第94話 いつもの強硬突破。
捕虜に取った女はそのまま部屋に残して、俺たちは地下一階から、上にあるはずの塔に向かっていくことにした。
途中出会った黒覆面黒ローブは有無を言わせずトルシェがスッポーンしている。地下一階のこの辺りは居住区になっているようで、今の時刻は昼前だと思うが、ほとんどの連中が
後ろをついて来るトルシェの口数が少ないので、振り返って見ると、何だか考え込んでいる。
「どうした、トルシェ。何かあったか?」
「いえ、どうしても覆面が邪魔で、記録が伸びないんです。なんとかしないと」
悩みは人それぞれなんだなあ、とつくづく思った。
アズランはアズランでフェアと何やら会話している。何をしゃべっているのか知らないが、言葉を喋れないはずのフェアと会話できるというのもアズランの特技だ。
何を話しているのかよくよく聞いてみると、アズランAがフェアに話しかけて、フェアになり切ったアズランBが受け答えしているだけだった。世の中平和だなー。
途中の部屋の中を掃除しながら適当に進んで行ったら、通路が直角に曲がったところの脇に上に繋がる階段が見えてきた。
ゴミ掃除を途中で放っておくのも気が引けるが、どうせ最後にここはぶっ潰すつもりなので、細かいことは気にしていても仕方がない。
今いるところは地下一階だった関係で、ところどころ明かりか点いていたが、俺たち以外の者ではかなり暗いはずだ。この先に見える階段は自然光で明るく見える。
外の光が入っている以上、上に上がれば少なくとも外の様子が分かるはずだ。
階段を上がった先は、石畳の通路で、片側が石の壁、もう片方には円柱が等間隔に並んだ場所だった。その円柱の間からは十段ほどの下り階段が見える。階段を下りた先は石畳でできた下りの坂道が続いていた。道の先、下の方には街並みが広がっている。
ここは丘の上に建てられているようだ。ここから見える街並みの方は結構広がっているので、それなりの大都市のようだ。
石壁には、ところどころにアーチ形の通路が開いている。アーチを覗いてその先を見ると、そこは周りを建物で囲まれた石畳の広場になっていた。その広場の真ん中に丸い大きな塔が立っている。サイコロの「1」を上から見たような塩梅だ。
その塔が先ほど女が言っていた『白き塔』だろう。白い石で組み上げられているようで確かに白く見える。それに結構太くて高い。
俺たちが立っている辺りも含めていたるところに黒覆面もいれば、普段着姿の男女もいる。普段着姿の男女は一般人なのだろう。
一般人はなるべく巻き込みたくはないが、こんな場所に来ている連中だ。まともなヤツとは限らない。作戦遂行上支障があるようなら諦めてもらうほかないな。
さすがにここでのスッポーンはトルシェも控えているようだ。振り返れば、久しぶりの覆面なしの人を見たからか、鼻を膨らましている。やる気満々だということが分かる。二、三人巻き込まれ事故でスッポーンされる一般人も出るかも知れない。
そこらに立つ連中を無視して俺たちは塔に向かって歩いていくのだが、妙に注目されている。みんな、全身黒ずくめの鎧姿の俺と俺の持っている鳥かごが気になるようだ。
鳥かごの中の悪魔のことを、きっとブサイクな猿だと周りの連中は思っているに違いない。それで俺もアズランAを真似て、鳥かごに向かって、
「良い子にしてるんだよ、キッキー」
「ウッキー。キッキーはいい子だもん」
とか、ペットになり切って、鳥かごの中のお猿さんを演出してやった。
それに対して、悪魔くん、違った、サティアスくんは、すごく嫌な顔をしていた。自分が猿に見えると感づいたようだ。実に勘のいいヤツだ。これだけ勘がいいとなるとサティアスくんは侮れないな。唐突だが、花柄パンツも見慣れてくるとかわいく見える。そんなわけはないか。
俺がキッキーごっこをしながら歩いていたら、管理職っぽい黒覆面に赤ローブが四、五人の
俺の姿はどう見ても場違いな全身鎧だから致し方ない。しかも片手に妙な生きものが入った鳥かごを下げている。
こうして俺のところに小走りでやってきたところは、まあまあだが、バックアップ体制も取らずのこのこやってくるようでは素人だ。本来なら、もう一組。欲を言えばもう二組で俺たちに対応して欲しかった。
「おい、そこのお前。止まるんだ!」
止まれと言われて止まっていては、カチコミなんかできません。
赤ローブの声を無視して俺たちは塔に向かう。俺たちの周りにいた連中は、今の声に驚いて俺たちの周りから離れていった。賢明な判断だ。
塔の入り口らしいところには、別の赤ローブが左右に一人ずつ門番よろしく立っていたが、その二人は、今のところじっとしている。これで、ノコノコ騒ぎに首を突っ込むようなら、警備員失格だと思ったが、その二人は今の騒ぎには介入せず、入り口を警護している。少しは訓練されているようだ。
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