第20話 墓場にて
袋小路の奥の汚い建物の中には、麻薬『パルマの白い粉』で廃人になった連中が四、五人たむろしていただけだった。
先ほどの『パルマの白い粉』製造元の
きっとそうに違いない。というと、予断になってしまうが、これはおそらくハズレないだろう。何せ俺は女神さま。俺の予想が外れるはずはないのだ。
ただ『闇の使徒』連中とて廃人が大好きだから連れ去ったわけではないだろうから、廃人にも何かの使い道があるのだろう。
廃人の使い道? 廃人に残っているのは、わずかばかりの
早めにアズランと合流しないとな。
アズランのいる大まかな方向に向かってトルシェを伴って歩いているのだが、トルシェは歩きながら、今度はいつものピスタチオもどきを食べ始め殻を道に放り投げている。口の中で何やらブツブツ言っているが、食べながらなのでよくは聞き取れない。
アズランの大まかな位置と方向を追って大通りまで戻り、しばらく進んで、またわき道に入り、
目の前には胸くらいの高さの低めの塀に囲まれた敷地が広がって、そこには墓石のようなものが規則正しく並んでいる。誰が見てもここは墓地だろう。敷地の奥の方にはそれほど大きくはないが石造りの平屋の建物が一つ建っていた。その建物の脇にはあの荷車が混ざっているかどうかはわからないが、似たような荷車が三台ほど並んでいた。
アズランはどうやらその建物の辺りにいるらしい。
塀に沿って歩いていくと、少し先に門があり、
俺とトルシェが並んで敷地の奥の建物に続く墓石の間の小道を歩いていたら、急にアズランが現れた。
「ダークンさん、建物の中には地下へ通じている階段があり、覆面男たちは荷物の廃人を担いでその階段を下りていきました」
「ふーん、地下に秘密があるのか。行ってみよう」
合流したアズランを伴って、目の前の建物へ向かおうとして前を見たら、白いフード付きのローブを着た背の高い人物がいつの間にか目の前に立っていた。フードを
そいつが、両手を広げながら手のひらを上に向けて、ブツブツ口の中で唱え始めた。有無を言わさず殴り倒しても良かったが、面白そうなのでトルシェとアズランを止めて、様子を見守ることにした。
「ダークンさん、地面から手が何本も生えてきました」
「ほんとだ、あれって死体の手だよな?」
「中から何か出てきましたよ。うわー、腐りかけの死体だー。くっさーい」
墓場の地面の中からうごめきながら現れたのは、わが懐かしのゾンビだった。そのゾンビがえっちらほっちらよろよろと俺たちの方に向かって歩いて来る。今となってはこの臭さも、クサヤの干物みたいで懐かしい。
俺まで、怪人物のマネをして、両手を広げ、
「おー! ゾンビーズ。
「ダークンさん、なに訳の分からないこと言ってるんですか? こいつらどうします?」
「切り飛ばしたくらいじゃどうにもなりそうにないから、燃やしちゃえばいいんじゃないか? 普通にファイヤーボールで吹っ飛ばしてしまってもいいし」
ゾンビもミイラのようにカラカラのもの、ドロドロに腐って骨が出ているもの、まだ死んで間もないのかフレッシュなものまで千差万別。別に欲しいわけではないが、
「それじゃあ、軽くファイヤーボールで、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、……」
トルシェが口で「ダ」というたびに小型のファイヤーボールがゾンビに放たれる。
すべてゾンビに命中するのはいいのだが、当然のごとくゾンビはファイヤーボールの小爆発で簡単に吹っ飛ぶ。それも部品をバラバラとまき散らせながらだ。
飛び散った部品が俺の大切な普段着をベチョベチョに汚していく。ここで、ナイト・ストーカーを装着してしまうと、汚れた普段着を中に着込むことになるので今はまだ
アズランはどういうふうにしているのかは知らないが全く汚れていない。
もちろん部品の雨は、俺たちの前に立っている怪人物にも降っている。白かったフード付きのローブも赤黒いしみで見事なまでに汚れてしまった。一緒や一緒や!
あらかたのゾンビは片付いたようだが、墓地内は、ゾンビがよみがえってできた穴ぼこと、ものすごい臭気で覆われてしまった。
最初は懐かしかったこの臭いも、ここまできついと不快だ。俺が軽い気持ちでファイヤーボールで吹っ飛ばせと言ったのも悪かったが、やっぱりトルシェのヤツのせいだ。そのトルシェを振り向くと、
うわっ! トルシェのヤツ、えずいてるよ。
アズランは知らぬ間にどこかに消えていなくなってた。素早い。
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