第117話 メテオシャワー


『神の怒り! 黒雲マシマシバージョン』で敵を跡形もなく焼き払ったあと、三人で砦に向かって歩いていたら、砦から五人ほどの兵隊がこっちに向かって走ってきた。英雄をお出迎えか? おっと、そろそろ後光スイッチは切っておかないとな。


 先頭に立ってこっちに向かっているおっさんが、その中では一番立派な鎧を着けているのでそのおっさんが上役なのだろう。


「あのー、砦の前にハイデンの軍勢と思われる一団が集結していたのですが、先ほど眩い光の中で消滅しました。それはやはりあなたさまが?」


「その通り」


「御高名な、魔術師さまでしょうか?」


「いや、我は魔術師などではない。そこのわが眷属たるトルシェは、魔術師ギルドの現評議会議長、そして大賢者だがな」


「永らく、わが国の魔術師ギルドには大賢者さまは不在でしたが、その若さで大賢者さまに!」


「その通り。

 トルシェ、何か派手なパフォーマンスをして見ろよ」


「うーん、それじゃあ、派手めに、

 『メテオシャワー』!

 ちょっと時間がかかるけど、なかなか派手な魔法ですよ」


「これは、期待だな。

 ……、

 オッ!」


 真っ白に光り輝く星が雲一つない真っ青な上空に十個ほど現れたと思ったら、


 そいつらが、大きくなりながらものすごいスピードで、先ほど俺が焼き払った場所に降り注いだ。


 閃光が何度も起こり、ものすごい衝撃波と振動が襲ってきた。実際は流れ星の一個ごとに衝撃波が発生したのだろうが、十個が連なって落っこちたので、衝撃波は一つの塊となっていた。その後、


 ドドドドドドドドドドーン!


 と、重低音の爆発音と一緒に爆風と砂が俺たちを襲い、そのあと砂が溶けて固まった小さな塊が飛んできた。


 俺は最初の衝撃波も爆風も何とかこらえることができたが、砦からやってきた五人も含めトルシェ、アズラン、俺以外全員吹き飛ばされてしまった。


 ちょっとやりすぎだし、俺の『神の怒り』さえ霞んでしまうトンデモ魔法だ。トルシェの魔法のインフレが止まらない。


 アズランとフェア、それにコロコロマニューバのトルシェは爆風の揺り戻しを利用して何ごともなく俺の元まで戻ってきたが、砦からやってきた五人は砂の上で転がったままで起き上がってこない。


「トルシェ、思った以上に破壊力があったな」


「いえー、それほどでもー、エヘヘヘ」


 何を言っても相手はトルシェだものな。


「アズラン、悪いが『万能薬』であそこで寝っ転がってる連中を何とかしてくれないか?」


「はい。

 フェアちゃん、そういうことだから、『万能薬』をインジャクターにつけてあそこの五人を治してきて」


 アズランが開けた『万能薬』の瓶にフェアがインジェクターを突っ込んで、そのまま五人のところに飛んで行った。


 フェアが帰って来た時には、五人がもそもそ動き出したので、死んではいなかったようだ。


 五人はこれで放っておいても大丈夫。


 今のトルシェの『メテオシャワー』の衝撃で砦の一部も崩れたようだが、もともとこんな砂漠の中に建てられたものだから、おそらく安普請だったのだろう。大したことじゃない。



 しばらくして、いろいろなところが血だらけで見た目ボロボロの鎧を着た五人が俺たちの方になんとか歩いてきた。もちろん傷などはすでに治っている。ハズだ。


「先ほどは死んだかと思いました」


「トルシェの力を見せてやっただけが、ちょっとやり過ぎたようだな。少しケガをしたようだが、もう大丈夫だろ?」


「はい。最初の衝撃を受けた時、体が弾けたかと思ったのですが、気付いたら、体は血だらけにもかかわらず、どこもケガをしていませんでした」


「本当はお前たちは、死にかけていたんだが、わが奇跡の技で治してやったのだ!」


「奇跡のワザ? ということは、あなたさまは聖女さま?」


「ちがーう! そんな安っぽいものではない! 我こそは、『常闇の女神』だ」


 ここで、もう一度、後光スイッチオーン。


「女神さま?」


 五人の兵隊たちが怪訝そうなバチあたりな顔で後光をまとう俺を見る。


「あのな、ハイデンが攻めてくることを知って、お前たちでは太刀打ちできまいと我らがわざわざやってきて、先ほどその軍勢を我が焼き払ったのをお前たちも見たのではないか?」


「ハッ! そうでした。失礼しました。われわれの恩人、いえ、恩神おんじんのあなたさまを疑うような目を向けてしまい申し訳ありません」


「わかればよろしい。先ほど我が焼き払った軍勢はせいぜい五千ほどだったが、他にハイデンの兵は見なかったか? ハイデンからは二万の兵がこちらに押し寄せてきたはずなのだがな」


「いえ、見ていません。こことは別の道を通っている可能性があります」


「別の道とは?」


「ここから南へ五十キロほど離れたところにヤルサという国境に近い城塞の街があります。街は堅牢な城壁で囲まれているため、敵の本体はそちらに回っているのではないでしょうか?」


「街道沿い?」


「はい、ハイデンに続く本街道が通っています」


「それじゃあ、そこに見える道は?」


「この道は本街道の支道になっていて、この先大きく北に曲がっていき、ハイデン北部までつながっています。ハイデンの都へはかなりの大回りになります」


「そうなの?」


「はい。そうです」


 どうも、道を間違えていたらしい。まあ、ケガの功名で敵の別動隊を叩き潰したようだ。


「おそらく敵は、別動隊でこの砦を先に落とした後、南に向かい、後方をやくしてヤルサを孤立させる作戦だったのではないでしょうか?」


 なかなか、このおっさん、戦略眼があるようだ。


 ここから五十キロ、軍隊の行軍という意味では、最低でも二日はかかるはずだ。ということは、まだ、敵の本隊はヤルサとか言う街を攻撃してなさそうだし、これからタートル号で南に向かえば戦闘前に敵を叩き潰せそうだ。


 酒盛りも、無駄ではなかったようだな。






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