第122話 内通
ヤルサの知事公館内にある知事室で、俺に大剣で襲い掛かってきた大柄の男の首を刎ね飛ばしたあと、同僚と思われる魔術師然とした男に『詫びを入れろ』と言ったが何も返答がない。まあ『詫び』と言って小指を詰めるわけにもいかないので本人も困るとは思う。
進んで何か有益な情報なりを教える程度の機転が利かないようならこれからの人生でつまずくことも多いだろう。ならば、より単純な生き方を提示してやろうじゃないか。
「返事がないなら、それでもいい。死ね」
男は目を見開いて俺の方を見るがもう遅い。
俺は男の前まで一瞬で詰め寄り、右の腰に下げたリフレクターを左手で持ち上げながら無造作に右から左に振り切った。
バシッ!
俺の動きに何の反応もできなかった男の頭がいい音を立てて破裂した。頭を構成していた脳漿やらその他の部品の砕けた破片が、真っ赤な血と一緒にそこらにばら撒かれた。中年太りは頭から足の先までその半液体を浴びてぐちゃぐちゃになってしまった。
頭が破裂してアゴだけになった男は、中年太りに向かって倒れ込んで、椅子に座った中年太りごと床に転がってしまった。
中年太りは床に転がってやっと再起動したようだ。床に手をやり後ろにずり動こうとするが、先ほどの半液体で手が床の上を滑ってうまく動けないようだ。
「おい、おっさん。なにか最期に言い残すことがあるか? ないな? それじゃあ」
「ま、待ってくれ!」
「待ってくれ? お前は誰に向かってしゃべってるんだ?」
「待ってください」
「待ってやるとどうなる?」
「私がこれまで蓄えた金などがこの建物の私の私室にあります。どうぞそれで私をお許しください」
「お許しください? 何かお前は俺に許されないといけないことをしたのか?」
「い、いいえ。そんなことはありません」
「ない? あるだろう」
「申し訳ありません。女神さまに対して不遜な言葉を使ってしまいました」
「まだあるだろ? ハイデン軍のことで何か知ってたんじゃないか? え? どうなんだ?」
「そ、それは」
「そうかい。そんじゃな」
「ま、待ってください。ハイデンが攻めてきた場合最小限の抵抗の後すぐに降伏する取り決めをハイデンと交わしていました」
「何のために?」
「ハイデンに降伏した後もこの街の知事でいられると約束してもらいました」
「他には?」
「こういった取り決めをかわした街はこの街道沿いに多数に上っています。王都内にも似たような取り決めをした者たちがいます」
「なるほど。なかなかいい情報じゃないか。ところで、俺が処分した二人はお前のなんなんだ?」
「ハイデンから送られてきたボディーガード兼監視役です」
「俺が二人とも殺してやってお前の監視役がいなくなって良かったじゃないか」
「はい」
「それじゃあ、お前はしばらくそこらでおとなしくしてろ。
アズラン、すまないが、守備隊長を探してここに連れてきてくれるか? ついでに兵隊も数人守備隊長と一緒に連れてきてくれ」
「はい」
アズランが守備隊長を連れてくるのを待っているあいだ、トルシェは床に座り込んで木の実を食べ始めた。俺は中年太りの机の上をコロに綺麗に掃除させたあとそこに座ってアズランを待つことにした。
十分ほどでアスランが守備隊長と兵隊六名ほどを連れてきたが、全員部屋に入って目に入った知事室の惨状に息をのんだ。
「これは?」
「俺に
「処分ですか、分かりました。それで知事は?」
「こいつはハイデンに通じていた。
おい! おっさん、さっき俺に言ったことを守備隊長に話せ」
中年太りのおっさんが先ほど俺に言ったことを守備隊長に話した。意外と守備隊長は驚かなかった。やはり中年太りは怪しいと思っていたのかもしれない。
「守備隊長としたら、こいつをどうす?」
「逮捕して、余罪を追及します。敵と通じていたわけですから死罪は免れないでしょう」
