第45話 結局いつもの殴り込み
二人の男が一瞬のうちにグチュグチュに溶けて泡だらけの赤黒いゼリーのような塊りになってしまった。
あまりのことに、事の成り行きを見守っていた連中が歓声ではなく悲鳴を上げながら一目散に逃げだし始めた。
「おい、お前はああはなりたくないだろ?」
いまでは、男は真っ青な顔をしている。
「ああなりたくないなら、お前の事務所みたいなのがあれば俺たちを案内するんだ。いいな? 返事は?」
「は、はい」
大のおとなが固くなって震えてどうする? さっきまでの威勢はどこに行った?
「早く案内しろよ。ほら、もっとキビキビ歩け」
反社勢力の事務所へ男を先導させて連れて行ってもらうことに。
小道にいた連中はどこに隠れてしまったのか人っ子一人いない道になってしまった。
俺は勝手にこの男のことを反社勢力の構成員だと思っているが、実は優良企業の従業員である可能性もないわけではない。事務所を叩き潰した後でそういったことが判明するかもしれないが、過ちは女神さまの俺にもある。その時は草葉の陰で笑って許してくれればいいだけだ。
再起動した男は観念したようで、ちゃんと俺たちを大通りに面した事務所だかに案内してくれた。素直なことは良いことだ。場合によっては罪一等を減じる場合もあるかもしれないぞ。
「ここです」
男が案内してくれた建物は間口は狭いが、ここらでは珍しい五階建ての建物だった。
どこか日本の反社勢力の事務所っぽい建物だ。だからと言って親しみを持つわけではないが、まさにそれっぽい建物だ。両隣の建物に迷惑にならない程度に叩き潰してやるとするか。
俺たちを案内した男が、入り口わきに立っていた男に、
「客を連れてきた」
そう言ったら、入り口に立っていた男が俺たちに向かって目礼してきたので、案内男はここではいっぱしの構成員なのかもしれない。
男について建物に入ると、間口が狭かった分かなり奥行きがあった。
「さて、お前のところで一番偉いやつに会わせてくれるか?」
「はい。そこの階段を三階まで上がって、奥の方の突き当りが会長の部屋になっています。わたしはここで失礼してもよろしいでしょうか?」
「何言ってるんだ? お前が俺たちをその会長とやらに紹介するんだよ」
「そ、そんな」
「場所を聞いたからもうお前には用はないんだが、そんなに早くグジュグジュになりたいのか? そんならそれでも良いがな」
階段を上る男の足が震えていた。この世界には十三階段はないだろうが、そういう意味では十三階段を上っている心境なのだろうな。
男の後を三階まで上って廊下を突き当りまで歩いていった。
「会長、ただいま帰りました」
「ハウゼンか、中に入れ」
案内男の名前はハウゼンくんというらしい。
「会長に用があるというお客を連れているんですが?」
「客? 誰だ?」
俺が男を押しのけて扉を開けて部屋の中に入って行っていくと、部屋の中で小太りのちょび髭じじいが大きな机の後ろでふんぞり返って座っていた。人を見た目で判断することはあまり褒められたことではないが、典型的な悪人面のじじいだ。どうせなら、葉巻くらい咥えていてさらに悪人面に磨きをかけてほしかったぞ。
「誰だ! お前は? ハウゼン、どういうことだ?」
振り向いてみたら、そのハウゼンくんは俺の後ろに隠れるようにして下を向いてうつむいています。むべなるかな。とでも言うのだろうか?
「俺の名前をお前が知る必要はない。それで、じじいは、インチキ利息で金を貸して、返せない相手を奴隷として売っているのか?」
「ハウゼン、こいつらを痛い目に合わせてつまみ出せ! ハウゼン! どうした? さっさとしろ!
おーい、誰かいないか?」
じじいの叫びで、階段の辺りが騒がしくなってきた。
「じじい、俺の質問に答えろよ。
それから、ハウゼンくんは、ここにやってくる連中の対応を任せたから。若い連中をみすみす殺されたくはないだろ?」
「はい。頑張ります」
ハウゼンは居づらい部屋からすぐに廊下に出ていった。
「アズランはハウゼンについていって無理やりこっちに来るようなヤツを始末してくれ」
「はい」
「じじい。ハウゼンくんは俺のいうことの方を聞くようだな。ところで、じじい。さっきの俺の質問に答えていないが、肯定するということだな?」
「儂が何をしようが儂の勝手だろ。出ていけ!
早く誰か来ないか? こいつらをつまみ出せ!」
「おまえが何しようが勝手なのは認めよう。俺も俺の好きなようにやらせてもらうからな。いいだろ?」
俺がじじいと話していたら部屋の外、通路の方がうるさくなってきたが、ハウゼンがなんだかんだと言って、若い連中を帰らせていた。ハウゼンは自分たちと俺たちの実力差も理解しているようだし、少しは役に立つようだ。
それに引き換え、このじじいは全くダメだな。俺の身代わり決定だ。ここまで生きていたんだからもう思い残すことはあるまい。
「トルシェ、ここまでやって来たついでに、ここを乗っ取ってしまってもいいかもな。じじいの机かどこかにここの権利書みたいなのがあるかもしれないから、部屋の中を探してみてくれ」
「
机の後ろの椅子に座ったじじいなどお構いなしにトルシェが部屋の中を物色していく。
「こら! 何をする!」
「じいさん、邪魔だからあっちに行けば」
そう言ってじじいの座った立派な椅子をキューブに収納してしまった。もちろん椅子に座っていたじじいはそのまま尻餅をついてひっくり返っている。
「邪魔、邪魔」
いつものように、蹴っ飛ばし、踏んづけて邪魔者を部屋の隅に押しやる。
次は机の中の物色だ。いろいろなものが見つかったようだが、面倒になったようで、結局机ごとキューブに収納してしまった。
その間じじいは手首、足首があらぬ方向にむけて部屋の隅で転がっていたが、ごそごそ動いているところを見ると、一応生きてはいるようだ。
「こんなものかなー? 意外と金目のものが落ちてない」
「トルシェ、そこの壁にかかっている額の裏が怪しくないか? だいたいワルはそんなところに大事なものを隠しているんだ」
「また悪い癖で、壁に目が行ってませんでした。ちょっと待っててください。……、よっと」
壁にかかった額縁をトルシェが取り外すと、壁に大きな窪みがあり、そこに立派な金属製の箱はまっていた。この世界の金庫のようなものかもしれない。
「ダークンさん、重そうなので手伝ってくれますか?」
「はいよ」
金属箱を壁の窪みから引きずり出そうと箱の両脇に力を込めて引っ張ったら、壁の方がメシメシいい始めた。どうやら、箱は壁と一体になっているようだ。ということは、扉だか、蓋はこっちの面になるのだろう。こうなったらコロの出番だな。
「コロ、そこの箱の手前側を食べてくれるか?」
俺の腰のベルトに擬態中のコロから触手が伸びて、金属箱のこちら側がきれいになくなった。
中に入っていたのは、金貨がぎっしり詰まった布袋が五つと書類の束だった。おそらく権利書の
「フフフフ。フフフ」
トルシェは久しぶりの大漁でご機嫌のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます