第7話 第二回接近遭遇
俺たちの当面の目標は決まった。
そして馬車は進む。
退屈である。
馬車の中では、退屈が極まったのか、ついにトルシェが退屈踊りを始めてしまった。
「退屈だー、退屈だ。退屈なんですー」
とかへんな節を付けて歌いながら腰と一緒に両手をフラフラ振って踊っている。
フラダンスならぬフラフラ踊りなのだが、馬車の中で踊っていたらトルシェのヤツ目が回って頭がフラフラしてきたらしい。ほんとのフラフラ踊りになってしまった。
トルシェはそれでもしばらく踊り続けていたが、とうとうフラフラと席についておとなしくなってしまった。
馬車は本来なら休憩で何度か停車するはずなのだが、一度も停車せずに次の駅舎のある宿場町に到着した。馬は大丈夫なのかは知らないが、そういったわけなので、かなり早い時間の到着となった。
馬車を降り、宿場町の中の宿屋を探して三人で通りをぶらぶらしていたら、通りを行く若い男たちが俺たちの方をジロジロ見る。チラ見はガン見とか言うが、ガン見はやっぱりガン見だった。
不快な思いをしながら道を歩いていたら、今度は四人ほどのガラの悪そうな若い男たちが、ニヤニヤしながら5メートルほど先で道を
知らないふりをして
「キショイからこっちを見るな! それと
とか言う。
わざと狙ってのことだと思う。よほど馬車のなかで欲求不満が溜まってしまったようだ。溜めておくよりも吐き出す方が健康にはいいものな。止める必要はないだろう。
「なんだとー。俺たち四人でおまえら三人と遊んでやるつもりだったからちょうどいい。ヘヘヘヘ」
四人組がニヤニヤしながら俺たちの方に近づいて来る。
『トルシェ、通りで成り行きを見てる連中が多いから、くれぐれも半殺し程度にな。トルシェは最近魔法一辺倒だから、久しぶりに「
『わっかりました』
収納キューブに仕舞ってあったはずの短弓の烏殺と矢筒をキューブを開くことなく取り出したトルシェが、烏殺に同時に四本矢をつがえ、
「おまえたち、縦に並んでくれていれば一本で済んだんだけどな。とりあえず全員一緒くたに大サービス」
矢を膝に受けた四人は見た目通り根性が足りてないようで、通りに倒れ込んで大声でわめき始めた。
あんまりうるさくしてると、折角半殺しで
それ見ろ。
トルシェが一言低めの声で、
「うるさい!」
そう言って男たちの方に歩いて行き、大声でわめいている男たちの中の一人の太ももに片足をかけて動かなくして、膝から膝の裏に突き抜けた矢の矢羽根の先を掴んで思いっきりその矢を引っ張り抜いた。
残りの三人は腰を抜かしたのか、大声でわめきながら尻を地面につけたまま少しでもその場から逃げようとしていたが、トルシェに一人ずつ同じような処置をされていった。
使った矢をトルシェが四本全部回収し終わったときには全員泡を吹いて気絶してしており、やっと静かになった。同時に通りにいた見物人たちも一言もしゃべらなくなった。
「行こうか?」
「はーい」「はい」
第二回目の接近遭遇は、ちょろすぎたのは減点要因だが白目を
通りで泡を吹いて気絶した連中の脇を抜けようと歩いて行ったのだが、アズランが転がった連中をご
放っとけば出血多量で四人とも死んでしまうかもしれないが、誰か
俺たちが進むと、いままで通りで見物していた連中が俺たちに目を合わさないようにして道を開けてくれる。最初からこうしておけばよかった。
今の騒ぎの場所から少し先に宿屋が見つかったので、そこに宿をとることにした。宿屋に入りフロントで部屋をとったのだが、フロントのお姉さんの受け答えの声はなぜか震えていた。ビブラートの練習はお客のいないところでやってくれ。
ビブラートお姉さんに案内された部屋で、トルシェが、
「ちょっとだけ暇つぶしになりましたね!」
嬉しそうに俺に言ってくる。
「ああそうだな。ここいらの連中は俺たちみたいないい女は見たことがないのかな?」
「それもあるかもしれませんが、基本バカなんでしょう」
「それを言ったらお
「そうでしたー、ワッハッハ」
「ワッハッハ」……。
俺の仲間は気の置けない明るい連中で実にありがたい。
注1:
トルシェの持つ短弓。特性として命中率大幅アップ、貫通力アップ、破壊力アップ、クリティカル率アップ、特に頭を狙った場合のクリティカル率は大幅アップする。命を奪うことにより強化される。自己修復機能を持つ。
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