第118話 ヤルサ戦


 タートル号の中で睡眠もとらず丸三日、酒盛りをしているうちに、思っていたところとは別の場所に出たようで、そこにたまたまいた敵の別動隊を取り敢えず叩き潰すことができた。変な場所に出たのは逆にラッキーだったようだ。


 先ほどのメテオシャワーで溶けて固まった砂を浴びた関係で、大事な俺の普段着に孔が何個所も空いていた。火傷などは全くないのだがこんなことをしていたら服が何着あっても足りなくなるので、新しい普段着に着替えて、ナイトストーカーを装着し、ヘルメットだけはキューブに収納しておいた。準備よーし!


「それじゃあ、南へ向けて出発しゅっぱーつ!」


 タートル号の甲羅が砂の地面から持ち上がり、甲羅の中がテンポよく揺れ始めた。


 タートル号は砂の上に足跡を残しながら南に向かっていく。


 目的地まで五十キロということは、二時間もせず到着することになる。それだと飲むならじっくり飲みたい俺としては中途半端な酒盛りになってしまうので、応接セットのソファーに座って次の作戦を考えることにした。


 敵がまだ国境の城塞の街ヤルサに到着していなければ、俺たちはそこから敵を求めて街道上を西進していく。


 もし、敵がヤルサの街にすでに到着して、戦端が開かれていた場合。


 敵は街の城壁にとりついているだろうし、最悪市街戦が行われている可能性もある。そうなったら『神の怒り』や『メテオシャワー』のような範囲攻撃の大技は使えないので、個別に対応することになる。いつもの殴り込みだな。


 作戦とも呼べない大まかな作戦を決めたら、何もすることがなくなったので、前の方にいって覗き穴スリットから外を眺めていることにした。




 タートル号が砂漠を南に進むにつれて、灌木が目立つようになり、そのうち木立の繁る普通の森が始まった。


 タートル号は進行方向の立ち木をなぎ倒しながら、直進していく。


 バリバリ、ドー、ギリギリ、ドー。


 今まで、酒盛りをしていた関係で立木がなぎ倒されていく音だけは聞いていたがどんな塩梅なのか気にも留めなかったが、前方のスリットから見てると、タートル号は結構な太さの木も簡単になぎ倒していく。


 何馬力ぐらい出ているのかは分からないが、大型の戦車でも大木はなぎ倒せないんじゃないか? そうすると、二、三千馬力は出てるってことか? こんなのを百台も作ったら、信者たちを使って世界征服できそうだ。大神殿ができ上って暇になったら、世界征服をするのも面白いかもしれないな。


 ギリギリギリ、ドー、バリバリバリ、ドー。


 タートル号が目の前の木を数本なぎ倒したら急に視界が開けた。草原の先に畑が広がりさらにその先に城塞が見えてきた。


 あれ? もうやってるぞ。


 ヤルサの城壁に向けて、三百メートルほど西に並んで設置された五台ほどのどでかい投石器(注1)から、一抱えもあるような丸石が放物線を描いて撃ち込まれている。


 この展開は予想していなかった。


 俺が今まで考えていた戦況の予想は全部外れてしまった。やるな、敵の軍師。


 確かに遠距離攻撃で守備側をすりつぶしていけば損害は少なくなるのだろうが、攻略までに時間がかかるだろうに。兵隊たちだって一日経てば一日分の食料を消費する。時間は無駄にはできない思うぞ。


 目の前で展開されている戦いは、何かの戦争ゲームの一シーンのようで実に面白い。ずーと眺めていたいが、そろそろ、城壁の真ん中にある大きな城門が丸石で破壊されそうだ。もう二、三発、丸石を喰らえば間違いなく扉が破られる。城壁の各所にも丸石は降り注いて、崩れかけている個所もある。


 敵側の遠距離攻撃に対して、守備側は大型のクロスボウ(注2)で反撃するが、距離を稼ぐため斜めに打ち上げられた槍のようなクロスボウの矢クロスボウ・ボルト明後日あさっての方に飛んでいって、まったく投石器に命中しない。関係ないが、大型のクロスボウの名前がまた出てこない。何だっけなー。


 攻撃側も城塞側も、遠距離攻撃魔術を使える者はいないようでいまのところ派手な魔術が飛び交ってはいない。


 敵側はかなり広く布陣しているが、敵味方はっきり分かれているので、俺たちからすると、いつでも敵を文字通り殲滅できるチョロイ状況だ。敵の布陣の後方には大きなテントのようなものもたくさん建っているのが見える。敵は攻城戦だけあって長期戦も視野に入れているようだ。


「国境はどの辺りにあるんだろ? そこの城塞が国境の上に建ってるのかな? 峰とか河なんかが普通国境になるだろ? ここには河なんか見あたらないし、少なくとも平地だから、ずっと先の方に河があるのかな?」


「そうじゃないですか。ここら一帯は穀倉地みたいだしどこかに水源があると思います」


「どれだけ河から離れているのかここからじゃ分からないけど、やっぱりそうだよな」


 近くに河があれば河原もあるだろうし、投石器の弾には不自由しなくて済むかもしれないが、河を背にして布陣するとは、敵の軍師も大したことないな。フフフ。


 世の中には、後がないから死に物狂いで戦うという『背水の陣』とか言う言葉があるが、そんなのは、それ以外の要因もちゃんと仕込んだ上で、それでようやくうまくいっただけの話だ。何の手当もなく形だけの『背水の陣』など敷けば、文字通り全滅、皆殺しだ。


 俺たちにかかれば、いずれにせよ小手先の戦術など何の役にも立たないし、自ら袋の中に飛び込んで来る者は容赦なく袋ごと叩き潰すだけだ。





注1:どでかい投石器

トレビュシェットhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%88


注2:大型のクロスボウ

バリスタ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%BF_(%E5%85%B5%E5%99%A8)

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