第56話 魔術師ギルド、トルシェ議長
事務長に案内された本館の最上階の一室。
広い部屋の奥に重厚そうな机が置いたあった。他の調度は照明があるだけだ。こざっぱりしすぎている。
「召喚の塔へ行かれる場合は、そこらに歩いている者にでも場所をお聞きください。私も忙しいものでこれで失礼いたします」
そう言って、事務長は小走りでどこかに行ってしまった。
「うーん。思っていたのと違って、真っ当なところみたいだな。それにしても、おかしなことになってしまったな。なあ、議長閣下」
「ダークンさん、お願いだからやめてください」
「そう言わずに、そこの机の後ろの椅子に座ってみろよ」
「それじゃあ、ちょっとだけ」
そう言いながら、何だか嬉しそうに椅子に座ったトルシェだったが、小柄なので、机が異常に大きく見える。トルシェより小柄なアズランを座らせたらもっと面白そうだが、それは言わないでおこう。トルシェはニコニコしながら机の引き出しの中を調べていたが、だんだん無表情になってきた。きっと中に何も入っていなかったのだろう。
トルシェは放っておいて、
「こうなったからには、ここの連中を信者にしていくしかないな」
「どうすれば信者になるでしょうか?」
「そうだなー。そういえば、ここには治癒魔法の出来る奴はいないのかな? リストが言っていたが王都にはヒールオールのできる魔術師がいないそうだものな」
「そう言ってましたね」
「そうしたら、ここでも、万能薬はそういった意味で効くかもな。というより、トルシェにヒールオールを使わせた方が効果的か?」
「トルシェがヒールオールを使ってしまうと、トルシェの権威は上がるでしょうが、信者になるかといえばそうではないでしょうから、やはり万能薬でいきましょう」
「それもそうだな。しかし、金貨が三百万枚もあるんだったら簡単に大神殿ができそうだな。よく考えたら、いま大金を使って魔術を研究している連中にトルシェが魔法を教えてやったら、研究する必要がなくなって、金を使わなくていいんじゃないか?」
「それはありそうですね」
「だろ。それで、ここに新しく魔術師ギルドを修理するといって、大改修して大神殿を作るわけだ。大神殿の上の辺りに、塔を何本か建てておけば大神殿の飾りにもなるだろうしジジババはおとなしくしてるだろうからな」
「さすがはダークンさん。考えることがエグイですね」
「そこまで褒めるなよ。照れるじゃないか。まあ、取り壊して立て直す方が安く済むとは思うが、ジジババどもが立ち退き拒否するだろうからな」
不機嫌そうなトルシェも話の仲間に入れてやらないと可哀そうなので、
「トルシェ。ここじゃあ何もないようだから、召喚の塔とやらを見に行ってみないか? ここが空っぽということはそっちに大事なものを置いているんじゃないか?」
「そうですよね。そうに違いありません。さっそく行きましょう」
事務長の言っていたように、そこらに歩いているローブを着て魔術師風の男を捕まえて、召喚の塔とやらに案内させた。
本館を出て、先ほどの戦いで真ん中あたりがボコボコになった広場を横切り、その召喚の塔とやらに向かった。
他の塔も同じだが、基部の大きさが十メートル四方で高さが五十メートルもあると妙に背が高く座りの悪い建物に見える。耐震構造や免震構造ではないのだろうから、地震が来たら一発でアウトのような気がする。この世界のダンジョンの中で目覚めて以来、地震は感じたことがない。こんなものが建っているところを見ると、ここではあまり地震がないのだろう。
入り口の両開きの扉は閉まっていたが鍵はかかってなかったので簡単に開いた。
中に入ると一階はタダのホールになっているようで階段以外何もなかった。
二階に上がると、そこは製図室のような感じで、黒いローブを着た魔術師?が十数人がわき目もふらず斜めになった机の天板に置かれた本を見ながら、その内容をとなりに広げた紙の上に書き写していた。大変な作業だと思うが、きっとこれが召喚魔術関連の本としてかなりの高額で売れ、収益に貢献しているのだろう。ご苦労さんである。
三階は試料室だか倉庫だかわからないが、棚の上に訳の分からないものが並べられていた。骨董品的に価値があるものも中にはあるのかもしれないが、少なくともトルシェの好むような金ピカのものはなかった。
そんな感じで、図書館風の部屋、部屋の中央に大きな魔法陣の書かれた部屋、用途不明の大きな器具を使って黒ローブたちがなにやら作業している部屋などがあったが、黒ローブたちは俺たちには無関心のようで、自分の仕事だか研究に熱中しているようだった。
トルシェを先頭に最後に塔の一番上の階に上がったところ、そこが塔の
広めの部屋には、大きな机と、小さめな机が一つずつ置いてあり、小さい方の机に黒ローブの女が座っていたが、俺たちが階段から上がってきたら立ち上がって、こっちの方にやってきた。
「やっとお越しになりましたね。新たな召喚の賢者さま」
そういうなら、迎えにこいよ。
トルシェ議長が横柄に、
「それで、あんたは?」
「召喚の賢者さまの秘書をしておりますユリーカ・クリプトと申します。それで、賢者さまの後ろのお二人は?」
「背の高い美人さんがわたしの上司みたいな人、もう一人の背の低い美少女はわたしの同僚ってところ」
「賢者さまのご上司に、ご同僚? あまりピンときませんが、賢者さまと思って私はお二人に接すればよいのですね?」
「そういうこと。ところで、塔では魔術の研究にたくさんお金を使っているって聞いたけど、今はどんな研究をしているの?」
「先の賢者さまの研究は、グレーターデーモンの召喚の研究でした」
「あれってさっき召喚してたんじゃないの?」
「はい、そうなんですが、召喚はできるもののこまかい指示ができなかったようです。研究途中で召喚してしまったため先ほどのような事故が起こってしまったのだと思います。しかし、新たな召喚の賢者さまは、あのような見事な空を飛ぶ黒き魔人を召喚され、それを見事に操っておられる。もはやグレーターデーモンの研究は無意味でしょう」
「そうだよね。そしたら、研究で使っていないお金が余るんじゃない?」
「いえ、今回グレーターデーモンを先の賢者さまが召喚しましたので、高額であった召喚用の宝珠を消費してしまいました。それらを補充しなければ、今後上位の魔物の召喚ができなくなります。オークションなどで手に入れなければならないものですから、資金が足りるか足らないか微妙なところです」
「えっ! そうなの?」
「上位の魔物の召喚には莫大な魔力を使いますので、魔力のかさ上げと、補充用に宝珠を消費します。グレーターデーモンの召喚に先の賢者さまは二つの大型宝珠を使われたはずです」
「ふーん、魔力のかさ上げとか魔力の補充とか、何だか体に悪そうな話なんだね」
「おっしゃる通りで、あまりそういったアイテムに頼っていますと、廃人になる可能性もあります。そのようなことをおっしゃるということは賢者さまはそういったアイテムを使用されずにあの黒き魔人を呼び出されたのですか?」
「そうだよ。あんなの簡単じゃない」
「おおおーーー! あなたさまこそ永きにわたり不在であった魔術師ギルドの大賢者にふさわしいお方です!」
ついにトルシェが、議長から大賢者さまにランクアップした瞬間であった。なんちゃってね。
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