第87話 悪魔サティアス・レーヴァ


 サティアス・レーヴァという固有名を持つ悪魔が現れた。思い出したが、真の名まえ、真名まなを相手に知られたら悪魔はいろんな意味で困るんじゃなかったか? 情報の取り扱いが雑だ。これでは、暗証番号を電話口で叫んでいるようなものだ。



 俺はそういったバックドア的なアプローチで相手を斃したいとは今のところ・・・・・思っていない。


 これだけは言っておくが、ピンチになれば汚い手だろうが何だろうが迷わず使う。命のやり取りだ、当然だよな。


 戦闘モードに入った俺は悪魔のスピードになんなくついていけるし、大鎌の大味な攻撃をかわしながら、悪魔にエクスキューショナーで斬撃を、リフレクターで打撃を加えていく。


 たいていの刃物は俺のリフレクターに数合も合わせられれば、折れてしまうか、刃先がボロボロになってしまうし、エクスキューショナーなら刃先が切り飛ばされてしまうのだが、サティアス・レーヴァの持つ黒い大鎌も俺の持つエクスキューショナーやリフレクターと同じように鍛えられているようで、今のところ壊れる気配はない。こいつを退治したら戦利品としていただいてやろう。


 悪魔の大鎌を持つ、常闇の女神! いい、これは絶対に絵になる。



 俺が悪魔サティアス・レーヴァの繰り出す大鎌の斬撃を左手に持ったリフレクターで受ける。その程度では俺の体勢は崩れないが、悪魔の方は俺の力に対応するため、やや引き気味に力をかける。そこで俺が力をやや緩めると、ほら、こんなふうに、悪魔は体勢がやや後ろに崩れてしまう。


 そこを右手のエクスキューショナーで切りつけると、悪魔のどこかしらに当たり切傷ができる。悪魔という輩は鎧を身につけるどころか、上半身裸でいるくらい皮膚だか筋肉が硬いようで、俺がエクスキューショナーで切りつけても四肢を切り飛ばすには至らない。逆にリフレクターを叩きつけると、悪魔の体のどこかにへこみができる。


 俺のつけた切傷からは赤い血が流れ出ている。こん棒のリフレクターをその傷口に叩きつけたり、悪魔が動くと血が周囲に飛び散るのだが、鎧の戦士の黒い液と同様、この血が当たると物が溶けてしまうようだ。もちろん俺のナイトストーカーは平気だし、ベルトに擬態中のコロもなんともない。



 悪魔との物理的戦いは俺の方が手数の多い分優勢で、どんどん悪魔の体にキズと凹みが増えていく。


 ときおり、俺の体に良い意味で異変が起こる。すっとさわやかな気分になったり、妙に体が軽くなったりするので、少しやりにくい。悪魔が俺に何かしらのデバフをかけているのだろう。


「お前には我の致死の呪いは効かぬのか? ハア、ハア……」


 デバフの正体は呪いだったようだ。信者の礼拝の次くらいに、呪い系統は大好物です。


 それはそうとこの悪魔、何気に息が切れていないか?


 悪魔も呼吸するのか。いま初めて知ってしまった。つまり、こいつは何かを口に入れて消化器官で消化して、取り込んだ栄養素を体内各所で分解してエネルギーを得ているということだ。なるほど、それではただの生き物じゃないか。食べているものが、人の『魂』なんかだとすると俺のこの発見は微妙になるが、毎日『魂』を食べているわけではないだろうから、きっと俺のこの発見は真理を突いている。ハズだ。


 そして、ダメージを受ける、呪いをかける、大鎌を振る。一連の動作でなにがしかのエネルギーを消費している。ならば、こうして叩き続けていれば、こいつは音を上げて逃げだす可能性もあるな。逃げ出すのをどうにかして封じ込めたいが、いきなりどっかから現れたようなヤツだ。どこに消えてしまうかも分からない。どこにもいかないように封じ込めるいい算段が浮かばない。


『二人とも、ちょっといいか?』


『なんですか?』『はい』


『ヤツは、いよいよヤヴァくなったらいきなり消えて逃げ出すと思っているんだが、何とか逃げないように封じ込める手立てはないものかな?』


『さっき壊した壺の蓋の上に描いてあった模様を参考にして考えてみます』『私の方は見当もつきません』


『トルシェ、頼んだ。アズランは気にするな。俺はもう少しこいつを削ってみる』



 二人と念話で会話しながらも、俺は悪魔に対して優勢に戦いを進め、悪魔の体をすこしずつ切り刻んで行く。



 悪魔と俺が戦っているあいだ、おっさんは何をしていたかというと、どうも部屋の隅でトルシェのファイヤーボールでバラバラになった人形の部品を床から拾って何かブツブツ言いながら無心に食べていた。いくら腹が減っているのか知らないが、かなり異常な光景だ。こいつは、こういった物を貪り喰っているところを見ると、グールってところだな。


 おっさんがブツブツ言っている内容が自然と耳に入ってきた。


「魂のカケラが、魂のカケラが、……」


 魂のカケラがどんなものなのかは知らないが、常識的に考えてバラバラになってしまった人体部品に魂のカケラなど残っていないだろう。自分が魂を抜きとったのだろうが忘れてしまったのだろうか? このおっさんとうとう頭までいかれたのか?


 そんなことを考えながらも、俺は悪魔に対し、斬撃と打撃を加えていく。すでに悪魔は防戦一方だ。確かにこいつは硬い。それだけは認めてやろう。


 戦いが単調になってきたので、何かしら技でも出してほしいところだが、その気配はない。相変わらず、俺の快感神経が刺激されているので、飽きもせず呪いっぽいことを続けているようだ。


 そして、悪魔は手数を稼げない大鎌を投げ捨てて、どこからか、二本の短剣を手にして俺の攻撃をしのごうとし始めた。今まで両手で持った大鎌でさえ俺の片手に押し負けていたわけだから、片手になってどうする?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る