第106話 神の城塞シタデル3


 一時間あまりコロにトンネルを掘らせながら進んだところ、やっとトンネルがどこかに貫通した。トンネルの先がだいだい色の光で明るい。


 俺を先頭にトンネルから一段低くなったその先に跳び下りたのだが、


「うーん。これは振りだしに戻ったのか?」


 俺の目の前には、一時間前にあとにした、あの大広間にそっくりな広間が広がっていて、前方にはステージがありその奥にはおっさんの座った椅子があった。もちろん大広間の四隅には大きな筒が置いてありその中で炎が燃えている。



 まあ、ダンジョンの壁を掘り進んでどこかに出たという話は聞いたことがないし、壁を掘り進んだら振りだしに戻るというのは、ある意味順当なことなのかもしれない。


 おそらく今度は敵も実態を見せて俺たちに向かってくるに違いない。そうしたら『神の城塞シタデル』の初お目見えだ。


 後ろに降り立ったトルシェとアズランは何も言わない。


「今度は、敵の攻撃があるかもしれないからな。気を付けるんだぞ。俺が集まれと言ったら『神の城塞シタデル』を発動するからすぐに近寄ってくれ」


「はい」「はい」


 この状況はすこしヤヴァいとトルシェも感じているようで、普段になく声が真剣だ。普段からこの調子ならいいのだが、この調子を長時間維持できないんだろうな。


 大広間の隅に突っ立って広間の中を見回していたら、ステージ上の椅子に座っていたはずのおっさんが、立ち上がっていた。


「あのおっさんが立ち上がってるぞ」


「人形じゃなかったんですね」


「指輪! またアイツ指輪してますか?」


 トルシェの反応は想定済みではある。指輪についてはここからではまだ見えない。


「もう少し近づいて様子を見てみるか。何が起こるかわからないから二人とも俺の近くにいてくれ」


「はい」「はい」


 こうなると、おっさん改め、怪人にクラスチェンジだな。


 俺を先頭にして、十メートルほど怪人に近づき、様子を見ることにした。


 怪人が本物のボスなら、何かしゃべるか行動を起こすだろう。


 おっと、怪人が両手を俺たちの方に向けた。ヤヴァい。何か来る!


「『神の城塞シタデル』!」


 俺の周囲に絶対防御空間が形成されるのと同時に、シタデルの前面が白く光った。何かの攻撃が直撃したようだ。どの程度の攻撃だったのかは分からないが、シタデルの前面の円形のカーブに沿って床が抉れ、抉れた部分は赤黒く融けているようだ。それなりの威力の攻撃を受けたようだ。シタデルが間に合わず、俺以外の者に命中していたらマズかったかもしれない。


 今の攻撃が不発に終わった怪人は、何やら口を動かして喋っているが、外の音はシタデル内では何も聞こえないので何を言っているのかは分からない。おそらく、『呪い』を俺たちにかけているのだろう。シタデルが『呪い』まで弾いてしまうとは知らなかった。『呪い』は通してくれても良かったんだがな。むしろ、気持ちいいので通してほしかった。



「二人ともこのシタデルの中から出ないようにな。

 中から外への攻撃は通るから、トルシェくんヤッちゃってください」


「はーい」


 トルシェが一歩前に出て、両手を前に突き出した。今度は何をするのかかなり興味がある。前回のファイヤーボールウィズサンダーも良かったが、演出が今一だった。派手な演出の攻撃魔法を期待したい。


 おおっと!


 トルシェの手のひらの先にくるくる回る青い魔法陣が、一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。直列した五枚の青い魔法陣が怪人の方を向いて回転している。しかも回転しながらチカチカ輝いている。


 これはいい演出だ。


 ここまで凝った演出は、実際の魔法の威力にはほとんど貢献しないわりに、魔法リソースの多くの部分を消費することになる。魔法とはそういう物だ。俺自身は『神~』シリーズ以外本式の魔法は使えないのだが、分かるぞ、演出こそが真の魔法ロマンだってことぐらいな。


 見ていると、魔法陣の回転もだんだんと速くなって、チカチカの間隔も短くなってきた。


 出るぞ!


「イッケー!」


 久々のトルシェの『イッケー!』と同時に、回転する魔法陣の中心から黒い何かが怪人に向けて放たれた。大きさはソフトボール大。そんなに大きくはないがとにかく普通ではない。


 輪郭は分かるがそれだけしか分からない黒い何かなのだ。飛んでいる速度はそんなに速くはない。ただ、その黒い何かが通り過ぎた後の床には下から何かで突き上げられたような跡が続いている。俺が持っている鳥かごはその黒い何かが撃ちだされた時、そっちに引き寄せられたような気がする。


 まさか、重力魔法!?


 ちょっと前の電撃ファイヤーボールの比じゃないぞ。こいつは俺から見ても、相当ヤヴァいヤツだ。


 怪人も、撃ち出された黒い何かが相当ヤヴァそうだと思ったらしく、口を動かすのを止めて、迎撃用に炎が尾を引いたファイヤーアローを何本も撃ちだしてきた。そのファイヤーアローは狙いたがわず黒い何かに命中しているのだが、黒い何かは全てを飲み込んでそのまま怪人に向かって進んでいく。


 怪人も迎撃では無理と悟ったようで、椅子の前からステージの袖の方に逃げ出した。命中しなければ、あまり効果はないと思うが、そこはちゃんと考えられていたようで、黒い何かが怪人を追って軌道修正してぐーとカーブした。


 怪人は絶体絶命だ!


 さあさあ、さあさあ


 これではっきり片が付くぞ!







[あとがき]

山口百恵さんの「絶体絶命」ちょっとドスがきいていいですよね。



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