第104話 神の城塞シタデル
トルシェがまたまた一撃で敵を吹き飛ばしてしまった。相手の残骸も残っていないので相手が一体何だったのか全く分からない。ファイヤーボールの爆発で
この大広間の中にあるものと言えば、壊れたステージと炎の燃えている四つの筒くらいだ。
今の爆発で、この階層のボスを撃破したのならなにがしか変化がありそうなものだが、ステージが壊れて大穴が空いただけでこれといった変化は今のところない。
可能性として一番あり得るのは、まだボスを撃破していないということか。
精神体が相手だと、物理は無効なので面倒なんだよな。リンガレングもいないし。前回のハムザサールみたいに別の次元に潜まれたらお手上げだしな。
そんなことを考えていたら、穴も塞がって、壊れていたステージも直り始めてしまった。ステージもダンジョンの一部だったようだ。とすると、あの立派な椅子もダンジョンの一部の可能性がある。
それでどうなることかと見守っていたら結局椅子はもとより座っていた人物まで元通りになった。
座っていたのは人形だった?
敵がいないのでは斃しようがない。困ったー! 出口がどこにもない。
巨人の時も雪隠詰め。今回も雪隠詰め。このダンジョンはよっぽどトイレが好きなんだな。
バカなことを考えていても仕方がない。
「椅子に座っている怪人を調べてみるとするか」
「はーい」「はい」
人の背丈くらいのステージに三人揃って飛び乗って、ステージの後方中央に置かれた椅子の上に座る怪人が、一体何者なのか確認しようと近づいてみた。
着ていた白い服はローブのようで、金糸や銀糸で刺繍がされているためかなり高級そうに見える。デザイン的には『闇の使徒』の高級構成員、王都の連中の隠れ家にいたヤツが着ていた白ローブに似ている気がする。あれも刺繍があったと思うが、こっちの方がさらに豪華だ。頭には偉そうに白頭巾をしている。その白頭巾にも金糸銀糸で凝った刺繍がしてある。顔つきはやや痩せた面長のおっさんズラで、ひげは生やしていない。椅子のひじ掛けに乗っけた両手の指にはたくさんのでっかい宝石のついた指輪をはめている。
こいつは今でこそ、ダンジョンオブジェクトになってはいるが『闇の使徒』のお偉いさんだったのかもしれない。怪人からおっさんに格下げだな。いや格上げか?
何だか『闇の使徒』を思いだしたら無性に腹が立ってきたので、左手に持っていた黒いこん棒リフレクターを振り上げて、おっさんの側頭部をはたいてやった。
グシャ!
中に何にも入っていないような軽い手応えと一緒に、頭蓋骨が陥没してしまった。
いっかーん、怒りに任せてつい手を上げてしまった。物に当たっても仕方がないのに反省だな。
黙って見ていたら頭蓋骨の陥没した部分が盛り上がって来て、ペコンと元に戻った。もちろん実際にはペコンと音がしたわけではない。
ペコンを見てたらさらに腹が立ってきたので、右手に持ったエクスキューショナーでおっさんの首を刎ねてやった。
スッポーン。
トルシェほどではないが、いい感じで頭が吹っ飛んでステージの上でゴロゴロと転がった。切り離された首の根元はちゃんと白い頚椎や真っ赤な首の肉、白みがかったピンク色の食道なども見え、人間の首の断面になってはいたが、血は流れ出てはいない。
ある意味理科実験室の骨格標本なんかより役立ちそうではある。
「困ったなー、進展がないと本当にここから出れなくなりそうだ。まあ、『神の鉄槌』で壁ごとダンジョンを壊す手もあるが、大人げないものな。ちょっと休憩してしばらく様子を見るか?」
「ダークンさん、先に悪魔の入ったカゴを取ってきます」
俺がすっかり忘れていたサティアスのことをアズランは覚えていたらしい。さすがだ。
そのあいだ、トルシェは一生懸命おっさんの指にはまった指輪を抜き取ろうとしていたが抜けなかったようだ。そのうちナイフを取り出して、指を切り離してそこから指輪を抜きとり始めた。いらなくなった指はそこらに投げ捨てていた。実に楽しそうである。
アズランはすぐに鳥かごを持って返ってきたので、受け取って床の上に置き、
俺もヨッコイショとステージの上に座り込んだ。
もちろんトルシェもアズランも一緒だ。サティアスはまた体育座りで
サティアス、すねるな。さっきも一番初めに爆風を受けて、カナリアの使命を立派に果たしたじゃないか。と思ったが、あの時は既に一番後ろに置いたままになっていたので一番最後に爆風を受けただけだった。結局何の役にも立っていないわけだ。
排泄物の行き先は少し気になるが、毎度のごとく三人並んで木の実を食べ始める。
ガリッ。
「これからどうなると思う?」
コリゴリコリ。
「適当にそこらでブラブラしていたら、また『神の怒り』っぽい攻撃を受けたり」
「あの時はリンガレングがいたからどうにかなったがいなかったら危なかったものな。まあ、今の俺なら何とかなるような気もするがな」
「アレをまともに受けるとダークンさんだけは耐えることができそうだけどわたしとアズランは即死かな」
「安心しろ、俺が何とかしてやるよ。いま気づいたんだがな、俺には絶対防御の奥の手があったようだ。その名も『神の城塞シタデル』だ!」
「す、すごそー!」
「トルシェ好みの名まえだろ? ほんとは『神の城塞』だけでいいんだが、後ろにシタデルとつけるとカッコよさ二十パーセント増量だ!」
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