第162話 久々のリンガレング、『神の裁き』


 王都を出発して五日目の昼過ぎ。峠を越えたところで前方の平野に広がるハイデンの都が見えてきた。


「タートル号、停止!」


 峠の上でタートル号を停止させ、いったん外に出て、ハイデンの都を観察する。


 都の真ん中あたりに『闇の使徒』の本山のあった丘が見えた。その先には城のようなものも見える。なんであれ、ここは廃墟になる。いや、廃墟も残さず破壊してやる。


 今回は、せっかくリンガレングを連れてきたので、今まで出番のなかったリンガレングに破壊させるとしよう。


「出でよ! リンガレング!」


 何も声に出す必要は無かったのだが、何となくノリで言ってしまった。


 キューブから出てきたリンガレングが、球体状態からいきなり一本2メートルはある八本の足を延ばし、八個の赤い目を光らせた。


「神滅機械リンガレング、推参すいさん!」


 俺がキューブから取り出してやったのだが、リンガレング的には推参したじぶんからやってきたことになるらしい。


 とはいえ、リンガレングは相変わらず空気を読んだノリのいいヤツだ。


「リンガレング、目の前に広がっている街を破壊してくれ」


「どの程度破壊しますか?」


「廃墟も残らないように徹底的に破壊してくれ。今まで見たことのない技があればそれで頼む」


「了解しました。リンガレング終末回路ロード。……。

 これより『神の裁き』を発動します。閃光が発生しますので、両目を手で覆ってください」


 これはすごいのが来そうだ。


 俺は明るいのは苦手なので、リンガレングの警告通り両目を閉じて手で覆った。


 その中で、リンガレングの声が聞こえた。


「『神の裁き』発動!」


 その声と同時に、両手で覆った目の奥に明るさを感じた。五秒ほどで明かりは消えたようだ。


 目を開けて見下ろすと、街のあったはずの前方には一面に砂漠が広がっていた。一カ所盛り上がっているところは、『闇の使徒』の本山があった丘に違いない。


「この砂漠は徐々に周囲を侵食します。ここも危険ですので退避を推奨します」


「リンガレング、どこまで砂漠は侵食するんだ?」


「今回はデフォルトモードで『神の裁き』を発動しましたので、直径で約千キロの範囲が五日ほどで砂漠化します」


「わかった。それだけ広ければ、この国全体も砂に飲まれて無くなるな。これで、白い粉がどうのというのも収まるんじゃないか? それじゃあ俺たちは用事も終わったことだし王都に帰ろう。思い出したが、ここにもトラン王国、いや、アデレート王国の出先があったんだよな?」


「たぶん帰還命令が出てて、もう国に帰ったんじゃないですか?」


「いまさら確認しても仕方ないし、俺的には帰っていたことにしてしまおう。いやー、運のいい奴らだったな」


 見ず知らず、かつ目の前でこの世から去ったかもしれない連中のことを持ち上げておいてやった。


「それにしても、リンガレングはやることは半端ないなー」


「見ごたえありますねー」


 リンガレングの八個の赤い目が順に輝いたような気がする。俺たちの会話を理解しているはずなので、喜んでいるのだろう。砂漠を背景にすくっと・・・・八本の足で立っているように見えるから不思議なものだ。


 黒ちゃんも鳥かごを持って俺たちの後ろに立っていたが、鳥かごの中のサティアスオウムは気のせいか震えているように見えた。悪魔が風邪をひくとは知らなかった。


「そういえば、サティアス」


「ハイ、ナンデショウカ?」


「お前のいた世界には、何か面白いものは無かったか? 俺の大神殿ができ上るまで暇になるからお前の世界を覗いてみてもいいかと思ったんだがな?」


「イイエ、メガミサマガオモシロイトオモエルヨウナモノハ、ワタクシノセカイニハ、イッサイゴザイマセン」


 なんだ、残念だなー。リンガレングを連れて行ってそこら中砂漠にしても面白いかと思ったんだが、それだけだと飽きてしまうものな。オウムになっているサティアスもオウムになり切って平坦な言葉で俺に受け答えしたところは評価が高いぞ。サティアスもようやく場の雰囲気というものを理解し始めたようだ。



「それじゃあ、セントラルに帰ろうか」


「はーい」「はい」


 リンガレングを球状にしてキューブに収納し、全員タートル号に乗り込んだところで、


「タートル号、セントラルに向けて、発進はっしーん!」



 ずいぶん片道で酒を飲んだが、いったん外に出て気分転換・・・・したらまた飲みたくなってきた。


「さーて、今度は酒盛りの後半戦だな」


「はーい」「はい」



 黒ちゃんに給仕をさせ、どんどん酒を飲んでお代わりしていく。黒ちゃんがいて実に酒がはかどる。


「ダークンさん、将来あのあたり一帯はハイデン砂漠とか呼ばれるのかなー?」


「どうだろうな。ハンデンなんぞ呪いの名前は残したくないから、世界の中心セントラルから見て西にあるから西の砂漠とか呼ばれるんじゃないか」


「そしたら、この前の北の方も、何も無くなっちゃたから、北の砂漠?」


「どうでもいいが、そうなんじゃないか」


 ジョッキで飲んでいたワインが空になったところでワインがなみなみと入った新しいジョッキを黒ちゃんが手渡してくれた。


「黒ちゃんありがとう」


「ダークンさん、ちょっと思ったんだけど、このまま飲み続けたたら、ダークンさんの権能に『飲酒』とか付きせんか?」


「それはない。お前たちの前以外でここまで大酒を飲んだことはない。ある程度飲んだのはどこかの宿屋で10時頃までだったじゃないか。とはいえ、権能はいくらあっても困らないから、『飲酒』の権能大いに結構」


「そのうち、『酒の女神』さまとか呼ばれたりして」


「それは困るぞ。だが、飲酒は止めない!

 ところで、トルシェ?」


「なんですか?」


「空間拡張でこのタートル号の中が広くなって使いやすくなったが、逆のことはできないか?」


「逆とは?」


「例えば、このタートル号の中にサティアスの鳥かごをわざと・・・置いておくとするだろ?」


 サティアスオウムが今ビクッとしたよな?


「そのあと、鳥かごをそのままにして、俺たちはタートル号の外に出る」


「はい」


「その後タートル号をリクガメサイズに縮めるとどうなると思う?」


「それはタートル号に合わせて鳥かごもサティアスも小さくなるんじゃないかな。実際、鳥かごに限らず部屋の中のものもみんな小さくなっているから元に戻した時に壊れてないし」


「あれ? そういえばそうだったな。俺の言いたかったのは、敵の周りを押し縮めたらどんな敵も一撃なんじゃないかと思っただけなんだがな」


「ある範囲の中にいるということだけで、中のものは範囲にとらわれて、その範囲を操作すると、中までおんなじことになるんですよ。大きくすれば大きく、小さくすれば小さく」


「そうなんだ。そうは言うものの何かに利用できないかな? そうだ! これまでいろんな巨人と戦ってきただろ?」


「はい。いろいろいましたねー」


「それで、巨人の胴体・・だけサイコロくらいまで小さくしたらどうなると思う?」


「頭と手足はバラバラ。いいですねー、それ。今度巨人が出てきたら試してみましょう。ただ、巨人が魔神並みだとレジストされるんでしょうね」


「そこは仕方ないが、それ以外ならいい線いきそうだろ?」


「ですねー。ウフフフ、楽しみー!」




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