第125話 王国奪取! 1


 俺たちが救ってやった国だ。俺たちがどうしようと勝手だろう。


 という謎論理を振りかざし、さらに甘言を弄して軍の監察官ジーナ・ハリスを抱き込んでクーデターを起こすことにした。


 こうなってくるとタートル号を先頭に、一万のブラックスケルトンを引き連れ、王宮に殴り込みをかけたくなる。


 クーデターと言っても、この国の王さまが憎いわけではないので、今の王さまには隠居してもらい、王位を禅譲させるつもりだ。何と心の広いクーデターなのかと思うぞ。さすがは『慈悲』の権能持ちの俺ならではの発想だ。


 俺が王さまになった暁には、国の事業として大神殿をおっ建てる。それ以外は執政官にする予定のジーナに丸投げでいいだろう。国民すべてが俺に向かって二礼二拍手一礼をすれば、快感で気が狂ってしまうかもしれないな。


「よし、善は急げだ。トルシェはどんどんスケルトンを召喚していってくれ。千体も召喚したら、タートル号を先頭に王宮に進撃して、王さまに禅譲を迫ろう」


「千体は簡単だけど、どこに召喚します?」


「そうだな、まずはタートル号を表の通りで元の大きさに戻してその後ろにブラックスケルトンを千でも二千でも召喚してどんどん並べてくれ。せっかくだから、まずは、この警備隊本部を占領しておくか。最初の五十体くらいでこの建物を占領しておいてくれ」


「はーい」


「ジーナは俺たちと一緒にタートル号に乗り込んで王宮に行くぞ!」


「い、今からですか?」


「善は急げとさっき言ったろ?」


「分かりました。ところで、タートル号というのはもしやそこにいる陸ガメ?」


「今はこんななりだが、実際はバカでかいメカカメだから心配するな」


「メカカメ?」


「気にするな。それじゃあいくぞ」


「スケルトンちゃんも連れて行っていいんですよね」


「ああ、当然だ」


 トルシェが部屋の外の廊下にブラックスケルトンを五十体ほど一度に召喚した。そいつらは片手に剣、片手に大き目の木の盾を持って、わらわらと警備隊の建物の中に散っていった。いたるところから悲鳴や物が壊れる音が聞こえてくる。抵抗しなければスケルトンたちも無茶はしないと思うぞ。



 俺たちもすぐにジーナの部屋を出て、バタバタと階段を降り、取り込み中の警備隊本部の建物の前の通りに出た。



 通りには馬車や人通りがあったが、これからクーデターを起こすので気にせず、


「トルシェ、タートル号を元の大きさに戻してくれ」


「はーい」


 トルシェが右手を道の真ん中で待機中のタートル号に向けたとたん、タートル号が弾けるように元の大きさに戻った。タートル号が突然道の真ん中に現れたため、近くを通っていた馬車の馬が暴れて大変なことになったが、生きていれば、そういうこともある。諦めろ。


 タートル号が足を折って甲羅が路面に着いたところで、ハッチバックを開いてみんなで乗り込んだ。その時にはもうトルシェはブラックスケルトンを通りで召喚し始めていたので、タートル号の後ろには二、三十体のブラックスケルトンが並んでいた。


