第21話 墓場にて2


 白ローブの怪人がゾンビを操って俺たちに襲い掛からせようとしたのだが、それをトルシェがファイヤーボールの連射で文字通り粉砕してしまった。


 飛び散ったゾンビのくっさい部品が俺の普段着にびっしょりついてしまい。非常に不快だ。


 目の前の怪人は、アッという間にゾンビが全滅してしまった上に、着ていたフード付きの白いローブにゾンビの成れの果ての赤黒い肉片がいたるところにベっちょりついてしまい、非常にみっともない有様になっている。こいつが今どういう顔をしているのかはフードが邪魔で分からないが相当焦っているんじゃないか?


「あいつは、死霊術師ネクロマンサーってやつなのかな?」


「さあ、死体を操ってたみたいでしたから、そうなのかもしれませんが、私は実物を見たことはないのでよくは分かりません」


「ダークンさん、どうします? っちゃいますか?」


 俺は服に付いた汚れを、指ではじきながら、


「ここが何なのか聞いてみたいな。

 おい、そこの白ローブ、ここは何なんだ?」


 死体が底をついたネクロマンサーは、俺の問いかけには答えず、建物の中に逃げ込もうと踵を返したのだが、そこにはアズランが短刀『断罪の意思』を抜いて待ち構えていた。


 アズランが短刀を一閃して、怪人のフードを切り裂きそのまま首筋に刃先を当てた。


 俺から見えたのは、後ろ姿の長い金髪だけで、相変わらず男か女かわからなかった。


「おい、もう一度だけ言うぞ。ここは何なんだ?」


「……」


 白ローブは何も言わない。


 拷問みたいな手間をかけてまで聞くようなことでもないし、何も言わないなら用はない。死体で遊ぶような奴だ。自分が死体になって、楽しく余生を過ごしてくれ。


 俺がうなずいたのを見たアズランが、『断罪の意思』を無造作に横に払ったら、そいつの頭が残っていたフードごと地面に転がった。


 不思議なことに、泣き別れた胴体からも、首からも血が流れ出ない。胴体の方は倒れることもなくそこに突っ立ったままだ。


 こいつ自身がゾンビだったのか? 最初から余生中のヤツだったとは恐れ入った。少しだけだがこいつを見直してしまった。


 などと思ってゾンビを見ていたら、突っ立ったままの胴体がなぜか再起動して、転がった自分の頭を拾ってちゃんともとの位置に戻したら、くっついてしまった。


 ほう、これは面白い。


 頭が元に戻ったところで、


「こいつは面白い、アズランもう一度こいつの頭を切り飛ばしてくれ」


 もう一度切り飛ばされた頭を、先に俺が拾って、ゾンビの体につなげてやった。ただし前と後ろが逆だ。


 それでもすぐに頭がくっ付いてしまった。さて、こいつはどこに向かって歩いていくのか。ワクワクが止まらない。


「ダークンさん、遊んでるけど、その服着替えませんか? かなり臭ってるんですけど」


「悪い悪い。トルシェもアズランもスケルトンだった時の俺しか知らないだろうが、スケルトンになる前は俺はゾンビだったんだ。それで、ちょっと懐かしかったのと、トルシェほどこの臭いが嫌でもなかったからな」


「へー、ダークンさんも苦労してたんですね」


「苦労というほどでもなかったがな。さて、この服についたゾンビの破片は先にコロに綺麗に食べてもらってから、ナイト・ストーカーを装着するとしよう」


 コロが無数の触手を伸ばして俺の普段着にくっ付いたゾンビの破片をすっかり食べつくしてくれたのだが、浸みこんだ腐汁のシミは少し残ってしまった。仕方ない。これだと匂いも残っているようなので、やはり脱いでからナイト・ストーカーを装着することにした。


 服を脱いで『装着』と言おうとしたところで、トルシェが、


「そういえば、以前布製の鎧下をダークンさんに買ったけど、それは着けなくていいんですか?」


「暑苦しそうだし、すれるわけでもないから、今まで通りでいいだろ」


 そう言って、ナイト・ストーカーをいままでどおり下着の上から装着してしまった。


 脱いだ服はもったいないのでキューブに入れておいたが、おそらく死蔵しぞうになるな。


 俺たちが話しているあいだ、体が後ろを向いて頭が俺の方を向いた怪人がよたよたと俺の方に向かって歩いて来ていた。


 そろそろこいつと遊ぶのにも飽きたので、鞘からエクスキューショナーを引き抜いて頭の上から股間まで一気に縦割りにしてやった。左右に泣き別れた胴体はそれでもまたくっつこうと片手片足でバタバタやっていたが、トルシェが『黒光のムチ(注1)』を打ち付けて炭に替えてしまった。


 念のため、コロにその炭を食べさせても良かったが、きみが悪かったのでそれはやめて、ナイト・ストーカーを着た俺が粉々に踏みつぶしてやった。




注1:黒光のムチ

トルシェの魔法。対象の水分を蒸発させ炭化させる。真っ黒い太字のマジックインキで書いた線のように見える。

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