にいては、身動きが取れない。外壁を破って塔の外に出て、できれば地面に立ちたいところだ。
「自分ではよくわからないがレヴィテートはまだ効いてるかな? まだ半日も経ってないから大丈夫だよな?」
「簡単な魔法だから、かけ直しておきましょう。レヴィテート!」
これで一安心だ。
「コロ、内側の壁を食べちゃってくれ。この階段が落ちないような感じで、巨人の上半身が見えるくらいだな」
俺の適当な指示でも理解してくれたようで、コロが内側の壁を食べていく。俺たちの立っている階段が壁にくっついているところは食べ残してくれているので、斜めに内壁が消えていく。
「よし、内側はそんなところでいいだろう」
内側の壁がかなり取り払われたところで巨人を見ると、上半身裸の真っ黒な男の巨人だ。差別用語になるかもしれないが、くろんぼ巨人だ。
こいつが『闇の使徒』のご神体なのか? あいつら何ていったっけ?
そうそう、『黄昏の
『アラファトネファル』なみに攻撃が通らないヤツだと厄介だが、こいつはどうなんだろう。足場が悪いここで仕掛けて、目を覚まされるとマズいので、やはり何とか地面に下りないと。
「トルシェ、空を飛ぶ魔法ってないか?」
「ないわけじゃありませんが、自分しか飛べません」
「それはそうだよな。それじゃあ、どうしようか? なんとか下に行ってしっかりした足場の上に立ちたいんだよな」
「それでしたら私がまず下の様子を見て来ましょう。塔の外側を伝って下に下りれば変なトリックはないと思います」
「それじゃあ頼む」
アズランが孔の外に飛び出した。
孔から顔を出して上から覗いたら、アズランの肩にとまっていたフェアはアズランより先に下に飛んで行った。
すぐにアズランから声が聞こえてきて、
「ここから十メートルくらい下に地面があります」
「そしたら、アズランは先に下りて、少し横に避けていてくれ、俺はこれから跳び下りる。
トルシェは自分で魔法を使って飛んで下りてくれ」
「はーい」
その言葉と一緒にトルシェがふわふわと宙に浮いてそのまま孔を通って下の方に飛んで行った。
それじゃあ、俺はこれから跳び下りるとするか。
鳥かごを右手にエクスキューショナーと一緒に持ち、左手でリフレクターを持ってそのまま孔に身を乗り出して飛び下りてやった。
ひゅーーー!
いい風切り音と一緒に、
ヒィーーー! とかいうサティアスの嬉しそうな歓声が聞こえてきた。
悪魔だけあって、なかなか剛毅なヤツである。
飛んでいるあいだ、鳥かごを見たらサティアスが小さく縮こまっていた。
落っこちた時の衝撃はある程度はあるものな。
ドッガーン!
かなりいい音と一緒に、両足が地面に付いた。腰を落として衝撃を吸収。レヴィテーションが効いていた関係かそれほどの衝撃は無かった。
「おーい。サティアース。ダイジョブかー?」
鳥かごの中の悪魔サティアスは今の衝撃に耐えきれず、昇天したようだ。
しんでしまうとはなさけない。
ガンガンいこうぜ状態なんだから、犠牲はやむを得ない。今はただ安らかに眠ってくれ。
「すみません。まだ生きてます」
鳥かごの中からサティアスの弱々しい声が聞こえてきた。
あれ? 生きていた。ヤワだ、ヤワだと思っていたが意外としぶとい。見直したぜ。これなら、魔術師ギルドのブートキャンプに入れなくてもいいか。
俺の降り立った地面は土でもなければ石畳でもアスファルトでもない材質不明な地面だが、かなりしっかりしている。
見回すとトルシェとアズラン、アズランの肩の上のフェア、俺が手に持った鳥かご、それにそびえ立つ塔しか見えない。今いる空間がどれだけの広さなのか見当もつかない。おそらく塔の中にいる巨人を斃せばすべて解決するのだろう。
まずは、外壁を破壊して、残った内壁も破壊。巨人を丸裸にしてから考えよう。
「トルシェ、塔の壁を破壊してくれ。いまのところは、巨人に直接攻撃をぶち当てて起こさないようにな」
「はーい」
いつものようにトルシェの伸ばした両手から、機関銃のように無数の青白いファイヤーボールが塔に向かって撃ちだされて行く。着弾したファイヤーボールの小爆発で照らされた巨人は真っ黒い姿のままで固まったままだ。
トルシェのファイヤーボールで塔の壁が上の方から順に破壊されて、瓦礫が俺たちの立っている近くに崩れ落ちてくる。
そのうち瓦礫で小山ができ、それがだんだん大きくなってきた。
俺もアズランも後ろに下がりながら、様子を見ている。
壁が破壊されて巨人の腰のあたりまで現れたところで、
「トルシェ、そんなところでいいだろう」
巨人は上半身裸だったが腰にはちゃんと布のように見える何かを巻いていた。わいせつ物に対するそれなりの観念を持っているようで助かった。
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