第105話 神の城塞シタデル2
それでは説明しよう、
『神の城塞シタデル』とは、主人公『常闇の女神』ダークンが誇る、絶対防御空間のことである。
絶対防御空間の形状は、発動者であるダークンの足元を底辺の中心とした半径二メートル半、高さ三メートルの円柱形である。空間表面は外部からの可視光線のみを透過し他のあらゆるものを遮断する。しかし内部から外部に向けての物理攻撃、魔法攻撃ともに可能だ。従ってシタデルとは無敵の砲台を意味するわけだ。
当然気体の出入りもできないが、ダークンおよびその眷属は酸素無しでも長時間活動可能なため支障はない。
どこかのヒーローもののナレーションのつもりで、トルシェとアズランに絶対防御空間『神の城塞シタデル』について説明してやった。
トルシェは中身を理解してはいないようだが、言葉の響きだけで感動している。アズランはきょとんとしていたが、『とにかくすごい』と思ってくれたようだ。
見えない敵からの攻撃の察知については、何となく予兆のようなものを感じることができるような気がしている。女神の勘は当たるのだ!
今のところ何も変化がないので、することも無い。仕方ないので、体育座りをして木の実を食べながら、大広間の中で何か変化が起こらないか待っていたが、兆候もなにもないので『シタデル』の出番はない。
「何も起きないな」
「どうします?」
「何か出てくるかもしれないから、正面の壁をぶち壊してみるか?」
「何で壊します?」
「そうだな、まずはコロに食べさせてみて、それでダメなら、『神の鉄槌』を使おう」
「分かりました」
おもむろに俺が立ち上がり、順にトルシェとアズランが立ち上がった。また鳥かごを忘れてしまうと、サティアスが泣き出しそうなので、今回は忘れず右手で持ち上げてやった。
ステージの奥の壁に向かっていき、
「コロ、正面の壁を食べてぶち破ってくれ」
すぐに、ベルトに擬態中のコロから触手が伸びて、壁に人が通れるくらいの大きさで穴が開き始めた。
どんどん穴は深くなるがなかなか貫通しそうにない。
『神の鉄槌』で叩き潰そうと思ったが、このまま先に進んだらどうなるのか興味が湧いてきた。
「コロに壁を食べさせながら、穴の中に入っていったらどうなるかな?」
「先に進んで行ったあとで、後ろの方が閉じてしまいませんかね?」
「この大広間だって、どこにもつながっていないんだから、閉じようが閉じまいが一緒じゃないか?」
「それもそうでした。それじゃあ、先に進みましょう」
壁に空いた高さ二メートル、幅一メートル五十ほどの穴の中を俺を先頭にして進んでいく。中は薄暗くはあるが壁自体がわずかに発光しているようで暗黒という訳ではない。
コロの触手がどの程度伸びるのかは知らないが、百メートル近くは伸びそうだ。相当向こうまで穴が空いているのだが、いまのところ貫通している感じではない。
これまで、ダンジョンの壁の向こうはどうなっているのかなど考えたことはないが、ダンジョンの外から、この辺りにダンジョンがあるはずだと思って穴を掘ってもどこにも貫通しないと聞いたことがあるので、ダンジョン自体がわれわれの住む次元とは異なる次元、異次元の存在の可能性がある。この壁の厚さも無限大かもしれない。
「ダークンさん、やっぱり後ろの方が狭くなってきてるようです」
先ほどトルシェが危惧していたとおり、後ろが閉じてきているようだ。それならそれで、行けるところまで行ってやれ。
行けるところまでいってやれ、とは思ったが、かれこれ三十分コロの作った穴の中を歩いている。コロは無尽蔵に物を捕食できると知ってはいても、ちょっと食べ過ぎのような気がする。俺たちの排泄物ではないが、どこか別次元に消えていっているようだ。
これも、深く考えても仕方ないことだな。ただ歩いているだけなので無意味なことを考えてしまう。
それからさらに三十分。
「どこまで続くんでしょうね?」
「出口のない可能性もあるが、今さら引き返したくはないな」
「ダークンさん、先の方、向こうに貫通したようですよ。わずかに光が見えます」
目を凝らすと、かなり先の方に壁の発光とは違う小さな橙色の光が見えた。どこか明るいところに抜けたようだ。光はコロの捕食ですぐに大きくなった。コロがこれまでどれだけの量を食べたのか分からないが、約一時間、足の速い俺たちのことだから、トンネル七、八キロ分の壁を食べた勘定だ。俺の腰に巻いたベルトに擬態しているときに腹だけは壊さないでくれよ。
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