第90話 鳥かごの悪魔


 悪魔サティアス・レーヴァの話を信じて階段を見つけようと、俺たちは石棺を動かすことにした。石棺の蓋は祝福したら簡単に動いたが、さて本体はどうだろう?


 石棺も蓋と一緒に祝福されていたようで、思った以上に簡単に動かすことができた。


 悪魔の言っていたとおり、石棺のあった場所には横長に穴が空いていて、穴の中に下に続く階段があった。



 悪魔サティアス・レーヴァを入れたとりかごの上には持ち手までついているので持ち運びが非常に楽だ。


 俺は檻をひょいと持って、


「それじゃあ、行こうか?」


「はーい」「はい」


 そういえば、何だかおつむがおかしくなってしまったおっさんは、放っておいて餓死でもさせようかと思ったが、ひょっこり王都側の出入り口から外に出られても困るので、階段を下りる前に首を刎ねておいた。この怪人は眉間縦割りでは何ともなかったが、首を刎ねたら、体全体が砂が崩れるように崩れて後に残ったのは赤黒い砂の小山になった。サティアスがおっさんの魂を抜いたのかどうかは聞いていないが哀れなものである。




「……、298、299、300」


 やっぱり三百段階段があった。初めて俺も数を最後まで勘定することができた。


 階段を上り下りするときに話しかけられなかったのが大きい。悪魔サティアス・レーヴァは観念したのか鳥かごの床の上で体育座りしておとなしくしている。


 階段を下りた先は、通路が広がって小部屋のようになっていた。その小部屋の先にも通路が繋がっている。小部屋の壁際にサティアスの言っていた通りダンジョンの黒い渦があった。


「まずは、渦の中に入ってみて、その先の様子を見てみるとしよう」




 最初に俺が黒い渦の中に入って向こうに渡る。


 俺が渦の中から出た先は、俺が想像していたダンジョンの出口ではなく、だだっ広い大広間の中のステージの上だった。ステージの反対側に近い左右の壁に扉もなく通路が開いていた。大広間の中は魔道具と思われる照明がたくさん取り付けられていたのでかなり明るい。


 その部屋の中には、今のところ誰もいないが、建物の中にはかなりの数の人がいるのが気配で分かる。


 部屋の中を見回していたら、すぐにトルシェとアズランがダンジョンの黒い渦から出てきた。


「あれ? 建物の中なんだけど、ここがダンジョンの出口?」


「あれれ?」


 二人とも、俺と同じく外部に開かれていたテルミナのダンジョン出入口辺りを思い浮かべていたようで、かなり戸惑っている。


 ダンジョンの渦を勝手に移動させてこの建物の中に入れてしまったのか? ダンジョンの渦の周りに建物を建ててしまったのか?


 ダンジョン出入り口の渦をそう簡単に動かせるとは思えないので、やはり後者が正解だろう。



 どちらにせよ、ここはどこなんだ?


「おい、変なところに出てしまったが、ここはどこなんだ?」


 左手にぶら下げた鳥かごの中の悪魔サティアスに聞いてみたのだが、


「我は黒い渦を通ったことがこれまで一度もない。渦同士がどこに繋がっているのか確認したことも無い。ただ、ここがゾーラ・ポリスであることは間違いない」


「なるほど、分かった。

 それじゃあ、この建物を出て『闇の使徒』の本山を探すとするか。しかし、この建物の持ち主はダンジョンの出入り口を私物化しているんだろ? とんでもないヤツだな」


「ダークンさん、ダンジョンを私物化できるって国か国くらいの権力がなければ無理ですよ」


「ということは、この建物は国の物ってことか?」


「もしくは、ハイデンで相当な権力を持っていそうな『闇の使徒』かも」


「ここがヤツらの本山の神殿かもしれないな。そうだとすると、えらい手間が省けたな」


「まだそうと決まったわけではありませんが、人の気配があるので、すぐに分かると思います」


「よそ者の俺たちがいきなり現れたら、すぐに戦闘になるんじゃないか?」


「ダークンさん。こっちが下手に出ても、向こうが仕掛けてくるようなら、いつも通りみなごろしでいいんじゃないですか。最低一人は私が死なないように確保しておきますから適当に暴れてください」


「もし、相手が『闇の使徒』だと分かるようなら初めから皆殺しでいいな。それ以外なら少し下手に出て、生意気なら殲滅だ」


 今のアズランと俺の会話を聞いた悪魔が、


「お前たち、いつも相手を皆殺しにしているのか?」


 とか聞いてきた。


「いつも皆殺ししてるわけないだろ。俺たちだって皆殺ししないこともたまにはあるぞ」


 トルシェもアズランも頷いている。これで俺の言ったことが本当だと分かっただろ。こいつには音しか伝わらなくて、外の様子を見ることができないんだったっけ? どうせ相手は悪魔だし、どうでもいいか。


「ダークンさん、サティアスも外が見えないんじゃ可哀かわいそうだから、外の景色くらい見えるようにしてやりますか?」


 どうした、トルシェ、仏心か? まさか、俺の知らぬに間に仏教徒にでもなったのか?


「どっちでもいいよ」


「どっちでもよくない。外を見せてくれー!」


 サティアスが自己主張を始めた。


「おまえなあ、その言い方は、ものを頼むときの言い方じゃないぞ」


「外を見せてください」


「じゃあ、トルシェ。そうしてやってくれ」


「はい。

 これで、周りを見ることができるようになったでしょ?」


「ありがとうございます。因みにこの檻もトルシェさんがお作りになった物なのですか?」


「そう。簡単だけど、別に居心地が悪いって程でもないでしょ?」


「はい、実に快適です」


 檻の中が快適なはずないだろ。実に調子のいいヤツだ。




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