第96話 白い巨塔1
アズランが捕まえた新しい捕虜は『闇の使徒』の管理職の赤ローブだ。管理職と言えども、消費者から見れば、業者の一般社員と区別する必要はどこにもない。
ということなので、前回できなかったカツを入れて気絶から目を覚まさせようとしたら、フェアが俺よりも先に動いた。一度くらいカツを入れたかったのに。
石畳の上で伸びていた赤ローブは、フェアの一刺しですぐに目を開け、上半身を起き上がらせて周りを見回し、
「うっ。お前たちはいったい何者だ? こんなことをしてタダで済むと思っているのか?」
この赤ローブ。目を覚ましたのはいいが、自分の立場が分かっていないバカだった。
これだから。義務教育を終えていないと、こんな無常識のバカになる。こういったヤツには
「お前が俺たちに質問する? 立場を考えろ」
赤ローブの目線までしゃがんだ俺は、教育のためガントレットを付けた左手で赤ローブの胸倉をつかみ、同じくガントレットを付けた右手で頬をはたいてやった。
軽くはたいただけだが、口の中を切ったらしい。口の横から血が流れ出てきた。ビンタ慣れしていないようだ。
ビンタ慣れしたヤツをこれまで見たことはないがな。
先ほどまで白目を剥いて檻の天井を見ていたはずのサティアスが、目を覚ましたようで、起き上がって赤ローブを悲しそうな目でじっと見ている。こいつは、何気に博愛主義者だな。
「お前はそこの塔の門番なんだろ? 中はどうなってる? なんとかいうお前のところの一番偉いヤツはどこにいるのか知ってるだろ?」
「……」
赤ローブは俺を睨んで返答しない。面倒なヤツだな。こいつはハズレかもしれない。
「もう一度だけ聞こう。中はどうなってる? お前のところの一番偉いヤツはどこにいるのか教えろ?」
「……」
アズランには手間を取らせたが、こいつは不要だ。別に情報がなくても目の前の塔を叩き潰せば一緒だ。
「コロ、こいつは用をなさないようだから、食べてくれ」
赤ローブも黙秘を続ければタダでは済まないと思っていたろうから、これで本望だろう。
まさにあっという間。目の前にいた赤ローブは声を上げる間もなく、何も残さずコロに吸収されてしまった。
鳥かごの中のサティアスがつばを飲み込むような音がした。自分もまかり間違えれば、今の赤ローブと同じ運命だったということに今さら気づいたのだろう。
「えーと、女神さま。お腰に巻いていらっしゃる黒いベルトは、一体何なんでしょうか?」
「最初はただの黒いスライムだったが、進化してブラック・グラトニーの成体(注1)になったコロって名前の俺のペットだ。今の状態だと分かりにくいが結構可愛いぞ」
今の俺の言葉を聞いたコロが俺の腰をキュッと締め付けた。嬉しかったのだろう。
「ブラック・グラトニー、……、ペット、……」
「なんだ、悪魔だからブラック・グラトニーくらい知っていると思ったが、知らなかったか?」
「いえ、知ってます。最凶最悪のスライム最終進化種。あらゆるものを一瞬で食べてしまう。まき散らす瘴気は致死性。物理攻撃は完全無効。魔法攻撃もほぼ無効。決して手出ししてはならないと言われています」
逆に悪魔社会では有名だったようだ。有名人を友達に持っているようで何だか鼻が高いぞ。
「そうなのか。コロ、名前が売れているみたいで良かったな」
今の俺の言葉で、腰に巻いたコロがピクンと震えた。ような気がする。
「案内役は消えたけれど、どうってことはないだろ。早いとこ塔の中に入ろうぜ」
「はいはーい」「はい」
アズランはいつも通りだが、トルシェは機嫌がいいな。
二人を引き連れて、塔の出入り口へ。門だか扉は開いたまま。中は、出入り口からの光で明るいが、特別照明は灯されていないようだ。
出入り口の先はすぐ壁になっていた。外側の壁とその壁の間隔は二メートルもない。左手に時計回りの上り階段がある。上り階段だったものが、下るときは下り階段になる。ワハハ。
上に向かって何段階段があるのか知らないが、ダンジョンの三百段に慣れている俺たちからすれば、どうってことはない。
階段には、明り取りの窓もないし、照明もなかったため上るにつれて暗くなってきた。
なんだか雰囲気出て来たぞ。
俺たちにとって暗さは何の障害にもならないので、どんどん上っていく。
しかし長い。
「この階段もまさか三百段ってことはないよな?」
「どうでしょう、現在二百段を越えています」
外から見上げた塔は相当高かったから、このまま階段が上まで続くようなら三百段ありそうだ。
ここが下のダンジョンの延長だとすると、俺がどうにかしてもダンジョン自身を破壊できないかもしれないので少しやっかいだ。ダンジョンでないことを俺以外の神さまに祈ろう。
その時はその時考えればいいが、右側の内壁の先には何が入っているんだ? まさか空洞ってことはないだろうが、ここまで上がってきても入り口がない。謎だ。
既出かもしれませんが、
注1:ブラック・グラトニー(成体)
スライム最上位種。
捕食力が非常に高い。あらゆるものを捕食の対象とする。
死ぬと猛毒の黒い液体になるといわれているが、死亡した成体のブラック・グラトニーは未だ確認はされていない。
黒い
腐食、腐敗についてはレジストはほぼ不可能。
腐食、腐敗したものに対する捕食速度は圧倒的。
触手を無数に伸ばすことができる。触手ももちろんあらゆるものを捕食できる。
物理攻撃には絶対耐性、魔法攻撃に対して非常に高い耐性を持つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます