第89話 悪魔を尋問


 檻に入った悪魔が明後日あさっての方を向いて何かしゃべっている。近くに誰もいなかったら一人相撲。滑稽だ。この状態をビデオにとってこいつに見せてやりたいところだ。


「それでは悪魔に質問、その一!」


 俺がそう言ったとたんに、悪魔の声が聞こえてきた。


「やっと、外の声が聞こえてきた。

 我をここから出してくれたら、どんな望みでもかなえてやろう」


「アッハッハ。どんな望みでも叶えられるなら、その檻から簡単に出れるんじゃないか?」


「ぐぬぬ。では、言い方を変えよう。この世の栄耀栄華を極めさせてやろうではないか」


「ほんとかー? 栄耀栄華とか具体性のないことはいいから、通信衛星を飛ばして正確な位置情報がわかるスマホが欲しい。ちゃんと無料でゲームができるヤツな」


「えっ? 通信、衛星? 位置情報? スマホ? 無料ゲーム?」


「ほれみろ、俺のたわいもない望みも叶えられないじゃないか」


「ぐぬぬ」


「それじゃあ、俺の質問に答えてもらおうか?」


「質問に答えるだけでここから出してくれるのか?」


「お前はバカか。そんなわけないだろ!」


「それじゃあ、質問に答えられない」


「ふん。おまえがそう言うだろうとは予想済みだ。とりあえず、俺の質問を聞いてから答える答えないを決めろよ。まずはここはどこだ?」


「それくらいなら答えてやっても良い。ここはゾーラ・ポリスにある大神殿に出入口を持つハイデン迷宮の浅層だ」


 やけに態度のデカいヤツだな。自分の立場が分かっていないらしい。今のうちに躾けてやらないと、将来他人さまに迷惑をかけるような半端者になってしまう。


 それはおいて、ゾーラ・ポリスとかハイデン迷宮とか言っているが、そいつは一体どこなんだ?


 俺が首をかしげていたら、アズランが、フォローしてくれた。


『ダークンさん。今思い出したけどゾーラ・ポリスというのはハイデンの都の名まえです』


『ということは『闇の使徒』の本山のあるところじゃないか』


 かなり遠いところのダンジョンが、あの鏡を通じて王都にあるあの邸宅に繋がったというのか。ちゃんとハイデン側の出口を出ると、『闇の使徒』の本山のある街にショートカットできるのなら、簡単に攻め込むことができる。なかなかいいじゃないか。見てろよ、いまに叩き潰してやるからな!


 しかし、ここを全部見てきたはずだが、あの鏡以外、外に通じているところはなかった。どこかにもう一つ、ああいった鏡があるのか、まだ見つけていない隠された通路があるのか?


「それじゃあ、悪魔に質問、その二!

 ここから、ゾーラ・ポリスに出るにはどうすればいい?」


「また簡単な質問だな。それも答えてやるよ。

 ゾーラ・ポリスに出る方法は二つ。その石棺の下に蓋があって、蓋を開けると階段がある。そこをりていくと、その先にダンジョンの黒い渦があるからそこに入れ。そうしたらゾーラ・ポリスにある黒い渦から外に出る。次回そこからその渦に入ると、本物のダンジョンにはつながらず、またそこの下に出るからな。

 もう一つの方法は、渦を通り過ぎてそのまま進むと、ゾーラ・ポリスの本物のダンジョンに繋がっている。そこから上を目指していけばいずれ出口の黒い渦が見つかるだろうよ。上を目指しての道順はわれもよくは知らぬ」


 テルミナでの俺たちの拠点への出入りとほぼ同じ仕組みだ。まさかこいつ、うちのノウハウを盗んでいないか? まあ、それはどうでもいいか。


「質問その三!

 お前、嘘はついていないよな?」


 こいつがこの質問にどう答えるのか興味があるぞ。悪魔的な答えを俺は期待してるんだから、期待を裏切るなよ。


「……」


 あれ? こいつ答えないのか? 考え込んでしまった。


「思うにお前たちの実力は我を上回っている。わかった、誓約しよう。我は真実しか話さない。今まで話したことはすべて真実だ。これでいいだろう?」


「誓約? 誓約ってなんだ?」


「我がお前の質問に対して嘘をついていたら、我は消滅する。これは悪魔の誓約だ」


「悪魔の誓約?」


「悪魔には悪魔の掟がある。誓約を破ることはできない。悪魔とはそういう存在だ」


 結局、この悪魔、俺の聞きたいことは全部喋ってくれた。しかも喋ったことは真実だったようだ。案外お人好しなのかもしれない。いい意味でこいつは期待を裏切ってくれたようだ。まあ、こいつの言っていることが全てうそだったら、俺の負けってことだがそれはないだろう。


「それじゃあ、次の質問だ。

 お前を呼びだしたおっさんは一体なんだったんだ?」


「我ら悪魔を召喚する儀式を行い生贄の魂を捧げて我を召喚した者だ」


「悪魔の召喚儀式は、召喚術での召喚と違うのか?」


「お前たちの言う召喚術での召喚では我のような本物の悪魔は呼び出せない。我らを呼び出すには定められた儀式の中で定められた生贄を捧げなければならないのだ。逆に言えば、術などという特別な技術は必要ない。ただ儀式の方法を知り生贄さえ用意すればいいだけだ。そこで、契約を行えば、それ以降の呼び出しには儀式は不要になる」


 こいつの話はいろいろためになるな。


「だいたいのことは分かった。あとの質問は、えーと、

 そうだ、悪魔はどうして、この世界に悪い意味で干渉するんだ?」


「干渉したくて、干渉しているわけではない。捧げられた生贄の対価として望みを叶えてやっているだけだ。その望みがたまたまこの世界に悪害をもたらしているに過ぎない。我らにとってこの世界などとるに足らない世界で、生贄の件を除けば全く興味はない」


『ダークンさん、悪魔の言っていることがまるっきり嘘だったとしても、なかなか面白いですね』


『こいつ、意外と役に立ちそうだな。そうだ! 

 トルシェ、この檻を持ち歩きに便利なように。もう少し小さくできないかな?』


『簡単にできますが、悪魔を檻に入れて持ち歩くんですか?』


『その通り。ここから一度、ゾーラ・ポリスとかいう街に出てみたいだろ? こいつが嘘をついているとは今のところ思っていないが、持ち運んでさえいれば、もしも嘘をついてたとしても、それはそれで面白いだろ?』


『さすがです』


『檻を小さくするのは、ちょっと待っててくれ』



「おい、悪魔、お前は今の大きさからどれくらい小さくなれるんだ?」


「大きさには制限はない」


「それはまた便利だな。それを聞いて安心だ」


 悪魔は俺の言葉を聞いて何か考えているようだ。好きなだけ考えてくれ。



『トルシェ、やっちゃってくれ』


『とりあえず、持ち運びに便利なように、三十センチくらいにしておきます」


『そのくらいならいいだろう』



「おいおい、俺の居場所が狭くなってきてるぞ。おい、どうなってるんだ?」


「おまえ、大きさには制限ないって言ってたろ? だから、持ち運びに便利なように檻を小さくしたんだよ。何か問題か?」


「持ち運び? まさか俺を持ち運ぶのか?」


「そうだが。お前、かなり暇そうだし、俺たちに付き合っても何も問題ないだろ?」


「……」


 これには何も返事がなかった。





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