第95話 記録達成。トルシェおめでとう。
塔の前の広場で
こいつらやる気らしい。
こういった状況になるといつも嬉々としているトルシェが元気がない。さては、相手が覆面をしていて、記録の達成がおぼつかないのでやる気が出ないんだな。
「トルシェ、元気を出せ」
本当なら『俺が相手の覆面を切り飛ばしてやるからな』とか言ってやりたかったが、そこまでの剣の技量はないので言えなかった。
その代り、
「トルシェ、覆面ごと頭の周りに切り傷を入れてスッポーンすれば、覆面が顔に引っかかって飛距離の邪魔をすることがなくなるぞ!」
と、アドバイスしてやった。
どうすればそんなことができるのか分からないが、トルシェのスッポーンは先に頭の周りに切れ目を入れた後、頭の中で小爆発を起こして切れ目の上の頭半分を吹き飛ばしているとか言っていたので、今のアドバイスで多分大丈夫だろう。
少し考え込んだ顔をしたトルシェから笑顔が漏れた。
そして、その笑顔と一緒に赤ローブの頭の上半分が吹っ飛んだ。
スッポーーーン!
上がった、上がった。これは新記録に違いない。今までのトルシェのうっ憤を晴らすかのような見事なスッポーンだ。
スッポーンに見とれていたら、本体の方はどさりと、石畳の上に頭の下半分からいろいろなものをこぼしまき散らして倒れ込んだ。
今のスッポーンを遠巻きに見ていた一般人から悲鳴が上がった。
悲鳴を上げてもいいが、そんなことよりすぐに逃げ出せよ。腰が抜けたわけでもないだろうに、たいていの連中がその場で足を止めている。あえて巻き込む気はないが、巻き込む巻き込まないは全く考慮しないのでそのつもりでいてくれ。
アズランと記録達成でニコニコ顔のトルシェは宙に舞った頭の上半分が石畳の上に落っこちるまで「おーー」とか言いながら感動して眺めていた。
俺たち以上に黒ローブたちは今のパフォーマンスに何か感じるものがあったようで、宙に舞った頭半分が落っこちてくる前に回れ右していた。素早い動きではあるし、保身という意味では正しい行動なのだろう。ある意味訓練は行き届いているようだ。
しかし、塔の出入り口の前に立っていた二人の赤ローブは、命知らずマーク付きの初心者だったようで、大声を上げながら俺たちの方に向かってきた。二人とも手に、短い棒のようなものを持っている。
いったん立ち止まった赤ローブが俺たちに向かってその棒を突き出した。
ババーーン!
突き出された二本の棒の先から、轟音と一緒に俺に向かって青白い電撃が走った。
その電撃は見事に俺の鎧に当ったのだが、そのまま地面に吸い込まれて行ってしまった。
電撃が走ったあとには、何かオゾン臭?のようなものが漂っていて、それなりに強力な電撃だったことがなんとなく
放電してもらいたかった。
俺は良導体の全身鎧ナイトストーカーを着ているから特別電撃には強いから別格だが、いくら強力でも電撃程度でどうにかなるようなヤワなヤツはここにはいない。
うん? 鳥かごの中でサティアスが上を向いて寝転がっている。ちょっとかまってやらなかったからふて寝でもしているのか? 余裕だな。
今の轟音でそこらでぐずぐずしていた連中が、慌てて逃げ出した。どうも、ここらにいた連中は危機管理意識が低いようだ。
あれれ、サティアスくんの体から湯気が出てる。
どうしたサティアス?
よく見るとサティアスは白目を剥いている。今の電撃で感電したのか? 何だか悪魔というからには少しはデキるヤツかと思ったが、どうもヤワだな。こいつも、魔術師ギルドのブートキャンプに放り込んで精神的、肉体的に鍛え上げた方がよさそうだ。
「ダークンさん、赤ローブは一人だけ残しておきますか?」
とアズランが言ってきたので、
「そうだな。塔の中を案内させればいいかもしれないから、一人は残しておくか」
そう答えたら、片方の赤ローブの頭が地面にゴトンと音を立てて落っこちた。アズランが短剣『断罪の意思』を抜いて、その男の後ろに立っていたのが一瞬だけ見えた。
次にアズランが見えた時、残った赤ローブが石畳の上に仰向けに倒されていてそいつのえり首にアズランが手をかけているところだった。
トルシェの方は、アズランが赤ローブを処理している間に、逃げ出した黒ローブたちを全員退治していた。記録目指してじっくりスッポーンをしていたのかトルシェにしては時間がかかったようだ。ニコニコ顔をしているところを見ると、スッポーン記録をまたまた更新したに違いない。
アズランのところまで歩いていくと、引き倒された赤ローブは気絶していた。目にも止まらぬ早業で引き倒されたのだろうから、気絶くらいするだろう。アズランが確保する捕虜はいつも気絶しているが、思いっきり地面に叩きつけられて気絶しているのかと妙に納得した。
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