第88話 悪魔捕獲


 優勢に悪魔と戦っているのだが、このまま一気に押し切ってしまうと悪魔が遁走してしまいそうなので、トルシェに魔法で悪魔を閉じ込める工夫を考えてもらった。


 頭のおかしくなったおっさんは今のところ無視だ。


『ダークンさん、魔法で檻を作ってみました。発動から檻ができ上るまでに少し時間がかかるので、直接悪魔に対して魔法を発動させてしまうと感づかれて逃げ出されると思います。それで発動ぎりぎりのところで止めた状態で、以前考えていた罠魔法と組み合わせました。気付かれないように悪魔を罠の方に誘導してください。こちらから見て悪魔の立っている右斜め後ろ、三メートルの場所に直径一メートルほどの罠を仕掛けます。罠に片足でもかかれば発動します』


 なんだかんだ言っても、やはりトルシェは有能な上に役に立つ。俺が戦っているわずかな時間で新しい魔法を完成させたらしい。


『……、よし! 設置完了しました』


『トルシェ、ありがとう。それじゃあこれから悪魔を罠に追い込む』


 俺の動きが不自然にならないように左側を強めに圧迫しながら、追い込んでやろう。


 左手に持つリフレクターはやや長めに持って悪魔に『ドン!』と打撃を加えていき右手にもつエクスキューショナーで『バシッ!』と斬撃を放つ。左のリフレクター2に対して、右の真っ黒い剣身のエクスキューショナー1の割合だ。


 悪魔は俺の目論見もくろみ通り斜め後ろに少しずつ下がっていく。


 ドン、ドン、バシッ!


 ドン、ドン、バシッ!


 三拍子で、悪魔を罠のある方向に追い込んでいくのだが、『ドン、ドン、バシッ!』が『ロンドン橋』に聞こえて、笑いがこみあげてきてしまった。今はフルフェイスのヘルメットをかぶっているため、俺の笑い顔が悪魔に気づかれなかったから良かったが、気付かれていたら、何か俺たちが企んでいるのではと勘ぐられたかもしれない。


 ドン、ドン、バシッ!


 のおかげで、無理に回り込まなくても、悪魔が俺から見て右後ろに下がっていく。それを俺も右前に出ていく形で圧迫し続ける。


 先ほどは、妙なところで笑いがこみあげてきたが、あと一歩悪魔が下がれば片足が罠に乗るところまで来た。そこで罠が発動するそうだが、俺にも罠がどこに仕掛けられているのかは見えていないので、罠が確実に発動するまで圧迫は継続する必要がある。

 

 おっと、悪魔の左足が罠のあるはずの床に触れた。


 そのとたん、一瞬だけだが床の上に魔法陣が青く輝いた。気付けば青く輝く円柱の中に悪魔が捕らえられている。中で大声を出して叫んでいるようだが、何を言っているのか何も聞こえない。音は漏れないようだ。悪魔は甘言を弄するかもしれないので、妙な言葉を聞かないで済む。こいつが俺が想像するような悪魔だとしての話だがな。


「トルシェ、この檻はすごいな」


「えへへ。頑張ってみました」


「アズラン、あそこでバラバラになった人形部品を喰ってるおっさんを連れてきてくれるか」


「はい」





 おっさんが、アズランに襟元を掴まれて引きずられてやってきた。バタバタしながらも口を動かして手に持った腕の部品を口に運んでいる。反対側の手にも何かの部品を掴んでいる。


 床に座ったおっさんは俺たちのことなどお構いなしに、手に持った腕を貪り食っている。俺はおっさんの前にしゃがんで、ガントレットをした右手で、おっさんの頬をはたいてやったら、口の中から、ベちょっと食べかけの部品が床の上に飛んで行った。


 それで初めて俺の方を向いた。


「おい、おっさん。俺たちがおまえの頼みの綱の悪魔とやらを捕まえたんだが、何か言うことはないのか?」


「……」


「おい、俺の言っている言葉が分からないのか?」


「……」


 おっさんの目は白く濁って死んでいるし、口からは血の混じったよだれが垂れている。何だか様子がおかしい。しかも、口の辺りからすごく嫌な、腐敗臭のようなものが漂ってくる。


「うわっ! くっさーい。こいつ、悪魔に魂を抜かれて体の中身が凄い速さで腐り始めてるんじゃないですか?」


「悪魔は後払いでいいとか言っていたようだが、このおっさんをだましたのかな?」


「罠にかかった時に、逃げようとする代わりに、とっさにその男の魂を抜いたのかもしれませんね」


「悪魔としてもタダ働きは嫌だものな。ただ、せこいヤツだな。

 しかし、いろいろ聞こうと思っていたがおっさんがこれじゃあ無理だな。

 トルシェ、悪魔に聞くしかないが、檻の内と外では音が通らないのか?」


「今は音を遮断しているのでどちら側からも音は聞こえません。音だけでなく檻の中から外を見ると、檻の内側は鏡にしていますから、檻の中からでは外のことは一切分からなくしています」


「それも凄いな。音だけ通じるようにできるか?」


「簡単です」




 俺は悪魔の相手をする前に、床に落っこちていたスティンガーを忘れないうちに拾って鞘に納め、


「さて、お待ちかねの尋問ターイム! その前に悪魔に本当のことを話させるにはどうすればいいと思う?」


 痛めつけて尋問ごうもんしたいのだが、悪魔が少々のことでは痛がりそうもないので、新たな技術の開発が急務だ。


「この檻の中の悪魔も、さすがに単純な暴力程度では音を上げないだろ?」


「そうですね。なんだろう? 生憎あいにく知り合いに悪魔はいないし」


「やっぱり、女神さまのダークンさんが祝福してやればいいんじゃないですか? ただ、強すぎる祝福だと悪魔そのものが消滅するかもしれないので、加減は必要と思います。聞きたいことを聞き終わったら、悪魔の名まえを言って祝福してやれば悪魔は確実に消滅すると思います」


「悪魔なんかはいない方がいいから、最後の後片付けは大事だな。しかし、このところ、祝福の出番が多いな」


 思い付きで始めた祝福だがことのほか重宝する。



「尋問中に檻が壊れて逃げられると困るが、この魔法の檻はどれくらいもつんだ?」


「これは、かなりもつと思います。込めた魔力はスケルトンちゃんの時の十倍くらい。あれほど複雑な魔法でもないのでおそらく三十年はそのままだと思います」


「そいつはちょっと長すぎる気するが、まあ、いいや」



「それじゃあ、悪魔に質問、その一」





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