第116話 神の怒り! 黒雲マシマシ


 街道はしばらく西に向かった後、南西方向にいったん大きく曲がっていたのだが、その先から街道から支道が大きく北西に曲がって国境の砂漠地帯に向かっていたため、結局、真西に進んだタートル号は今ではその支道近くの砂漠地帯を進んでいる。街道の本道の方は現在のタートル号より五十キロほど南を東西に走っている。


 タートル号の進んだ後には足跡が真東に向かって続いていた。場所によっては立ち木などが密生していたが、タートル号は構わずなぎ倒しているので、倒木がその足跡の周りにコロゴロ転がっている。


 出発してしばらくして酒盛りを始めた三人だが、体力は無尽蔵だし寝る必要もない。酒を飲んで気分は良くなるが気持ち悪くなることなどないのだ。従って未だに酒盛りは続いている。


 国境まで馬車で一カ月はかかると言われていたが、タートル号の速度は馬車の約三倍。それが一日二四時間ぶっ通しで動き続けるわけで、実質的な速さは馬車の十倍近いことになる。





 出発して四日目の昼過ぎには進行方向やや左手に砦のようなものが見えてきた。ここが国境線なのかどうかは分からないが、敵もこの砦を素通りはしないだろうから、いずれここに現れるだろう。


「すぐ先に砦みたいなのが見えるが、ここはどのあたりかな?」


「そろそろ、国境かもしれませんね。向こうに見える砦が国境の関所かな。壊されずにまだ建っているということは、敵はまだここまで来ていないってことじゃないかな」


「そうなんだろうな。そんじゃあ、そろそろ酒盛りはお開きにして真面目にやろうか」


「はーい」「はい」


 応接セットのテーブルの上の片づけは、食べカスなどはその都度きれいにコロが片付けているので、酒の入ったジョッキを最後にあおって、皿の上の乾物を皿ごとキューブに収納すればいいだけだ。



 砂漠の上を道とも呼べないような道が砦の真ん中を通って西に延びている。ここが国境なら確かにこの国の関所のようなものかもしれない。


 予想以上にタートル号のスピードがあったおかげで、敵の侵入前にここまでやってこられた。


「トルシェ、目の前の砂丘の上でタートル号を停めてくれ」


「はーい」



 砂丘の上で停止したタートル号の覗き穴から眺めたら、なんと、そこから五百メートルほど先に軍隊が集結しているのが見えた。見た感じではせいぜい五千くらい。滞陣の準備をしていないところを見ると、このまま砦に向かって攻撃を仕掛けそうな感じだ。


 何も遮蔽物のない砂漠の中だ。砦から弓でも射ればそれなりに有効な攻撃になりそうだが、中に詰めている兵隊はいくら多くとも百人もいないだろう。一対五十では、数で押しつぶされるのは明らかだ。



 具合のいいことに敵は今のところかなり密集している。動き出す前に、殲滅してやれ!


 タートル号の中からでも簡単に敵を殲滅できそうだが、それをやってしまうと、女神さまのありがたさが誰にも伝わらない。やはりアピールするためにはパフォーマンスは大切だ。


「トルシェ。見た目が派手になるよう俺は下りて、敵を叩き潰す」


「りょうかーい」


 甲羅が地面に着いたところでハッチバックを開けて外に出た。


 トルシェとアズランも俺に続いてタートル号から出てきている。


 砦から見えるよう少し砂地の上を砦側に歩きながら、後光スイッチ、オーン!



 おっ! 砦の中から俺を見てなんか叫んでいる。何を言っているのか聞き取れないが、そんなのはどうでもいい。君たちは歴史の生き証人になってくれるだけでいいからな。



 行くぞ!


 仮面ライ〇ーになり切ったつもりで、腰をやや落とし、両手を揃えて一気に横に伸ばしてそれからぐるりとその手を半回転。私服ではちょっと締まらないが、素顔を見せる必要があるので、ナイトストーカーは無しだ。


「『神の怒り! 黒雲こくうんマシマシバージョン!』」


 今まで雲一つなかった青空が急に黒雲に覆われ、ハイデン軍の陣立て上空で渦巻き始めた。辺りは真っ暗だ。ときおり青白い稲妻が雲の中で光るので、黒雲がグルグル渦巻いているのが分かる。暗闇の中で、後光に包まれた俺の姿がひときわ目立っている。フフフ。アハハハ!


 ピカッ!


 黒雲の渦巻の中心からその下のハイデン軍の真ん中い真っ白い光の柱が立った。


 白い光はハイデン軍全体を瞬く間に覆いそして消えた。


 白光に眩んだ目が慣れてきて、目に入ってきたのは、うっすらと煙が上がった赤黒く溶融した地面だった。


 気付けば空で渦巻いていた黒雲が消え、青空が広がっている。


 赤黒く見えていた地面は陽の光の中、陰になった部分はまだ薄っすら赤く見えるもの全体では黒く見えるだけになった。ただ高熱のせいで地面は揺らいで見える。


「なかなかいい感じで決まった。敵の全軍が集まっていれば効率が良かったが、それは仕方がない。今回くらいでもある程度の数が集まっていたことはラッキーだったと思おう」


「黒雲の渦巻がカッコよかったですねー」


「さすがはダークンさん。迫力あったー。ところで、今の連中はハイデン軍だったんですよね?」


「たぶんそうだと思うぞ」


 そういえば確認はしていなかった。まあ、こっちの国の軍隊はまとまった数はここらにはいないと聞いていたから、よその国の軍隊だったハズだ。たぶん。


 おそらくハイデン軍だったにちがいない。いずれにしても、もう跡形もなく消えちまった以上考えても仕方ない。


「それじゃあ、砦の方に顔を出して、アピールしておくとしよう」



 俺たちが砦の方に歩いていくと、タートル号が俺たちの後を付いて来る。これはいい。いつでも乗り込めて便利だ。


 砦の方からも五人ほどの兵隊がこっちに走ってきた。英雄をお出迎えか?





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