第123話 カメの首輪
久方ぶりのフォーのあと、トルシェは内通の証拠をキューブに仕舞い、俺たちは知事公館を後にした。
ヤルサの西門に置きっぱなしのタートル号の周りには数人の兵隊がいたが、みんな俺たちに向かって直立して礼をしていた。なかなか士気の高い良い兵隊たちだ。ただ、礼もいいができれば礼拝していただきたかった。
俺たちは兵隊たちに手を振りながら、タートル号に乗り込んだ。
すっかり失念していたが、鳥かごの中にちゃんとオウムがいた。オウム形態のままなので、サティアスも体育座りができなかったようだ。俺たちが帰って来たので慌てて両足で立ち上がったのだが、いままで鳥かごの底で横になっていたようだ。鳥も横になって寝ると初めて知った。止まり木くらい入れておいた方がいいかもな。
タートル号はその場で百八十度方向転換して、西門から城塞外に出ていきヤルサの城塞をぐるっと東に回り込み、東に続く街道に出た。この辺りの街道は石で舗装されてはいなかったので、とりあえず街道上をタートル号は王都を目指して進むことにした。
戦争の影響か街道上には行きかう馬車などほとんどいなかったが、さすがにゼロではないので、
「街道上を進むと馬車の邪魔になるから、街道の脇を進むようにしよう」
「はーい。
タートル号、そういうことだから」
数歩タートル号が右に移動してそれから街道に沿って進み始めた。『そういうことだから』でタートル号に言いたいことが伝わったらしい。なかなか優秀なAIを搭載している。
「それじゃあ、帰りはタートル号に任せて、酒盛りだな」
「ヤッター!」「エヘヘヘ」
街道の脇を進むタートル号。
途中街道が街並みなどを縦断することもあるが、そういう場所ではタートル号はちゃんと迂回する。どういう仕組みなのかはわからないが、確かにトルシェは大賢者のようだ。
そして三日三晩の酒盛りのあと、四日目の昼過ぎ王都の西門が見えてきた。
「ようやく到着だな。さて、タートル号はどうする?」
西門手前の駅舎の脇で止まったタートル号の中で、タートル号をどうするか決めることにした。
「このまま王都に入るわけにもいかないから、ここで粉々に壊せばいいんじゃないかな」
「こんなに言うことを聞いてくれるタートル号を壊したくはないぞ」
「私も」
「じゃあ、タートル号を本当のカメぐらいまで小さくして連れ歩きましょう」
「そんなこともできるのか?」
「やったことはないけど、簡単だと思います」
「さすがだな。そしたらタートル号に頭としっぽが必要じゃないか?」
「そうですね。そこは忘れないように取り付けましょう。因みにカメのしっぽってどんな形でしたっけ?」
「俺もちゃんと見たことはないが、可愛いしっぽがちょろんと出てるんじゃないか?」
「可愛いしっぽがちょろんとですね。わかりました」
街道横にしばらくタートル号を停めて扱いについて話をしていたら、今回もタートル号が珍しいのか、街道に馬車を停めて見物する連中が増えていき、タートル号を近くで見物しようという通行人も増えてきた。
今は王都に入るために小さくする算段だが、こうなったら馬鹿でかくしても面白そうだ。神殿ができたらタートル号を屋根の上に飾っておけば名物になっていいかもしれない。
「それじゃあ、降りるか」
「はーい」「はい」
酒盛りの片付けも終わっているので、忘れないよう鳥かごを抱えて、ハッチバックから外に降り立った。
タートル号の周りに集まっている連中を追い払うのを忘れたので鬱陶しいことこの上ない。
なれなれしく俺に話しかけてくるヤツまで出てくる始末だ。
「ダークンさん。ここの連中、鬱陶しいからまとめてスッポーンしちゃいましょうか?」
俺もトルシェの意見に基本的には賛成なのだが、そこはぐっとこらえて、
「俺もそうしたいが、さすがにここじゃあマズいから、二、三発頭の上にファイヤーボールでも打ち上げて脅してやってくれ」
「りょうかーい!」
トルシェは軽くこぶしを握った右手を上げて、そこでこぶしを開いたら、五つのゴルフボール大のファイヤーボールがバラバラに空に向かって撃ち上げられた。今度のファイヤーボールの色は毒々しい紫だ。タダのファイヤーボールじゃないのは見た目だけで分かる。
ゆっくり撃ち上げられたファイヤーボールが、そこまで上がらないところで爆発した。
ドドドドドーン!
あんな小さなファイヤーバールがこれほどの音を出すのかと驚くほどの轟音が辺りに響き渡った。音はすごかったが爆風があるわけでも何もないただのこけおどしだったみたいだが、タートル号の周りに集まっていた連中は腰を抜かしたり、悲鳴を上げたりしてパニックになってしまった。当然街道に停まっていた馬車も例外でなく、繋がれていた馬たちも暴走を始めてしまい、街道は大騒ぎになってしまった。
これでやっと、鬱陶しい連中が近くからいなくなった。
今の騒ぎを見ていた鳥かごのオウムが何か言っていたが、轟音で耳の調子が悪くなった俺には聞き取れなかった。
「静かになったところで、タートル号を改造してしまいましょう」
張本人のトルシェは何事もなくしゃべっているし、俺にもよく聞こえるので、オウムは小声で何かを言っていたに違いない。どうせ大したことを言うはずがないので気にしないでいいだろう。
黙ってタートル号の改造を見ていたら、それまで四つ足で立っていたタートル号が崩れるような感じで地面に落っこちてきたと思ったらそのまま四つ足と甲羅がしぼみ始めて小さくなっていった。
派手な演出を期待していたのだが、何も演出なくタートル号は地味ーに小さくなってしまった。
でき上ったのは直径一メートルほどのカメ。実物は見たことはないがゾウガメだな。立派な頭がついている。首がかなり長い。しっぽはというと、申し訳についている。果たしてゾウガメにしっぽがあったかどうかわからないが、そもそもこいつはタートル号なので気にする必要はないだろう。
「何もないと野生のカメだと思われるから首輪くらいつけた方がいいんじゃないか?」
「それもそうですね」
どうやったのか分からいがすぐに金色の首輪がタートル号の首に取り付けられた。
「うーん? カメの首に金色の首輪か。なんか見た目がすごーく、らしいんだが」
「らしいとは?」「???」
「いや、分からないのなら、二人とも気にしなくていい」
ということで、タートル号の首に金の首輪が取り付けられたままになってしまった。こいつを連れて歩くわけだ。俺とすれば少し離れて歩きたいが、それだとタートル号に悪いので我慢して歩くとしよう。
「それじゃあ、いこうか」
「はーい」「はい」
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