第24話 『闇の使徒』祭壇
キノコの
「次は真ん中の扉を開けるぞ。
ちゃんと注意して扉を蹴破ってやった。
ガシャーン! ガガガー。
と、枠から外れて飛んで行った扉が、床の上に落っこちて表面を削っていくような音がした。
ぶち破った扉の先を見ると、通路の天井には10メートルおきくらいに一つ照明がついている。その照明が六つは見えるのでこの通路はかなり長い。この通路の天井は高いようで、俺がトルシェを肩車する程度では手は届かない。後ろを歩くトルシェが、チェッ! とか舌打ちしていた。
「ダークンさん、先にいって様子を見てきます」
アズランはそう言って駆けだし、あっという間にどこかに見えなくなった。この積極性をトルシェに望むのは無理なのか?
気が付けば後ろの方で、何か硬いものをパリポリ食べてる音が聞こえてきた。まさに不良社員の鑑だ。
食べ歩きトルシェと二人でアズランの後をゆっくり追って通路を進んでいたら、いくらもかからずアズランが戻ってきた。
「この先の扉が重たかったんですが何とか動かすことができたので、中に入って様子を見てきました。扉の先は天井の高い大広間になっていて、かなりの人数の覆面をした連中がなにやら儀式のようなことをしていました」
「儀式中か。俺たちがこれだけ騒いでもお出迎えに出て来たのは、あのゾンビ・ネクロマンサーだけだったものな。もう少し本腰を入れてもらわないと、ここまで出張してきた意味がないぞ」
「アズラン、儀式というくらいだから、何かピカピカしたものは置いてなかった?」
「遠目だったから、金なのか真鍮なのかは分からないけれど、それなりに立派な燭台みたいなのがあったよ」
「良かったー、今日もタダ働きかと思った」
そこまで言うかね。
「ダークンさん、誰に向かって
「強いて言えば全世界の潜在信者に向かってだな」
「ダークンさんの言っていることはよくわかりませんが、面白そうだからその儀式とやらをメチャメチャにしてやりましょう」
「どうせ俺たちの『闇』をかたる『闇の使徒』の儀式だ。もとよりそのつもりだったが、メチャメチャと言っても単純に皆殺しにすればいいだけだろ?」
「結局それになっちゃいますよね。やっぱり」
「そういえばダークンさん、一番奥の正面にどっかで見たようなでっかい像がありました」
「どっかで見たとは?」
「あの邪神そっくりの像でした」
「『黄昏のアラファトネファル』か?」
「そうだと思います」
「物語的展開だと、儀式で邪神を復活させようとしているんだと思うが、まさかあいつが
「わたしも。あれはもういいな」
「私もです。リンガレングを連れていないから、ちょっと相手はしたくありません」
「そうだよな。連れてきとけばよかった。まあ『闇の使徒』を根絶やしにしてしまえばアレが復活することはそうそうないだろう。俺があいつの魂を養分にして神化した、みたいなことをリンガレングが言ってたしな」
「いえ、リンガレングは、ダークンさんにあいつの魂を振り分けたとか言ってました。まさかダークンさん、自分のことを『常闇の女神』とか言ってますが、実は『黄昏のアラファトネファル』の生まれ変わりってことはないですよね?」
「トルシェ、怖いこと言うなよ。おまえだって俺が進化した時の様子を見てただろ? 神々しさと気品をたたえた俺が、どうしてあの
「トルシェ。ダークンさんがもしも『黄昏のアラファトネファル』の生まれ変わりだったら、わたしたち自動的にアレの眷属になるよ」
「えええー、それは嫌だ。ダークンさん、まちがってもアレにならないでくださいね」
「あたりまえだろ!
少し儀式の様子を見てみたいから、今回はひっそり中に入るぞ」
余裕の会話をしながら進んでいき、ようやく扉の前に立った。アズランが何とか開いて中に入ったというので鍵はかかっていないのだろう。見た目は大きな扉で重そうだ。
目の前の扉は高さが4メートルほど、幅も4メートルほどの金属製の両開きの扉で真ん中の左右に取っ手が付いていた。連中の儀式にもちょっと興味があったので、おとなしく取っ手を引っ張って少し開けてみた。
確かにアズランが言ってた通りかなり重い扉だったが、難なく開けることができた。
「ダークンさん、ナイト・ストーカーの血管模様が浮き出て目立ちますがいいですか?」
この部屋には気づかれずに忍び込もうと思っていたのでいい指摘だ。さすがはアズラン。
いったん全身鎧のナイト・ストーカーは収納しておいた。普段着はさっき脱いでナイト・ストーカーを装着したからいまは下着姿になったわけだ。裸族のトルシェでさえちゃんとした格好をしている中でのただ一人の下着姿なわけで、傍から見れば、かなりおかしな状況だ。
『殴り込みには下着姿は似合わない』
これは俺にとっての戒めでもあるしノウハウにもなるな。将来この俺の冒険がアニメ化されたらお色気シーンになるかもしれんぞ。
三人で中に滑り込み、扉を閉じてあらためて周囲を観察すると、俺たちの立っている場所は2メートルほど広間の床から高くなったところで、左右の階段で下におりるようになっていた。広間の中には200人ほどの覆面の連中がいて、前方のステージの上で繰り広げられている儀式を見守っている。
これから暴れる前に、
「トルシェ。この扉が簡単に開かないようにどうにかできないか? 中にいる連中が逃げ出さないようにしたい」
「溶かしてくっつけてみましょう」
「音とか光があまり出ないように頼む」
「了解。
えーと、音と光がでないとなるとちょっと難しいけれど、こんな感じでどうかな」
そう言いながらトルシェが、右手の『ビスマの手袋(注1)』をわざとキュッ、キュッっと鳴らして扉の隙間に向けて右手を広げた。
右手からは、生物に触れると相手を炭化させる『黒光の鞭』が放たれ扉のわずかな隙間をゆっくりなぞるように上から下の方に先端が移動していった。
見れば、上の方から扉の両側の金属が確かに溶けて溶着しているようだ。トルシェは一見不良社員ではあるが、できる社員であることには違いない。
「トルシェ。よくやった」
部下の頑張りにはちゃんと答えてやらねば、いい上司とは言えない。まあ、口先だけだし、口はタダだものな。
ようし、準備は整った。さーて、『闇の使徒』の諸君はどんな儀式をしてるのかな?
注1:ビスマの手袋
トルシェがはめている黒革の指ぬき手袋。弓の命中率、矢の飛距離がともに上昇する。
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