第55話 魔術師ギルド本部接収


 一仕事終えた鳥神ちょうじんは一度地面に降り立って俺の方に向かって一礼し、ゆっくりと透明になって消えていった。


 ご主人さまとは比べ物にならないほど礼儀をわきまえた立派なヤツだ。



「トルシェ、ご苦労。しかし、召喚までできるとは、トルシェは本当に魔法の天才だな。今回も、じじいの召喚を一目見ただけでまねしたんだろ?」


「えへへ、まあ、そういうことです。なんだか、どんな魔法でも実物を見さえすれば何でもマネできる気がするんですよね」


「それこそが天才のあかしだな。

 偉そうなじじいに魔術勝負で勝ったトルシェがこのギルドのトップになったと考えればいいのかな? 誰かそういったことの責任者はいないのかな?」


「ダークンさん、さっきのじいさんがその責任者じゃなかったですか?」


「そうだったよな。

 おーい、誰かいないのかー? トルシェの魔法が一番だってことが分かったんじゃないかー、おーい、責任者はいないのかー? 責任者出てこーい!」


 俺が大きな声で、責任者を呼んだら、広場を囲むそれぞれの塔の中から、一人ずつじいさんばあさんが出てきた。出てきたのは五人、それぞれが原色のハデハデなローブを着ている。その原色のローブには赤ローブの禿げ頭と同じ金糸で刺繍がしてあった。



 その中から、緑色のローブを着た白髪頭のばあさんが一歩前に出て、


「われわれが評議会の委員じゃ。召喚の賢者を破ったからには、そこの女子おなごがここの評議会の議長になることに異存はない」


「ダークンさん、ああいっていますが、わたしはここの評議会の議長なんかになりたくないんだけど、どうすればいいですか」


「そうだな、いちおうそこのばあさんたちは物分かりが良さそうだし、どうするかな。

 おい、ばあさん。俺たちはこのギルドのトップになりたいわけじゃなくてだな、ここの土地を再利用するためにみんなに出ていってもらいたいだけなんだよ」


「なんと!」


 価値観は人それぞれだから驚くところも人それぞれだわな。


「行く末短いわれらに浮浪者になれと申しておるのか?」


「いや、浮浪者になるかならないかは、お前たちの蓄え次第だろ?」


「われらは私物など一切持たぬ! いわば無一文じゃ」


 そこで、無一文ですと力いっぱい言われてもな。こいつは困ったな。


「魔術書やら、魔術を教授きょうじゅするのに相当高い金をとっていると聞いているがその金はどこにいってるんだ?」


「そんなものは、みんな魔術の研究に使っておる! それとギルドを運営するにも金を使っておる。われらは研究のために金を寄こせといつも言っておったが、召喚の賢者が一人でそこらあたりを取り仕切っていたので詳しいことは知らん。

 われらは魔術の深淵に触れるため常に研究を続けておるのじゃ。いまも研究の途中でな。そろそろ良いかの? われらがここを出ていくことはできぬ相談だが、ギルドのことは任せたから、おぬしたち勝手にするが良い」


 そういって、ばあさんと残りの四人がそれぞれの塔に帰って行った。


 ジジババたちは基本的に研究バカなだけで悪い連中ではなさそうだ。そのぶんどうもやりづらい。


 年寄りを着の身着のままで通りに放り出すのも気が引けるしな。


「なんだか、話しが変な方向に流れていってしまったな。老い先短そうなジジババをここから放り出すわけにもいかないし、とりあえず、トルシェ。お前がここのトップになっとけよ」


「えー、ダークンさんがやってくださいよー」


「俺は魔術なんか使えないんだからマズいだろ。トルシェが魔術のトップだと認めたから連中がここを任せたんだから。

 今のばあさんの話を聞くに事務方というか、ここの運営を任されているヤツがいるはずだから、まずはソイツと話をつけよう」


「仕方ないなー」


「ダークンさん、私がその人物を探してきます」


「アスラン。頼んだ」


 アスランは働きものだなー。それに引き換え、この天才児は最近不平不満が溜まってるんじゃないか?



 しばらく広場で待っていたら、アズランが一人のおっさんを連れてきた。


「私が、当ギルドの事務長を務めている者です。新しく評議会の議長になられた、えーと、」


「そこにいる、トルシェだ」


「トルシェさまですね。了解しました。何か私共に評議会議長さまから指示がございますでしょうか?」


「トルシェ。何かないか?」


「そうだ、ここのギルドには現金はどのくらいあるのかな?」


「当ギルドの金庫内には、金貨で二万枚ほどあります。そのほかに商業ギルドの方に三百万枚は預けております。非常に心もとない預金額ですが、どうしても魔術研究にはお金がかかるようで、努力はしていますが、なかなかお金は増えません」


 金貨三百万枚といったら相当な額じゃないのか? やっぱり儲けてるなー。


「フフフ、その預金は議長のわたしが勝手に使ってもいいんだよねー?」


「いえいえ、それはできません。余裕があればある程度使えますが、既に預金のほとんどは各塔の研究費として割り振られておりますので、議長といえども勝手には使えません」


「うーん。議長にはなにもうまみがないの?」


「十年ごとの予算作成の時、かなりの裁量権が与えられます。次の予算作成は八年後です。

 前議長は? ……。跡形もないようですね」


 先ほど前議長がお亡くなりになったばかりなのに、この事務長はいやにあっさりしてるな。


 さきほどの原色のジジババもあっさりしていたが、ここにいる連中は変人ばかりなのだろう。


「それでは議長の執務室にご案内しましょう。前議長は召喚の塔の責任者でもありましたから、新議長は召喚の塔の塔主もお願いします。

 議長の執務室は本館にありますので、こちらにどうぞ」




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