第97話 白い巨塔2


 俺たちは塔の内側の壁に沿った回り階段を上っているのだが、行けども行けども先が見えない。


「アズラン、今何段上った?」


「二百六十段です」


「この調子だと、三百段超えそうだな」


「それならそれで、ダンジョンじゃなかったってことですから、ここも簡単に壊せますよ」


「それもそうだな。うん? 待てよ。また際限ない階段トラップってことはないか?」


「そうですね。ここからだと下も見えないし、上も見えない。壁に印をつけておきましょうか?」


 そういったアズランが、短剣『断罪の意思』を引き抜いて、内側の壁にバッテンの傷をつけた。傷の付き方から言って、そこまで硬い壁ではないようだ。


 そして俺たちはまた階段を上り始めた。


「これで、三百六十段。印は見えませんでしたね」


「だな。しかし、この塔がいくら高いと言っても三百六十段もあるか?」


「どうでしょう。階段一つ一つの段差はそんなにないので、何とも言えません」


「外から見た時は五十はあるなと思ったが、七十と言われればそうかもしれないか。しかし百メートルはいくら何でもないと思うぞ」


「上の方はまだ何も見えませんからまだまだ先はありそうですね」


「そもそも、ここは螺旋階段なんだろうから、上に階段の裏側が見えていないとおかしくないか?」


「そう言われれば、上を見ても両側の壁しか見えませんものね」


「トルシェ、試しに、花火を上げてくれるか? もうできてるんだろ?」


「この幅だと、きれいに花が開かないけど、やってみます」


 シュルシュルルー。


 それらしい音がして、トルシェの右手から頭上に向かって花火が打ち上げられた。


 三十メートルほど上に登った花火は、


 ピカッ!


 一瞬辺りが明るくなって、すぐに、


 ドーン。


 それらしい音が響いてきた。丸い花が咲くはずだったのだろうが赤い光が広がっただけで花火は終わってしまった。しかも、暗がりでの花火だったもので、明るくてその先は全く見えなかった。


「花火じゃよくわからなかったから、ファイヤーボールを頼む。上に階段があって壊したら困るから、弱いので頼むな」


「はーい」


 軽い言葉と一緒にトルシェが右手を挙げて手のひらからファイヤーボールを撃ちだした。


 トルシェの放ついつものファイヤーボールは青白くギラギラ輝いて見た目はかなりヤヴァそうなのだが、今度のファイヤーボールは野球ボールほどの橙色のファイヤーボールで、随分おとなしい。



 打ち上げられたファイヤーボールは外壁と内壁の間の暗がりを上っていき、そのまま見えなくなってしまった。


「あれ?」


 三人で上を見上げていたのだが出てきた言葉は一緒だった。


「トルシェ。さっきのファイヤーボールはどこまで飛んでいくんだ?」


「何かに当たらなければ、少なくとも二キロは」


「見えなくなったし、爆発音も聞こえないということは、少なくとも二キロは上らないといけないということなんだな」


「そうじゃなかったら、さっきのファイヤーボールが何かに吸収されたかも」


「ファイヤーボールって吸収できるのか?」


「ファイヤーボールは何かちょっかいを出すとすぐに爆発するので、相当高度な魔法じゃないとできないけど、不可能じゃないです」


「上に二キロあるわけはないから、ここがいつもの階段トリックで、上の方にはファイヤーボールを吸収するような何かがあると思っておくか」


「それで私たちはどうします? このまま上りますか?」


「うーん。このままただ上ってもどうにもならなそうだから、何か考えないとな」


「壁を壊して、様子を見るとか?」


「それはいい考えだな。外側の壁を壊せばここがどのへんかわかるだろうし、内壁を壊せば謎の空間がどうなっているのか分かるものな。

 それじゃあ、まずは外側の壁に穴をあけてみよう。コロ頼む」


 腰のベルトに擬態中のコロから触手が外側の壁に延びて、外壁に直径で一メートルほどの丸い孔が空いた。壁の厚さは五十センチほどだったので思ったよりも厚くなかった。


 壁の厚さなどどうでもいいが、孔の先は真っ暗な暗黒で、俺ですら全く何も見えない。ということは壁の先には何もないということなのだろう。空気は漏れてはいないので、空気は外にもあるのだろうが、それ以外は何もない空間が広がっている。


 ここは敵の本拠地だ。こういったこともあるっちゃあるよな。



 では、内側の壁はどうなっている?


「コロ、内側の壁にも孔を空けてくれ」


 コロから触手が伸びて、すぐに先ほどと同じくらいの丸い孔が空いた。


 こっちの方は、何もないわけではなく、なにか黒い物が少し先に見える。暗がりなのでみんな黒く見えるわけだが、それでも異様に黒い。


「なんだろうな?」


「ダークンさん。あれって、人の顔に見えませんか?」


 そう思ってみれば、アズランの言う通りこいつは確かに人の顔だ。いや、巨人の顔だ。何だか嫌な予感がしてきたぞ。






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