 ハッチバックを開いたままにして後ろを見ると、見る見るうちにブラックスケルトンたちの数が増えていく。十列縦隊で壮観だ。


 ブラックスケルトンの数が二百体くらいになったところで、


「タートル号、王宮に向けて出発しゅぱーつ!」


 甲羅が持ち上がりタートル号が歩き始めた。後ろにスケルトン軍団が続くため、速度は行進速度だ。


 進みながらも、どんどんブラックスケルトンの数が増えていく。


 通りの通行人をブラックスケルトンが威嚇するわけでも、まして攻撃するわけではないが、通行人は勝手に逃げていく。


 わが軍団はそこらの兵隊たちと違って軍律が徹底しているので、非戦闘員を傷つけることはない。少なくとも総司令官の俺はそう信じている。


 タートル号の後を、ブラックスケルトンが行進する。その足音が重なっている。


 ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ。


 実に勇壮だ。



「ジーナ、前に行ってスリットから外の様子でも見ておけよ。俺は総司令官としてタートル号の甲羅の上に上がって全軍の士気を高める」


 スケルトン軍団に俺の姿を見せたところで士気が上がるわけはないだろうし、そもそもスケルトン軍団に士気などあるかどうかも不明だ。


 だが、しかーし。やはり指揮官先頭の気概だけは持っておきたいじゃないか。


 開きっぱなしにしていたハッチバックから、タートル号の甲羅の上に立ったのだが、正面で屹立する金の首輪をつけたカメの頭が微妙に邪魔だ。


 そのうち『暗黒の聖水』の入った水袋を持ったトルシェがアズランと一緒に甲羅の上に上って来たので、


「トルシェ、タートル号の頭がちょっと邪魔なんだが、もう少し下に下げてくれるか?」


「はーい」


 屹立していたタートル号の首が水平まで下がって、見晴らしがよくなった。


 通りに人はいなくなったが、通りの両側に建つ建物の窓から俺たちも見ている連中ががたくさんいる。


 普通なら警邏の連中がどこかにいるはずだが、さすがにタートル号を先頭としたわがスケルトン軍団を前にすれば何もできずにどこかに隠れて様子を見ているのだろう。


「トルシェ、わが軍団のスケルトンは今何体ぐらいいる?」


「まだ、二千くらいです」


 後ろを振り返ると、二千くらいというが結構な数に見える。黒い波が規則正しく揺れるところが迫力があってよろしい。


 二千だといまいちだが、あまり多くても邪魔になりそうだし五千くらいにしておくか。


「トルシェ、全部でスケルトンは五千もいれば良さそうだ」


「分かりました」


 そこでトルシェが水袋の『暗黒の聖水』一口飲んで、空になった水袋を収納して新しい水袋を取り出した。


「トルシェ、今思いついたんだが、『暗黒の聖水』の代わりに酒を飲んだらどうかな? 案外いけるかも知れないぞ」


「わたしもいけそうな気がするから、次、魔力を補給する時、『暗黒の聖水』の代わりにお酒で試してみましょう」



 どんどんスケルトンが増えていく。


「そろそろ、いきますか。ワインでいいか」


 飲みかけのワインの瓶をキューブから取り出したトルシェが、栓を抜いてコップに注ぎ、ゴクゴクと一気飲みした。


「いける。これならいけます。魔力を使うと意識して飲んだのは初めてだったけど、十分『暗黒の聖水』の代わりになりますね。もっと度数の高いお酒だともっと効果があるかも」


「よし、そしたら、引き続きスケルトンを召喚していってくれ」


「はーい」




 行進していたら、左手の建物の向こうに王宮の外壁が見えてきた。


「アズラン、王宮まであとどれくらいだ?」


「その先が王宮へ続く大通りですから、左折すれば五百メートルほどで王宮の正門です」


「そうか、そろそろ兵隊が出てきてもいいころだが、ビビってるのかな?」


「ビビってるの意味は分かりませんが、この軍勢に対応するだけの兵隊がいなければ犬死ですから、王宮内で待ち構えてるんじゃないでしょうか」


「それもそうだな。攻者三倍の法則だか攻撃三倍の法則だかがあるから、防御側が有利だし、王宮にこもられたらそれ以上に防御側が有利だものな。とはいえ、俺たちには何の意味もないな。

 アズラン、アズランはこの前憲兵隊の本部に行ったろ?」


「はい」


「その辺りに軍の司令部みたいなのは無かったか?」


「ありました。憲兵隊本部が近衛部隊の司令部にくっ付いてました。あと部隊の宿舎のようなものもありました」


「そしたら、スケルトン隊を千くらい引き連れてそっちを無力化してくれ」


「はい」


「トルシェ、そういうことだから、アズランがスケルトン千体に命令できるようにしてくれるか?」


「はーい」


 アズランが、手前にいたブラックスケルトン千体を率いて、横道にそれていった。


 近衛部隊や憲兵隊がいようがいまいが俺たちに有効な反撃はできないだろうが、もうすぐ俺の国の兵隊になる連中だ。無駄な被害を出したくないからな。





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