第124話 甘言


 アズランを先頭に、監察官のジ-ナ・ハリスビジネスウーマンのいる警備隊本部に向かって歩いていく。アズラン、俺+鳥かご、トルシェ、ゾウガメモードのタートル号の順だ。



 警備隊本部の玄関ホールから階段を上ったが、タートル号は問題なく階段を上って俺たちについてきた。


 ジ-ナ・ハリスの部屋の前まで来たところで前回同様、


「おーい、俺たちだー」



 スケルトンちゃんとジ-ナ・ハリスに迎えられ、応接セットのソファーに腰掛ける。もちろん俺は鳥かごも持ったままだし、タートル号も俺たちに続いて部屋の中に入っている。タートル号を見てジ-ナ・ハリスはどういった反応をするか楽しみだったか、これと言った特別な反応は見せなかった。残念。



「ハイデン軍の動きについては、やはりわが軍では何も掴んでおらず、私が何をいっても無駄でした」


「そのことだが、ハイデン軍は俺たちが始末してきた」


「始末とは?」


「ハイデン軍二万を文字通り皆殺しにしてきてやった。ヤルサとか言う城塞都市の前にいた一万五千とその北にある砦の前にいた五千を皆殺しにしたから、じきにヤルサとその砦から連絡が来るんじゃないか? ハイデンの遠征軍はおそらくハイデンの主力の精鋭部隊だったんだろうから、大きく弱体化したはずだ。この国を含めて周辺国からすれば煮るなり焼くなり簡単だろうな」


「は、はい」


「それと、ヤルサの知事がハイデンに内通していた。そのほかの街道沿いの知事たち、王都の有力者たち。そいつらがハイデンに通じている証拠を見つけてきた。

 トルシェ、ジーナに渡してやれ」


「はーい」


 ヤルサで見つけた証拠の書類の束をトルシェが応接テーブルの上にどさりと置く。



「逃げられないよう準備して一気に捕まえるんだな」


 ジーナがその書類の束を順に手に取り中身を確認していく。


「これは大変なことになりますね。おっしゃるように一気に片を付けなければ妨害などが起こりそうです。ありがとうございます」


「言ってくれれば、王都内限定だが俺たちが始末してやってもいいぞ。どうせこいつらは死刑だろ? 神殿の工事はまだ始まっていないし、俺たちはここ王都にいる間は暇だからな」


「まだ王都ではハイデンと戦争状態であるとの認識はありませんが、ヤルサから報が入れば戦争状態ですので、軍法によって処断されます。敵国との内通ですから、刑は財産没収の上死罪ですね。単なる犯罪ではありませんから、この連中の係累についてもタダでは済まないでしょう」


「ところで、この国の軍隊の中は信用して大丈夫なんだろうな?」


「いただいた書類の中には軍関係者はいませんでしたが、対象と何らかの関連がある者が軍いる可能性は否定できません」


「お前ひとりで、捕縛する人員を勝手に動かせないんだろ?」


「上司に報告して、軍としての対応になります」


「それで大丈夫なのか?」


「やってみない事には分かりません」


「そんな希望的観測じゃあ、当てにならないじゃないか。

 トルシェ、スケルトンちゃんほどではないにせよ、ある程度使える召喚モンスターを一度に何匹くらい召喚できる? そうだなー、一カ月くらいの期限付き召喚かな」


「スケルトンちゃんはブラックスケルトンナイトだったから、それより弱っちいのだとただのブラックスケルトンでしょ。だったら一度に二百体くらいはいけるかな」


「ジーナ、トルシェが兵隊を用意するから、もうお前の独断で逮捕していけよ。兵隊は二百もいれば十分だろ?」


「法を順守させることを仕事にしている私が自ら法を破るわけには」


「気持ちは分からないでもないが、動き出した後に後手に回ればお前が潰されるぞ」


「はい。承知しています」


「そうか。なら仕方がない。その連中が捕まろうが捕まるまいが、戦争自体は俺たちがハイデン軍を全滅させたので終わっているからこの国にとっては大差はないだろうしな。ただ、俺たちが何もしなければこの国は大変なことになっていたと思うが、お前もそう思うだろ? 内通者があれほどいたわけだから、この王都すら陥落した可能性もある」


「その可能性は高かったと思います」


「だろ? そしたら、この国が終わった可能性もあったわけだ」


「その通りです」


「逆に考えてみよう。俺たちがこの国を救ってやったからこの国が存続している。そう考えれば俺たちが何をしてもいいと思わないか?」


「それは何とも」


「たとえば、俺がこの国の王さまになる。ハイデンの属国になり下がるより良くないか? ハイデンの属国になったらそこの書類の内通者、裏切り者にアゴで使われるんだぞ?」


「そうですね」


「だが、俺がこの国の王さまになれば、頭がすげ代わるだけで、後は何も変わらないぞ。それに、俺自身王さまの仕事なぞしたくはないから、適当なヤツに国のことは任せると思うぞ。例えば、お前だ。ジ-ナ・ハリス。ジ-ナ・ハリス執政官。いい響きだとは思わないか?」


 俺がこんな話をしていたら、いつの間にか鳥かごの中のオウムが悪魔の姿に戻っていた。ちいさな声でサティアスが、


「すごい。……」


 とか言うのが聞こえた。


 悪魔に褒められてしまった。


 ジ-ナ・ハリスは黙ってしまった。考えている。あと一押しか? いや、ジーナは鳥かごに入って花柄パンツを律義に履いている全く可愛げのないサティアスに驚いているようだ。


 一応、サティアスも俺たちの実力の一端のようなものと理解してくれ。


「この鳥かごに入っているのは、先日捕まえてペットにしたサティアスという悪魔だ。こいつも一応は俺たちの仲間だ」


 何の役にも立たないがな。


「魔術師ギルドも当然だが俺たちの味方だ。さっきはブラックスケルトン二百体とか言ったが、

 トルシェ、『暗黒の聖水』を飲みながらだとブラックスケルトンを何体くらい召喚できそうだ?」


「『暗黒の聖水』を飲みながらだと、いくらでも召喚できます。そーですねー、一時間で二、三千体くらいのスピードかな?」


「だ、そうだ。三、四時間あれば、ブラックスケルトンが一万体だ。一万体もいれば壮観だぞ」


「分かりました。私もわが主の覇業に協力させてください」


「よく言った」


 面白そうになってきたぞ。

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