第46話 乗っ取り


 通路の方もハウゼンくんの活躍かどうかはわからないが静かになったようだ。


 じじいは部屋の隅でうめいている。妙なものを垂れ流されては困るのでそろそろ処分するか。


「トルシェ、フェアに言って、じじいを処分させてくれるか?」


『はーい』


 通路に出ていたアズランのところからフェアが戻って来て、インジェクターでじじいを数カ所切りつけた。


 シュー。と音がするわけではないのだがそんな感じでじじいが生きたまま溶けていった。


 いい塩梅に溶けたところでトルシェがキューブに収納して片付いた。床がちょっと変色してしまったがそこは仕方がない。



 いやー、これでなんとか三人組の強盗団を捕まえることができた。苦労したぜ。


「おーい、アズラン、ハウゼンを連れてきてくれるか?」


『はーい』




 アズランとハウゼンが部屋に戻ってきたので、


「ハウゼンくん、喜びたまえ、きみの上司は俺の身代わりとなるべく先ほどあの世に旅立たれた。いやー、惜しい人を亡くしてしまった」


「そ、そうなんですか。会長が死んだんですね」


 ハウゼンが黒く変色した床を眺めているので、


「そこの床の上で、体中から泡を吹きだして小さくなってしまったな。じじいの体は片付けたけれどまだ床は湿っているから近よらない方がいいと思うぞ」


「は、はい」


「それでだ、本当はおまえを俺の身代わりにしようと思っていたんだがじじいが身代わりになったんで、おまえは殺さずにいてやる。ついでにここを仕切って俺たちのために働け、いいな」


「は、はい。死ぬ気で頑張らせていただきます」


「励めよ。それでだ、ここにお前より立場が上のヤツはいるのか?」


「はい、私の上にあと二人います」


「そいつらはどこにいる?」


「上の階にいると思います」


「おまえがこれから動きやすいように片付けてやるから、そいつらをここに連れてきてくれるか?」


「二人とも片付ける?」


「今そう言っただろう。おまえ、上を目指したいんだろ? そしたら考えることはないだろ」


 ハウゼンの目が据わったように見える。腹をくくったな。


「はい。一人ずつ連れてきます」


「うまくやれよ」



 ハウゼンが部屋を出ていき、俺はアズランに、


「そろそろ、コロの体液も無くなってきたろうから、フェアのインジェクターにコロの体液を塗っておこう」


 フェアが鞘からインジェクターを抜いたところで、コロの触手が伸びて、コロの黒い体液がインジェクターに薄く塗られた。


 これであと二人は楽勝で溶かせるだろう。


 待てよ、もう盗賊団は確保済みだから面倒なことをせずとも、コロに直接食べさせた方がはやいな。そうしよ。

 


 


『会長が俺になんのようだって?』


『先ほども言いましたが、折り入っての大事な用件だそうです。私はそれ以上は聞いていません』


 知らない男の声とハウゼンの声が聞こえてきた。


『失礼します』


 扉が開いて、二人が入って来た。


「会長は? お前たちは何だ?」


「ハウゼン、扉をしめてくれ」


 ハウゼンが俺の指示に従って部屋の扉をしめて、扉の前に立った。


「なんだ?」


「質問には、答えてやる。会長はさっき、俺のために遠い世界に旅立った。もう一つの質問は、俺たちが何かってことだな。一度しか言わないから良く聞けよ。俺は『常闇の女神』、そして、ここにいる二人はわが眷属、『闇の右手』トルシェと『闇の左手』アズランだ。いちおう半神デミゴッドになるんじゃないか」


 自己紹介と一緒に、後光スイッチオン!


「おっ!」


 ハウゼンにも初めてだったので、二人とも俺の神々しさに驚いたようだ。


「それで、お前を呼んだのは俺の都合だ。今日からハウゼンにここを仕切らせようと思っているから、お前は邪魔なわけだ。俺の言っていること分かるだろ? じゃあな、さよなら。

 コロ、あいつを食べちゃってくれ」


 俺の言っていることが全く理解できていなかったようで、男は神々しい俺を見ているだけで何もできずにコロに一瞬で跡形もなく吸収されてしまった。


 ハウゼンはコロの体液で溶かされて死んでいった連中を見て俺たちを恐れていたが、今回の死にざまをみて、俺たちに対する恐怖心と忠誠心は爆上がりしたんじゃないか?


「それじゃあ、ハウゼン、残った一人を連れてこい」


「は、はい」


 俺の指示で我に返ったハウゼンが部屋を飛ぶような勢いで出ていき、間を置かずもう一人残った上層部の男を連れてきた。


「……、じゃあな、さよなら」


 呆け顔の男がまた一人コロに吸収された。



「これで、ハウゼン、ここはもうお前のものだ。存分に働け」


「はい」


「そういえば、お前、リスト商会って知ってるか?」


「もちろん知っています」


「おまえのところで、体の具合の悪いヤツがいたら明日の朝そこに連れていけ。俺たちが、奇跡の力で治してやる。手足のないヤツも治せると思うぞ」


「そんなことが?」


「いままでお前は、われわれの恐ろしい面しか見ていなかったから疑問に思うのも仕方がないが、俺の権能は『闇』と『慈悲』だ」


「『闇』と『慈悲』」


 ハウゼンがゴクリとつばを飲む音が聞こえた。


「そういうことだ。そんじゃな。

 それじゃあ、二人ともそろそろ引き上げるか」


「はーい」「はい」


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