今の言葉を聞いた中年太りは顔を青くしている。俺に殺されるという間近に迫った危機よりも、死刑の方が中年太りには現実味があったようだ。
「なら、証拠になるようなものが欲しいな。こいつの自供だけだと不十分かもしれないし」
「いえ、今は戦争中ですので、私の一存で何とでもなります」
守備隊長の言葉に、
「ハイデン軍は全滅したと言ってたじゃないか? もう戦争は終わっている。軍法は適用されない!」
「いえ、目先のハイデン軍は全滅しましたが、わが国がハイデンと和解したわけではありません。従って現在戦争中ということになります。何なら、ここで私があなたを処断いたしましょうか? 今回女神さまが介入してくださったため街はほとんど被害に遭っていませんが、降伏してハイデン軍に占領されていたら、住人や守備隊にどのような被害が出たか分かりません。
おい、お前たち、この男を重犯罪者房に連れていけ」
守備隊長と一緒にやってきた兵隊たちが中年太りを引きずるように連行していった。
「街道沿いの街はおろか王都にまで内通者がいるようだが、どこかに証拠になるようなものがないかな? この部屋の中をまずは
それまでおとなしく床に座って木の実を食べていたトルシェが手を上げながら、
「はいはーい。はいはーい」
『漁る』という言葉に反応したようだ。ここは本職のトルシェに任せてみるか。
「トルシェに任せたから、まずはこの部屋から
トルシェはまず中年太りの机の引き出しを確認していき、金目のものを
「机の中には、それらしいものはありませんでした。次は後ろの書棚を確認していきまーす」
書棚にも先ほど破裂した頭の部品や半液状体がくっ付いていたので、まずはコロに掃除してもらった。
「コロちゃんありがと」
コロにお礼を言ったトルシェが手際よく並んだ本を確認していく。
「あったー!」
そういって、トルシェが棚に並んだ一冊の本を押したら、本棚の一部が後ろにずれて、その先に進めるようになった。
守備隊長はそれを見てたまげていた。
トルシェに続いて、俺も中に入って見たら、その先は小部屋になっていて、大きな金庫のようなものが置いてあった。
「この中にお宝、じゃなくって証拠かなにかあるのかなー?」
ニヤニヤしながら金庫を見ていたトルシェが最後にコロの方を見る。
「コロちゃん、この金庫の扉だけ食べちゃって」
すぐに腰に巻いたコロから触手が伸びて、金庫の扉が消えていった。
「コロちゃん、そんなところでいいよ」
扉が半分消えてなくなった金庫から残った扉が床に落ちた。金庫の中には棚があり金貨や宝石、大量の書類などがそれぞれの棚に置いてあった。
まず、金貨と宝石を回収したトルシェが書類のチェックを始めた。
かなりの高速で書類に目を通していたトルシェが、
「あったー!
見つけました。あのおっさん、ハイデンの手先になっていろんな街の知事を買収してたようです。どこの誰にいくらとか出納帳のようなものが出てきました。これは、買収相手に書かせた誓約書だな。ずいぶん多いです」
「俺たちが一々対応してもややこしいし面倒だから、ここの中年太りの逮捕は内密にして、王都に知らせて一網打尽にした方が良さそうだな。ビジネスウーマンの監察官とか言う役職はこんな連中を取り締まる役職だろうからあいつに知らせてやればちょうどいいだろう。
そういうことだから、あの中年太りを処刑するのは勝手だが、内密にな」
「はっ! 承知いたしました」
「それじゃあ俺たちは王都まで急ぐから、後は任せた」
「はい! お気をつけて」
「それと、俺への正式な礼拝をアズラン、守備隊長に教えてやってくれ」
「はい。
私をよく見て真似るように」
アズランがゆっくりと二礼二拍手一礼を俺に向かっておこなうと、それを見よう見まねで守備隊長がまねをする。
最初にアズランが七色に輝き、守備隊長が七色に輝いた。
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